契約の法定解除と約定解除

宅建試験の民法解説:解除とは、いったん有効に成立した契約を解消させて、その契約が初めからなかったものとする制度をいいます。解除には「法定解除」と「約定解除」があります。法定解除とは「債務不履行」を理由とする解除です。約定解除とは、契約の両当事者の約束により解除できると決める場合で、手付買戻しがあります。より詳しい解説はこちら→契約解除の難問対策

法定解除と約定解除の宅建解説

債務不履行を理由とする解除(法定解除)

1.解除権発生の要件

履行遅滞:債務者が債務を履行しない場合、相当の期間を定めて履行を催告し、その催告期間内に履行されなかったときに解除ができる

・催告と同時に解除の意思表示をしておいてもよい!(「2週間以内に履行しなかったら解除するから」←言っておく)

・定期行為の遅滞による解除は、催告は不要である!(6月中旬に送るよう約束した暑中見舞いを、8月に履行されても意味がない)

・催告を不要とする特約も有効である!(よく読むと、アパート等の賃貸借契約書に書かれていることが多いです。家賃は滞納せずにしっかり払いましょう。急に追い出されても文句は言えません。)

同時履行の関係にある場合、履行の提供なしに、催告だけでは解除できない!(建物売買において、引渡期日に売主が建物を引き渡さない場合、買主は代金を提供して催告することにより、解除ができます。)

履行不能:債務者の責任で履行が不能となった場合、催告不要でただちに解除ができる


2.催告とは?

もう一度債務者に履行の機会を与えて、債務者を保護するとともに契約関係の維持を図るもの。債権者は催告に当たり、「相当の期間」を定めなければなりません。

相当の期間とは、既に履行の準備をした者が履行をなすためのみに必要な期間をいい、履行の準備に着手して履行を完了するために必要な期間ではありません。債務者はもともと、最初の履行期までに履行の準備を済ませておくのが普通だったからです。

つまり、不相当の期間を定めた催告であっても、客観的に相当だと認められる期間内に債務者が履行をしなければ、解除権が発生します。「相当な期間」に悩むことなく、催告がなされれば有効に解除権は発生すると覚えておいてください。尚、その期間を経過したときにおける債務不履行が、契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは解除が認められません。また、催告による解除に債務者の帰責事由は不要となります。

宅建合格!契約の解除
3.解除権の行使

・解除権は、相手方に対する一方的意思表示によってなす!(相手方の承諾不要

・解除の意思表示をした場合、もはやこれを取り消す(撤回)することはできない

・解除権不可分の原則(詳細は後ほど「共有」でお話します)

→当事者の一方(または双方)が数人ある場合、契約の解除はその全員より、または、その全員に対してのみ行うことができる!
→解除権が複数当事者の1人について消滅した場合、他の者についても消滅する


4.解除の効果

・まだ履行されていない債務は、履行する必要がなくなる!(債務の存在自体が、初めからなくなるわけです)

・既に履行されているものがあるときは、お互い返還する義務を負う!(「原状回復義務」といいます)

・上記2つによっても償われない損害があれば、損害賠償の請求ができる

・原状回復の履行にあたり、債務者(金銭を返す)は、受領の時からの利息を付けて返還しなければならない!


5.解除による第三者との関係

契約が解除されたことによって、第三者は不測の損害を受けるおそれがあります。売主Aと買主Bの建物売買契約において、買主Bから更にその建物を買ったCさんは、AとBの契約が解除されたらビックリです。この場合のCさんはどうなるか?

