要素の錯誤から重要な錯誤に

宅建試験の民法解説:以前は「意思の欠缺(けんけつ)」というタイトルでしたが、民法改正に伴いまして、「意思の不存在」に変更いたしました。宅建試験での出題可能性は低めですが、簡単な心裡留保通謀虚偽表示、そこそこ重要な錯誤について見ていきます。より詳しい解説はこちら→心裡留保等の難問対策

心裡留保や錯誤等の宅建解説

心裡留保(しんりりゅうほ)

心裡留保とは、簡単に言うと冗談・自作自演です。例えば、売る気がないのに「売る」と言ったり、契約書に署名したりすることです。その効果ですが、原則的に冗談では済まされません。契約は有効に成立してしまいます。安全な取引のために、自分の言った言葉には責任を持てということです。しかし例外がありまして、相手方が、

表意者の真意その意思表示が表意者の真意でないことを知っていた場合(悪意)または、
一般人の注意をもってすれば知り得たはずだと見られる場合(過失)

は、その意思表示は無効となります。友人に100万円あげると言われ、それが冗談だったからと言って本気で怒る人はいませんよね。誰がどう見ても冗談だと分かる契約は無効となります!

また、心裡留保による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができません。こちらの第三者は善意でさえあればよく、無過失が要求されていない点に注意ですね。

宅建合格!心裡留保

通謀虚偽表示(つうぼうきょぎひょうじ)

通謀虚偽表示とは、簡単に言うと誰か他の者と一緒に行った真意ではない意思表示です。他人と通謀している点で心裡留保とは異なります。

例えば、AさんとBさんが売買契約をしました。Aさんは真意では売るつもりはなく、Bさんも買うつもりはありません。お互いにそのことを知っています。この場合は心裡留保の例外として、相手の真意を知っていたのですから、AB間の売買契約は無効となりますね。

では、何も知らないCさんが、Bさんからその物を買ってしまったらどうなるのでしょうか?AB間の契約は無効ですから、CさんはAさんに物を返す必要があるのでしょうか?いえ、この場合のCさんは民法によって保護されます。Cさんは善意であれば、Aさんに物を返還する必要はありません。Aさんは自業自得です。

ここで注意していただきたいのは、Cさんについて過失の有無を問わないということです。Cさんは、AB間の契約が虚偽表示であることを知らなかったのならば保護されます。注意すればAさんとBさんが何かを企んでいると気付くことができても保護されます。もちろんCさんが悪意の場合は話になりません。Cさんを保護する必要がないのは常識的に見て当然でしょう。

しかし、面白いのはDさんが登場した場合です。Dさんが更にCさんからその物を買ってしまった場合・・

・Cが虚偽表示につき悪意でも、Dが善意ならばDは保護される
・Dが虚偽表示につき悪意でも、Cが善意ならばDは保護される

2つ目は不思議ですね。なぜ悪意のDさんが保護されるのか?これはDさんを保護しなければ、善意のCさんが損害を受けるためです。CD間の契約が解除されたら、DさんはCさんに代金を返却するよう請求するでしょう。損害があれば賠償請求もするかもしれません。このように、善意のCさんを守るために仕方なくDさんを保護するのです。これは覚えておいて損はないかもしれません。
宅建合格!通謀虚偽表示
錯誤(さくご)

これは思いちがい、言いまちがいです。もっと簡単に言うと、勘違いです。心理留保や虚偽表示は、表意者自らが真意と食い違った発言をするのに対し、錯誤とは自分で食い違いに気付いていないというパターンです。

錯誤とは勘違いですから、表意者は基本的に悪くはありません。よって、表意者保護のために錯誤による意思表示は取消可能となります。しかし、取引の安全も無視できません。では、その調整をどうするか?

錯誤による意思表示が取消事由となるための要件が2つあります。

法律行為の重要な部分に錯誤があること(=重要な錯誤
表意者に重大な過失がないこと

つまり軽い勘違い、または明らかに注意が足りなかった場合は取消事由とはなりません。ただし、①相手方が錯誤について悪意の場合または重過失により知らなかった場合、②相手方も同じ錯誤に陥っていた場合、表意者は重過失ある錯誤の意思表示でも取り消すことができます。
心裡留保 表意者の帰責性が大きいので、第三者保護要件は善意で足りる
虚偽表示 表意者の帰責性が大きいので、第三者保護要件は善意で足りる
錯誤 表意者の帰責性が小さいので、第三者保護要件は善意無過失が要求される

