詐欺や強迫により行われた契約

宅建試験の民法解説:「詐欺と強迫」。重要ですが簡単ですので、ササッとマスターしてしまってください。少し難しいのは詐欺による取消における「善意無過失の第三者」の概念のみです。ちなみに「強迫」は、刑法では「脅迫」と書きます。では、詐欺と強迫の比較を見ていきましょう。より詳しい解説はこちら→詐欺と強迫の難問対策

詐欺と強迫の宅建解説

詐欺とは

他人をだまして錯誤に陥らせ、それに基づいて意思表示をさせること。


強迫とは

他人に恐怖を与え、その恐怖によって意思を決定、表示させること。


AがBに詐欺または強迫を行った場合

詐欺:Bは常にその意思表示を取り消すことができる。
強迫:Bは常にその意思表示を取り消すことができる。


第三者Cによる詐欺または強迫(買主A、詐欺または強迫を受けた売主B)

詐欺:Aがその事実を知り、または知ることができたとき、Bはその意思表示を取り消すことができる。
強迫:Aの知・不知に関わらず、Bは常にその意思表示を取り消すことができる。

詐欺の場合、上記の悪意に加えてAが善意でも過失があれば取り消すことができるという点に注意が必要です(=第三者が売主をだました場合、買主が悪意または善意有過失のときに売主は取消可能。買主が善意無過失なら取消不可)。上記の当事者が2人である場合は被詐欺者に過失の有無は問わないという点、心裡留保や虚偽表示の第三者は過失があっても保護される点と区別しておいてください。
宅建合格!詐欺と強迫
詐欺・強迫による取消と第三者保護

1.詐欺

ここです。少しだけ難しいです。少し詳しくいきます。取消による効果をもって、善意無過失の第三者に対抗することはできません。難しいのは善意の第三者とは誰を指すのか?ということです。この場合の第三者とは、取消し前に利害関係を持った者のことです。取消し後に利害関係を持った第三者については、普通に登記の先後の問題となります。

例えば、売主であるBさんをだましてBさんの不動産を買ったCから、Aさんが事情を知らないでさらにその不動産を買ったとします。この場合のAさんは善意の第三者に該当します。つまりBさんは、BC間の売買契約を取り消して無効になったことをAさんに対抗することができません。

これではBさんがかわいそうではないでしょうか?しかし理由があります。民法はだまされたBさんよりも、何も知らないAさんを保護するのです。だまされたBさんにも少しは落ち度があって、何も知らないAさんより不利益を受けても仕方ないというわけです。

では、善意無過失かの判断基準となる第三者に該当しない第三者とはどういった者でしょうか?例を2つ挙げます。1.1番抵当権が詐欺によって放棄された場合の2番抵当権者。2.連帯債務者の1人が詐欺によって代物弁済した場合の他の連帯債務者。これらの者は善意無過失の第三者には該当しません。

これらの者は善意無過失かを検討するまでもなく第三者には該当しません。つまり「善意無過失の第三者」とは、「何も知らずに、詐欺による意思表示に基づいて取得された権利について新たな利害関係に入った者」をいいます。少し難しいですが、上記のCさんは新たに不動産を買って利害関係が生まれてますね?

一方、2番抵当権者は何もしていません。1番抵当権者がだまされて、自動的に繰り上がっただけです。他の連帯債務者というのも同じです。単に反射的に利益を得たに過ぎません。

2.強迫

取消による効果をもって、善意の第三者にも対抗することができる。詐欺の場合と異なって、第三者よりも表意者が保護されます。強迫されていたのだから仕方なく、だまされるよりも帰責性が低いというわけです。
宅建合格!詐欺と強迫
つまり今回の要点をまとめますと、詐欺の場合は、第三者が詐欺を行った場合や善意無過失の第三者に対して制限がありますが、強迫の場合は何でもアリで、誰にでも取消を対抗できる!ということです。

詐欺による取消の第三者の概念が少し難しいですが、これは事例で覚えてしまったほうがいいかもしれません。この場合は第三者に該当する、この場合は第三者に該当しない、と、問題を見ながらそのまま覚えてしまってください。

補足として、詐欺とは他人にだまされ錯誤に陥ってなした意思表示ですから、その錯誤が重要な錯誤にあたるときは、「詐欺による取消」または「錯誤による取消」のどちらを選択して主張することもできるということも覚えておいてください。

また「無効と取消の総まとめ」のページに比較表を作ってありますのでそちらも参考にしてください。


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意思の不存在 無効と取消の総まとめ
【宅建試験問題 平成14年ー問1】Aが、Bの欺罔行為によって、A所有の建物をCに売却する契約をした場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。

1.Aは、Bが欺罔行為をしたことを、Cが知っているときでないと、売買契約の取消しをすることができない。
2.AがCに所有権移転登記を済ませ、CがAに代金を完済した後、詐欺による有効な取消しがなされたときには、登記の抹消と代金の返還は同時履行の関係になる。
3.Aは、詐欺に気が付いていたが、契約に基づき、異議を留めることなく所有権移転登記手続をし、代金を請求していた場合、詐欺による取消しをすることはできない。
4.Cが当該建物を、詐欺について善意無過失のDに転売して所有権移転登記を済ませても、Aは詐欺による取消しをして、Dから建物の返還を求めることができる。
1 正:第三者が詐欺を行い、相手方が詐欺につき善意の場合は、詐欺を理由とする取り消しはできない
2 正:詐欺による取消がされた場合、当事者双方の原状回復義務は同時履行の関係となる
3 正:異議を留めることなく所有権移転登記手続をし、代金を請求しているので法定追認となる
4 誤:詐欺による意思表示の取消しは、善意無過失の第三者に対抗することができない
【宅建試験問題 平成3年ー2】Aがその所有地をBに譲渡し、移転登記を完了した後、Cが、Bからその土地を賃借して、建物を建て、保存登記を完了した。その後、AがBの強迫を理由としてAB間の売買契約を取り消し、Cに対して土地の明渡し及び建物の収去を請求した場合、民法及び借地借家法の規定によれば、次の記述のうち正しいものはどれか。

1.Cは、借地権に基づき、Aの請求を拒むことができる。
2.Cは、Bの登記名義を善意無過失に信じたとして、Aの請求を拒むことができる。
3.Cは、AがBから強迫を受けたことを知らないことについて善意無過失であるとして、Aの請求を拒むことができる。
4.Cは、Aの請求を拒むことができない。
123 誤:土地を賃借したCは、強迫による取消前の第三者にあたるため、売主Aの請求を拒むことはできない
4 正:売主Aは、第三者の善意悪意を問わず強迫による契約の取消しを対抗することができる