宅建試験の民法解説:様々な箇所で出てきた「債務不履行」についてまとめておきます。債務不履行とは、債務者が正当な理由がないのに債務の履行をその内容どおりに行わないこと、つまり、約束どおりの履行をしないこと=履行遅滞、履行不能(+不完全履行)をいいます。債務不履行だけで丸々4肢でも、肢の1つとしてでも至る所で出題されます。少し複雑ですが、非常に重要ですのでしっかり押さえておきましょう。
- 債務不履行の宅建解説
■債務者(約束を果たすべき者)とは?
法律の勉強を始めたばかりの方は、売買契約で債務者といえば、お金を払う買主を思い浮かべてしまいます。これはちょっと誤りで、売買契約では、お互いに債権者であり債務者なのです。どこに着目するかで、債権者と債務者の概念が入れ替わります。
「代金の支払い」についての債権者は売主で、債務者は買主です。「目的物の引渡し」についての債権者は買主で、債務者は売主です。買主は売主に対して「買った物を引き渡してくれ」という権利を有するわけです。
■債務不履行の種類
債務不履行には、「履行不能」と「履行遅滞」の2種類があります(正確には「不完全履行」を含め3種類)。
売主が債務者となるパターンで見ていきます。
1.履行不能(約束を守ることが不可能となること)
意義:契約成立後に、債務者(売主)の責任によって、目的物を買主に引き渡せなくなってしまった場合をいいます(建物の売買契約成立後、売主の火の不始末で、引渡し前に建物が焼失してしまった場合など)。
要件:契約成立後に履行が不可能となること、債務者に故意または過失があること。また、改正民法により「原始的不能」(=契約成立前に履行不能となること)も明文化され、原始的不能であっても損害賠償請求ができる旨が認められました。
重要おまけ:履行期到来以前でも、履行期に給付することが不能確実となれば、履行期の到来を待たずに、そのときから履行不能となります。また、履行不能時に債権者は履行の請求をすることができません。
2.履行遅滞(約束に遅れること)
意義:債務が履行期(※)にあり、しかも履行が可能であるにもかかわらず、債務者が履行期を過ぎた場合をいいます(建物の引渡し期日になっても、買主に引き渡さない)。
要件:履行期に履行が可能であること、債務者に故意または過失があること、履行期を過ぎること、履行しないことが違法であること(債権者が同時履行を行使している場合など)
重要おまけ:同時履行の場合、相手方(買主)が債務を履行しない(代金を提供しない)間は、履行遅滞による債務不履行責任を負うことはありません!
(※)履行期とは?
確定期限(20××年〇月〇日に引き渡す):期限が到来したとき
不確定期限(次に雨が降ったときに引き渡す):債務者が期限の到来を知ったときまたは期限到来後に履行請求を受けたときのいずれか早いとき
期限の定めない場合(期日の約束をしなかった):債務者が履行の請求を受けたとき
■受領遅滞
債務者が履行を遅滞するのではなく、債務者に履行の意思はあるのに債権者が受領してくれない場合はどうなるのか?この点についても改正民法は規定しています。
債権者が債務の履行を受けることを拒み、または受けることができない場合、
・履行費用が増加した場合、その増加額は債権者の負担となる
・債務の目的が特定物の引渡しである場合、債務者は、履行提供時から引渡しまで、その特定物を自己の財産と同一の注意義務で保存すれば足りる(本来の特定物は善管注意義務)
履行遅滞中に当事者双方の責任でなく債務の履行が不能となった場合、その履行不能は債務者の責任とみなされます。
受領遅滞中に当事者双方の責任でなく債務の履行が不能となった場合、その履行不能は債権者の責任とみなされます。
■債務不履行の効果
債務不履行が契約その他の債務発生原因および取引上の社会通念に照らして債務者の責任でない場合を除き(=原則は債務者に帰責事由が必要で、立証責任は債務者にある)、債権者は、履行遅滞または履行不能によって生じた損害賠償請求ができます。
債務の履行に代えて損害賠償請求ができる要件
・履行不能時
・債務者が履行拒絶の意思を明確に表示しているとき
・契約が解除されたか、債務不履行による解除権が発生したとき
もちろん損害賠償以外に契約を解除することも認められます。債務不履行をするような債務者とは、契約解消したほうが賢いかもしれないですからね。
また、債務者が、履行不能原因により生じた債務目的物の代償権利または利益(建物焼失時の保険金等)を取得した場合、債権者は、受けた損害の限度額においてその権利または利益の償還を請求することができます(=代償請求権)。
■損害賠償額の予定
債務不履行によって損害が生じた場合、債権者は債務者に対して、損害賠償の請求ができます。しかし債権者は、自分が損をしたこと、およびいくら損をしたのかを証明しなければなりません。しかしこれはとても面倒なことです。そこで当事者間の契約で、賠償すべき額をあらかじめ決めておくことができます。これを「損害賠償額の予定」といいます。以下、損害賠償額の予定についての重要事項です。
・債権者は、債務不履行の事実さえ証明すれば、損害の発生、損害額の証明をしなくても、予定賠償額を請求できる
・賠償額の予定は、契約と同時にする必要はない
・裁判所は、賠償予定額を増減することはできない
増減することができるようになりました。…と言いますか、原則として増減不可は変わらず「改正民法により暴利行為が認められる場合に減額が可能となった」 と覚えておいてください。裁判所が増額を行うケースについてはあまり考える必要はないでしょう。
・違約金は、損害賠償額の予定と推定される
・賠償額の予定がなされているときでも、本来の履行の請求または解除権の行使を妨げない
■金銭債務の不履行
ここでは、買主を債務者とした場合の債務不履行を見ていきます。
買主の債務不履行ですから、もちろん代金の不払いです。
・金銭債務は、履行不能とならない(常に履行遅滞)
・金銭債務は、不可抗力をもって抗弁とすることはできない
金銭は、その極度の融通性・普遍性から、履行不能は有り得ません。金銭は万能であり、世の中のどこかには必ず存在します。特定物とは違って、代わりがいくらでも存在します。支払いが不可能ということは有り得ないのです。100円でパンは買えても、パンで100円は買えないということです。
・債権者は、損害の発生を証明しなくても、賠償請求をすることができる
・賠償額は法定利率(年5分)を原則とするが、これより高い約定利率を定めているときはそれによる
改正民法によって法定利率が、年3%を原則とする1期(3年)ごとの変動制となりました(1%以上で変動)。
例:直近の基準が3%で金利が上昇した当期の基準が3.8%の場合=次期も3%。4.1%の場合=次期利率は4%。
→ 詳細:法定利率の改正
・債権者は、履行遅滞があれば当然に上記法定利率または約定利率による賠償を請求し得るが、それ以上の実損害を証明しても、その賠償を請求することはできない
・金銭債務の場合についても、損害賠償額の予定をすることができる
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