無効と取消の総まとめ

宅建試験の民法解説:これまでに出てきた「無効と取消」についてまとめておきます。民法の基本でとても重要ですので、繰り返し復習しておいてください。

無効と取消の宅建解説

契約が無効となる場合

公序良俗違反
原始的不能
意思無能力
心裡留保
虚偽表示
錯誤

契約が取り消しうる場合

行為無能力
詐欺
強迫
錯誤

前ページまででこれらの解説をしてきました。これからも代理などで無効や取消がでてきますが、少し難しくなってきますので、とりあえずここでひとまず区切り、前ページまでの総まとめをしたいと思います。しっかり基本を身につけておいてください。
  当事者間の効力 第三者
心裡留保 原則有効だが、相手方が悪意または有過失のときは無効 有効時は対抗問題とならず、無効のときは第三者が善意なら過失の有無を問わず対抗不可
虚偽表示 無効 第三者が善意なら過失の有無を問わず対抗不可
錯誤 重要な錯誤で表意者に重過失がなければ取消可能(例外あり) 取消し前の第三者には対抗不可
取消しは善意無過失の第三者に対抗不可
詐欺 有効だが取り消すことができる
(相手方が善意無過失なら取消不可)
取消し前の第三者には対抗不可
取消しは善意無過失の第三者に対抗不可
強迫 有効だが取り消すことができる
(相手方が善意無過失でも取消可)
取消し前の第三者にも対抗できる
取消しは善意無過失の第三者にも対抗できる


無効と取消の比較

主張できる者
無効:原則的に誰からでも主張可
取消:取消権者のみ主張可

効果
無効:そもそも無効である
取消:契約締結時に遡って無効となる

消滅の有無
無効:放っておいても無効は無効
取消:放っておくと取消権が時効消滅し、有効で確定してしまう

第三者保護規定
無効:原則なし(例外として虚偽表示の善意の第三者)
取消:原則なし(例外として詐欺取消前の善意無過失の第三者)

以下、個別に解説していきます。

取消権者

・制限行為能力者(意思能力があるときにかぎり、単独で取り消すことができる)
詐欺や強迫を受けた者、錯誤の表意者
・上記2つの代理人(=親権者、後見人)
・上記2つの承継人(=相続人)

無効の基本的効果

無効は無効なので、履行の請求はできません。すでに履行がなされてしまっていた場合は、その返還を請求できます。双務契約の無効で、当事者双方がお互いに返還義務を負う場合、両者の返還義務は同時履行の関係となります。

取消の基本的効果

法律行為が取り消されると、それは初めから法律効果が生じなかったものとされます。つまり、初めから何もなかったことになるのです。

すでに履行がなされてしまっていた場合は、その返還を請求できます。双務契約が取り消され、当事者双方がお互いに返還義務を負う場合、両者の返還義務は同時履行の関係となります(無効と同じ)。

一つ問題となるのは、行為無能力により契約が取り消された場合です。未成年者等の制限行為能力者の返還義務は、「その行為によって現に利益を受ける範囲」に減縮されます。いわゆる「現存利益(げんぞんりえき)」と呼ばれるものです。これは法律界ではよく聞く言葉なので覚えておいてください(制限行為能力者や意思無能力者でなくても、無効であることを知らずに贈与等の無償行為によって善意で給付を受けた者は、現存利益で回復すれば足りることとなりました。少し細かいので頭の片隅で良いですが、制限行為能力者は無効について悪意でも構わない点と比較注意)。

現存利益とは、現に存在する利益です。意味が分かりませんね。未成年者AがBさんから30万円を借りたとします。この30万円を、Cさんへの借金の返済20万円、食費5万円、未成年にも関わらずパチンコ代5万円に充てたとします。

このうち、借金20万円と食費5万円は必要費ですね?Bさんからお金を借りなくても使うべきお金です。逆にパチンコの5万円は単に浪費したお金です。この必要費25万円が現存利益です。本来使うべき自分のお金の支出を免れたため、利益の現存があると言えます。つまり未成年者Aは、Bさんに25万円を返還すれば義務を免れます(しかもこれは、Aの善意悪意を問わない・・ということは要注意でしたね)。

無効と取消の二重効

無効と取消の両方の要件が具備している場合、当事者は自由に選択して主張できます。例えば幼稚園児が親の承諾を得ずに重要な財産の売買契約を行った(有り得ない?)場合、両親は、幼稚園児であることを理由に意思無能力による無効を主張してもよいですし、未成年であることを理由に行為無能力による取消を主張してもよいのです。

取消権の消滅

法律行為が取り消される可能性のある状態ということは、相手方や第三者の地位を不安定にしています。いつ取り消されるか分からないのはドキドキです。そこで法律関係の安定を図るため、一定期間の経過によって取消権は消滅してしまいます。

追認をすることができるときから5年
行為のときから20年

このどちらかが先に経過した時点で、取消権は消滅します。行為のときとは、まさに法律行為が行われたときです。強迫を受けたときから20年間は、その契約を取り消すことができます。

つまり上記の幼稚園児が5歳で行った契約は、行為のときから20年後の25歳ではなく、成人となり追認ができるようになった5年後の23歳で取消権は消滅します。しかし、22才のときに一部の代金を支払った場合などは、そのときに取消権は消滅する(法定追認)という点にも注意が必要です。

さてここで、「追認(ついにん)」という言葉が出てきました。追認とは後からその契約を認め、確定的に有効とするための行為なのですが、少し細かくなるので次ページで詳しく解説いたします。


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詐欺と強迫 追認