・AとBの契約解除前にすでに買っていたCさん
Cが登記をしていれば、所有権を主張できます。AはCから建物を取り戻すことはできません。またこの場合、Cの善意・悪意も問題になりません。

・AとBが既に契約を解除していたのに買ってしまったCさん
AとCで先に登記をした者の勝ちです。この場合もCの善意・悪意は問題になりません。

契約を解除したのに建物が返ってこないなんて、Aさんがかわいそうではないか、そう思われるでしょうか?Cさんも善意ならば、まだ納得できると思います。問題は、Cさんが悪意の場合ですね。悪意のCと早い者勝ちは納得できません。

これは詐欺取消などによる解除との、蓋然性の違いです。詐欺の場合は、悪意の第三者は保護されません。詐欺にあったら、契約を解除するのが普通です。しかし債務不履行の場合は、解除原因があっても、実際に解除するかどうかわからないわけです。そういった不安定な状態であるため、悪意の第三者も保護されるのです。


手付による解除(約定解除)

手付にはいろいろな種類があるのですが、宅建試験で問題となるのは「解約手付」です。売買契約において手付が交付された場合には、それは解約手付と推定されます。では、順番に見ていきます。

1.解約手付とは?

解約手付とは、契約に関連して買主が手付金を売主に支払い、買主は手付を放棄して、売主は手付の倍額を返還して、自由に契約の解除ができるとする手付をいいます。以下、重要点です。

・買主は、売主に支払った手付金を放棄すれば、契約を解除することができる!

・売主は、買主が支払った手付金の倍額を返還すれば、契約を解除することができる!

・手付契約は、売買契約と同時にする必要はない!(履行期前なら可)


2.解除ができる時期

いくら手付契約を結んだといっても、いつでも勝手に契約を解除されては大変です。そこで、手付解除ができる時期が決められています。判例は、「手付による解除は、相手方が履行に着手するまですることができる」としています。つまり、こういうことです。

・売主が売買の目的物を提供したあとは、買主は契約を解除することはできない!(建物売買において、ようやく家が完成して買主に提供したところ、買主が、やっぱりいらないから手付金だけ払って解除すると言い出した・・・あり得ませんね)

・買主が売買代金を提供したあとは、売主は契約を解除することはできない!(建物売買において、買主が代金を支払おうとしたところ、売主が、やっぱりあなたには売りません、手付金の倍を払うから解除すると言い出した・・・あり得ませんね)

注意点:解除ができるのは、相手方が履行に「着手」するまでです。実際に家が完成していなくても、売主が工事を開始すれば履行に着手したといえます。実際に代金を支払わなくても、買主が代金を支払う意思を示せば履行に着手したといえます。また、相手方が履行に着手するまでですから、自分が履行に着手していても、相手方が着手していなければ解除することは自由です。


3.損害賠償との関係

手付解除をした場合、損害賠償請求をすることはできません。上記の債務不履行による解除と区別して気をつけておいてください。また、手付契約が結ばれている売買契約が債務不履行を理由に解除された場合、手付金は原状回復義務として買主に返還され、あとは損害賠償の問題となります。

宅建合格!解約手付

買戻し(約定解除)

買戻しとは、売主が不動産を売却する場合に、後日買主が支払った代金(別段の合意があれば、その額が優先)および契約費用を買主に返還して、売買契約を解除する特約をいいます。

これは上記2つの債務不履行解除、手付解除に比べたら重要度はかなり下がります。星2つくらいでしょうか。しかし簡単ですので、出題されたら確実に得点できるようにしておいてください。以下、少しだけ重要点です。

・買戻し特約は、売買契約と同時にすることを要する!(手付と区別)

・買戻し特約は、登記をしておけば第三者に対抗することができる!

・買戻し期間は、10年を超えることはできない!(10年以上を定めたら10年に短縮

・買戻し期間を定めなかったときは、その期間は5年とみなされる!

・買戻しの際、別段の意思表示がない限り、利息を支払う必要はない!