尚、改正により「要素の錯誤」という言葉が条文から消えて「その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるとき」という長い文言に変わっていますが、便宜上「重要な錯誤」とさせていただきます。

改正民法により、内心で勘違いして契約してしまった場合(=動機の錯誤)も錯誤に含まれることが明文化されましたので、心裡留保や錯誤等の難問対策もご覧ください。

宅建合格!錯誤
また「無効と取消の総まとめ」のページに比較表を作ってありますのでそちらも参考にしてください。

では、次は詐欺・強迫についてお送りします。


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契約の有効要件 詐欺と強迫
【宅建試験問題 平成5年ー問3】Aがその所有地について債権者Bの差押えを免れるため、Cと通謀して、登記名義をCに移転したところ、Cは、その土地をDに譲渡した。この場合、民法の規定及び判例によれば、次の記述のうち正しいものはどれか。

1.AC間の契約は無効であるから、Aは、Dが善意であっても、Dに対し所有権を主張することができる。
2.Dが善意であっても、Bが善意であれば、Bは、Dに対し売買契約の無効を主張することができる。
3.Dが善意であっても、Dが所有権移転の登記をしていないときは、Aは、Dに対し所有権を主張することができる。
4.Dがその土地をEに譲渡した場合、Eは、Dの善意悪意にかかわらず、Eが善意であれば、Aに対し所有権を主張することができる。
1 誤:虚偽表示は無効であり、その無効を善意の第三者に対抗することはできない
2 誤:Dが善意であれば、Bの善意悪意に関係なく、BはAC間の無効をDに主張できない
3 誤:善意の第三者が登記をしているかどうかは関係ありません
4 正:Eは自分が善意であれば、Dの善意悪意にかかわらず、Aに対し所有権を主張できる
【宅建試験問題 平成10年ー問7】Aが、A所有の土地をBに売却する契約を締結した場合に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、誤っているものはどれか。

1.AのBに対する売却の意思表示がCの詐欺によって行われた場合で、BがそのCによる詐欺の事実を知っていたとき、Aは、売却の意思表示を取り消すことができる。
2.AのBに対する売却の意思表示がBの強迫によって行われた場合、Aは、売却の意思表示を取り消すことができるが、その取消しをもって、Bからその取消し前に当該土地を買い受けた善意のDには対抗できない。
3.Aが、自分の真意ではないと認識しながらBに対する売却の意思表示を行った場合で、BがそのAの真意を知っていたとき、Aは、売却の意思表示の無効を主張できる。
4.AのBに対する売却の意思表示につき法律行為の重要部分に錯誤があった場合、Aは、売却の意思表示の取消しを主張できるが、Aに重大な過失があったときは、錯誤による取消しを主張できない。
1 正:第三者による詐欺は、相手方が詐欺の事実を知っていた時に限り、意思表示を取り消すことができる
2 誤:強迫による取消前の第三者には、善意悪意を問わず対抗することができる
3 正:心裡留保による意思表示は原則として有効だが、相手方が表意者の真意を知っているか、知り得た場合は無効
4 正:重要な錯誤があった意思表示は取消事由となるが、表意者に重大な過失があった場合は取消しを主張することができない
【宅建試験問題 平成13年ー問2】Aが、Bに住宅用地を売却した場合の錯誤に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。(改題)

1.Bが、Aや媒介業者の説明をよく聞き、自分でもよく調べて、これなら住宅が建てられると信じて買ったが、地下に予見できない空洞(古い防空壕)があり、建築するためには著しく巨額の費用が必要であることが判明した場合、Bは、売買契約は錯誤によって取り消し得ると主張できる。
2.売買契約に重要な錯誤があった場合は、Bに代金を貸し付けたCは、Bがその錯誤を認めず、無効を主張する意思がないときでも、Aに対し、Bに代位して、錯誤による取消しを主張することができる。
3.Aが、今なら課税されないと信じていたが、これをBに話さないで売却した場合、後に課税されたとしても、Aは、この売買契約が錯誤によって取消事由であるとはいえない。
4.Bは、代金をローンで支払うと定めて契約したが、Bの重大な過失によりローン融資を受けることができない場合、Bは、錯誤による売買契約の取消しを主張することはできない。
1 正:重要な錯誤があり、重過失はないので、錯誤取消を主張することができる
2 誤:表意者本人が錯誤を認めていないので、第三者が本人に代位して錯誤による取消しを主張することはできない
3 正:動機の錯誤は、相手方に表示されたときに限り錯誤取消の対象となる
4 正:法律行為の重要部分に錯誤はあるが、重過失もあるので、錯誤取消を主張することはできない