宅建業法解説:宅建業者の業務に関する義務や制限について、前ページの続きをお話いたします。保全措置や損害賠償額の予定など、クーリング・オフ以外の残り7つを順番に見て行きます。簡単ですが、宅建業法の中では少し面倒なところですので、頑張っていきましょう!より詳しい解説はこちら:8種規制の完全解説
- 自ら売主制限-8種規制の宅建解説
今回お話する7つの制限は、以前にお伝えしました「クーリング・オフ」と併せ、「宅建業者自ら売主となる場合の8種規制」「自ら売主制限」などと言われています。
文字通りこれら8つの規制は、宅建業者自身が売主となる場合にのみ適用されます。そして更に、買主が宅建業者でない場合にのみ適用されます。つまり、「売主が宅建業者で買主が宅建業者でない場合」に適用されるというわけです。これは大前提ですので必ず覚えておいてください。買主も宅建業者である場合はこれらの規定は適用されませんのでひっかけ問題には注意してください。
■手付金等の保全措置
「手付金等」とは、契約締結日以後、当該宅地または建物の引渡し前に支払われる、代金の全部または一部として授受される金銭および手付金・内金・中間金等をもって授受される金銭で、代金に充当されるものを言います。簡単に、引渡し前に支払っておく契約金みたいなものというイメージでよいでしょう。
宅建業者は、保全措置を講じた後でなければ買主から手付金等を受領してはなりません。宅建業者が保全措置を講じない場合は、買主は手付金等を支払う必要はありません。その宅建業者が行う保全措置の方法ですが、次の3パターンがあります。
未完成物件の場合 → 1.銀行等による保証 2.保険事業者による保険保証
完成物件の場合 → 上記1.2に加え、3.指定保管機関による保管
この3つだけですので、軽く頭に入れておいてください。また、ここで重要なのは宅建業者の保全措置が不要となるケースです。次の2つ、特に2つ目はすごく重要ですので必ず覚えておいてください。
1.売買物件につき買主に所有権移転登記がなされたか、買主が所有権の登記をした場合。
2.受領しようとする手付金等の額が、
未完成物件の場合 → 代金額の5%以下であり、かつ1,000万円以下である場合
完成物件の場合 → 代金額の10%以下であり、かつ1,000万円以下である場合
■手付額の制限
手付といえば「解約手付」をイメージしてください。解約手付とは民法でも学習しましたが、契約に際して買主がある程度のお金を払い、買主はそれを放棄し、売主はその倍額を返すことにより契約を解除できるという約束ですね。要はキャンセル料です。
買主Aと宅建業者Bとの間でマンションの売買契約が成立した場合
買主のAさんが手付金として500万円を支払ったが、急な転勤が決まり契約をキャンセルしたい
→ 500万円を放棄すれば自分都合で契約をキャンセルすることができる
売主の宅建業者Bが手付金として500万円を受け取ったが、もっと高く売れるCさんを見つけたのでAとの契約をキャンセルしたい
→ Aさんに1000万円を返却すれば自分都合で契約をキャンセルすることができる
自分都合と言っても、もちろん相手の迷惑も考えず好き放題できるわけではありません。相手方が履行に着手したら解約はできないなど、より詳細は分かりやすい民法解説の「契約の解除」でチェックしておいてください。
また民法では解約手付の額について制限がありません。しかし買主保護の見地から、宅建業法では以下の制限があります。次の文章は短いですがとても重要です。
まず、宅建業者は代金額の10分の2を超える額の手付を受領することができません。10分の2を超える部分については無効となります(契約自体が無効ではない)。買主に不利な特約も無効です。また、保全措置ともしっかり区別しておいてください。宅建業者が2割までしか受領できないのは手付金についてだけで、中間金や内金についてはいくら受領しても構いません。
■瑕疵担保責任契約不適合責任
まず改正民法における契約不適合責任の原則として、新しいルールが不都合な場合、土地建物売買契約書でルールの修正が可能となります。改正民法による従来の瑕疵担保責任=契約不適合責任は任意規定ということです。しかし!宅建業者が自ら売主となる宅地建物の契約不適合責任は、改正民法の新しいルールがそのまま適用されます。契約不適合責任=任意規定の例外で、自ら売主となる宅建業者は、土地建物売買契約書で改正民法と別の記載をすることで改正民法のルールの適用を排除することはできません。
任意に修正することが許されない宅建業法の中で唯一許される任意規定(特約)は、おなじみの「種類・品質に関する契約不適合責任の通知期間を、引渡しから2年以上とする」特約です。従来から変わらず、宅建試験の頻出問題であるこの特約は有効です。これ以外は改正民法の原則に従うこととなります。
以下、改正民法の契約不適合責任の原則です。
改正前 改正後 買主の悪意 売主は責任を負わない 売主の責任対象となる 修補請求 不可 可能 代金減額請求 不可 可能 売主の悪意 瑕疵を知ったときから1年 不適合を知ったときから5年 売主の重過失 瑕疵を知ったときから1年 不適合を知ったときから5年
宅建業法では、この民法の規定を最低基準としています。この民法の規定よりも買主に有利な特約は自由で、買主に不利な特約は無効となります。「契約締結から2年」は無効ですが、例外として「引渡しから2年」は有効です。「不適合を知ったときから5年」とは消滅時効となりますが、詳しくは完全解説をご参照ください。
■自己所有に属しない物件の契約締結の制限
まず、自己所有に属しないとは、1.他人物 2.未完成物件 を意味します。宅建業者は、自ら売主として自己所有に属しない物件の売買契約を締結してはなりません。これに違反すると監督処分として業務停止処分が待っています(罰則はありません)。しかしそれぞれに1つずつ例外があります。この例外を覚えておいてください。
他人物の場合 → 将来、宅建業者のものになることが確実な場合
未完成物件の場合 → 手付金等の保全措置を講じた場合
宅建業者のものになることが確実な場合とは、宅建業者が物件を取得する契約(予約)を締結した場合などです。また未完成物件の場合、そもそも保全措置が不要となるケースでは、保全措置を講じることなく契約を締結することができます。
■損害賠償額の予定等の制限
ここからの以下3つはあまり重要ではありません。重要事項だけを箇条書きにしておきますので頭の片隅に入れておいてください。
宅建業者自ら売主となる売買契約において債務不履行を理由とする契約解除に伴う損害賠償額の予定または違約金を定める場合、その額は合算して代金額の10分の2を超えてはなりません(10分の2を超える部分は無効)。
■割賦販売契約解除等の制限
割賦販売とは、宅建業者への支払いを引渡後1年以上の期間に2回以上に分割して支払うことを定めた売買契約を言います。
宅建業者自ら売主となる割賦販売契約において割賦金の支払いがない場合、宅建業者は、30日以上の期間を定めて書面により支払いを催告し、この期間内に支払いがないときでなければ、契約の解除や残りの割賦金を請求することができません。
■所有権留保等の禁止
所有権留保とは、買主が代金の一定額以上を支払わないうちは、売主が所有権を買主に移転させない制約を言います。宅建業法では、この所有権留保による売買契約を禁止し、売主は引渡しまでに登記の移転等をしなければならないとしています。
しかし例外が1つあります(本当はまだありますがこれだけでいいでしょう)。「宅建業者が受領した額が代金額の10分の3以下である場合」この場合は宅建業者があまりにかわいそうなので引き渡しの必要はありません。また、宅建業者は代金額の10分の3を超える支払いを受け、物件の引渡しも終了した場合、担保目的で当該宅地建物を譲り受けてはなりません。これは少し重要です。
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