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地役権 保証債務
【宅建試験問題 平成5年ー問7】Aがその所有する土地建物をBに売却する契約をBと締結したが、その後Bが資金計画に支障を来し、Aが履行の提供をしても、Bが残代金の支払いをしないため、Aが契約を解除しようとする場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。

1.Aは、Bに対し相当の期間を定めて履行を催告し、その期間内にBの履行がないときは、その契約を解除し、あわせて損害賠償の請求をすることができる。
2.AがBに対して履行を催告した場合において、その催告期間が不相当に短いときでも、催告の時より起算して客観的に相当の期間を経過して、Bの履行がないときは、Aは、改めて催告しなくても、その契約を解除することができる。
3.Aは、Bに対して契約を解除したときは、その後これを撤回することはできない。
4.AがBに対し相当の期間を定めて履行を催告した際、あわせて「催告期間内履行がないときは、改めて解除の意思表示をしなくても、契約を解除する」との意思表示をし、かつ、その期間内にBの履行がない場合でも、Aがその契約を解除するには、改めて解除の意思表示をする必要がある。
1 正:解除とあわせて損害賠償請求も可能
2 正:催告期間が不相当に短い場合でも、その期間内に履行がなければ解除権が発生する
3 正:解除の意思表示は撤回することができない(行為能力制限や詐欺・強迫などによって解除の意思表示がなされた場合は別の話となり、解除の意思表示を取り消すことができる点に注意)
4 誤:催告期間内にBが履行をしなければ契約は解除され、Aはあらためて解除の意思表示をする必要はない
【宅建試験問題 昭和58年ー問5】契約の解除に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、正しいものはどれか。

1.相手方が原状回復行為に着手するまでは、既に行った解除の意思表示を撤回することができる。
2.解除の効果は、解除の意思表示を発したときに生じる。
3.解除権者が数人いる場合、その中の一人について解除権が消滅しても、他の者の解除権はなお存続する。
4.解除後の原状回復において、返還すべき金銭があるときは、その受領の時からの利息を付さなければいけない。
1 誤:解除の意思表示が撤回できない点に、原状回復は関係なし
2 誤:解除の意思表示が相手方に到達したときに、解除の効果が生じる
3 誤:特約がない限り、当事者の一方が数人いる場合の契約解除はその全員から、または全員に対してのみすることができ、当事者の一人に解除権が消滅したときは、他の者の解除権も消滅する
4 正:受領したものが金銭である場合は、受領の時からの利息をつけて返還する
【宅建試験問題 平成4年ー問7】不動産の売買契約における手付に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。

1.当該契約が宅建業者の媒介によるものであるときは、契約に別段の定めがあっても、手付は解約手付となる。
2.解約手付の契約は、売買契約と同時に締結しなければ、効力を生じない。
3.買主が手付を交付した後、契約に基づいて中間金の支払いを済ませた場合でも、契約に別段の定めがなく、売主が履行に着手していなければ、買主は、手付を放棄して、当該契約を解除することができる。
4.買主が手付を交付した後、売主の責めに帰すべき事由により売主の債務が履行不能となった場合において、損害賠償額について契約に別段の定めがないときは、その額は手付の倍額とされる。
1 誤:通常は解約手付だが、契約に特段の定めがあればその定めによる
2 誤:契約締結後に解約手付が交付されても有効
3 正:相手方が履行に着手した後は解除できないが、自分が着手している分には解除自由
4 誤:損害賠償額と手付の額は関係ない
【宅建試験問題 平成3年ー問8】不動産の買戻しに関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。

1.買戻しをするには、買主の支払った代金及び契約費用を返還すればよく、必要費及び有益費を支払わなければ買戻しをなし得ない旨の特約は、無効となる。
2.買戻しの期間は、10年を超えることができない。
3.買戻しの期間は、後日これを伸長することができない。
4.買戻しの特約は、売買の登記後においても登記することができ、登記をすれば第三者に対しても効力を生ずる。
1 正:買戻しをするには代金+契約費用(別段の合意があるときはその額)を返還すればよく、必要費や有益費を支払う旨の特約は無効
2 正:買戻しの期間は10年を超えることができず、これより長い期間を定めたときは10年となる
3 正:買戻しの期間を定めたときは、その後にこれを伸長することができない
4 誤:売買契約と同時に買戻し特約の登記をしたときは、第三者に対しても効力を生ずる