敷金や使用貸借について解説

宅建試験の民法解説:「賃貸借」の難問対策。宅建試験で重要なのは土地と建物の賃貸借である「借地借家法」ですが、借地借家法を勉強するための基礎知識にもなりますので要点はしっかり押さえておきましょう。賃貸借とは皆さんのイメージ通り、当事者の一方が相手方にある物の使用および収益をさせることを約束し、相手方がその対価である賃料を支払うことを約束する契約です。敷金や、使用貸借との違いについても見ていきます。

賃貸借の敷金等の難問対策+使用貸借

賃貸借の成立と存続期間

当事者の一方がある物の使用収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対して賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約終了時に返還することを約することで成立する。

賃貸借の存続期間は20年50年を超えることができません(更新も50年以内)。
50年を超える定めをしたときは、その期間は50年に短縮されます。

最短期間に制限はありません。
期間の定めのない賃貸借契約も有効です。
  賃借権 借地権 借家権
最長 50年 制限なし 制限なし
最短 制限なし 30年 1年(※)
(※)1年未満は期間の定めがないものとみなす。定期借地権は別途期間制限があるので「借地借家法」を参照!


賃貸借の終了と更新

存続期間が定められている場合、その期間の満了によって賃貸借は終了します。存続期間が定められていない場合、各当事者はいつでも解約の申入れができます。解約を申し入れた後、土地賃貸借については1年、建物賃貸借については3ヶ月、動産賃貸借については1日の猶予期間を経て賃貸借は終了します。

存続期間が定められている場合でも、期間満了に際して、当事者間の約束で賃貸借契約を継続させる(更新)ことができます。

また、当事者間で更新の約束をせず、存続期間が満了した後も、賃借人が目的物の使用・収益を継続し、賃貸人がそれを知りながら異議を述べないときは、前の賃貸借と同じ条件でさらに賃貸借をしたものと扱われます。この場合は存続期間の定めのないものとなることにご注意ください。

賃貸目的物が全部滅失した場合も、履行不能として賃貸借契約は終了します。


賃貸借の目的物が壊れた場合

賃借人は、目的物の保管につき善管注意義務を負います。

目的物の一部が壊れた場合、賃貸人には修繕する義務があり賃借人の責任による場合を除く)、賃借人には修繕を請求(通知義務あり)する権利が認められます。そして、賃貸人がすぐに修繕をしてくれればよいのですが、なかなか修繕をしてくれないとき、または急迫の事情あるときは、賃借人が修繕費を立て替えることになります。

この場合の修繕費には「必要費」と「有益費」があります。

屋根の雨漏り修復など、目的物の使用に必要な費用を必要費といい、必要費を支出した賃借人は、賃貸人に対して直ちに償還を請求することができます。ただし、特約により賃借人の負担とすることも可能です。

老朽化による壁紙の張替え、トイレをシャワー付きにするなど、生活に必ずしも必要ではありませんが目的物の価値を増加させる費用を有益費といい、有益費を支出した賃借人は、賃貸借契約終了時に、目的物の価格の増加が存在している限り、償還を請求することができます。賃貸人は、裁判所への請求により有益費の償還について相当の期限を許与してもらうことができます。

また、賃借人の責任でなく賃借物の一部が滅失したことで使用収益ができなくなった場合、賃料は、その使用収益できなくなった部分の割合に応じて減額されます。「減額請求ができる」ではなく、改正民法により当然に減額されるようになりました。残存部分だけでは目的を達成することができない場合、賃借人は契約解除ができます(全部滅失は当然に終了と区別)。


賃貸借の対抗力

賃貸借の目的物であった土地が第三者に売り渡されたとします。その土地を賃借していた賃借人は、賃借権を登記しておけば第三者に対抗することができます。第三者が「土地を明渡せ」と要求してきても拒むことができるのです。

第三者は、その土地について所有権移転登記を受けていれば、賃借人に対して賃料を請求することができます。賃貸人の地位自体は売買契約により移転し、賃借人の承諾は不要だということにご注意ください。
宅建合格!賃貸借

賃借権の譲渡と転貸

賃借権の譲渡とは、賃借人が賃借権を他人に譲り渡すことをいい、賃貸人と旧賃借人の関係は終了します。転貸とは、賃借人が、借りている物をさらに又貸しすることをいい、賃貸人と賃借人の関係はそのまま継続します。新たに借り受けた者を転借人といいます。以下、出題ポイントです。

賃貸人の承諾がなければ、賃借権の譲渡・転貸をすることはできない!

・賃貸人に無断で賃借権の譲渡・転貸をした場合、賃貸人は賃貸借契約を解除することができる!(背信的行為と認められない場合は解除不可)

・賃借権の譲渡の場合、賃貸人は、賃借権の譲受人(新賃借人)に対してのみ賃料を請求することができる!

・転貸の場合、賃貸人は、賃借人だけでなく、転借人に対しても賃料を請求することができる!

・賃借権が譲渡された場合、旧賃借人は、賃貸人に対して敷金の返還を請求することができる!(賃貸人の地位が移転した場合は、新賃貸人に対して請求する)

尚、賃貸不動産の譲渡人と譲受人の合意により賃貸人の地位は移転し、賃借人の承諾は不要となります。賃貸アパートの居住者からして大家さんが変わろうがあまり関係ありませんし、常識的に考えて当然ですね。


賃貸借における敷金

不動産の賃貸借に際し、賃貸借終了後から明渡しまでに生ずる損害金等、賃貸人の債権を担保する目的で賃借人から賃貸人に交付される金銭を敷金といいます。被担保債権を控除し、明渡完了時に残額があれば賃借人に返還されます。債務の弁済に充てるかどうかを決めるのは賃貸人で、賃借人の方から充当請求をすることはできません(賃貸借契約に賃借人が原状回復義務を負う旨が定められていても、賃借人は、通常損耗経年劣化の補修費を支払う必要はありません)。

ここで重要なのは、敷金返還請求権と目的物明渡請求権は同時履行の関係に立たない、という1点です。敷金を返してくれるまで出ていかないよ!というのは不可ですので、「賃借人は敷金が返還されるまで退去する必要はない」と出題されたら誤りとなりますね。少し難問対策としては、賃貸人の地位が移転した場合、賃借人の同意は不要で敷金に関する権利義務は当然に新賃貸人に承継されるけど、賃借権が移転した場合は、敷金に関する権利義務は当然には新賃借人に承継されないという比較を余裕があれば覚えておいてください。

直接本試験で問われる内容ではありませんが、物件を借りるときに役立つ敷金に関する小ネタを宅建業法の「業務上の規制」で公開していますので、息抜きにご覧になってみてください。


短期賃貸借

被保佐人(被補助人も)が賃貸借契約を締結する場合、次の期間を超えない範囲でのみ契約をすることができます。

1.樹木の植栽または伐採を目的とする山林の賃貸借:10年
2.上記以外の土地の賃貸借:5年
3.建物の賃貸借:3年
4.動産の賃貸借:6ヶ月

2番と3番は覚えておきましょう。土地5年、建物3年を超える賃貸借は保佐人や補助人の同意が必要です(=同意があればできる)。短期賃貸借を更新するには、期間満了前の土地1年以内、建物3ヶ月以内、動産1ヶ月以内に更新する必要があります。

土地や建物の賃貸借って借地借家法じゃないの?と疑問に思われる方もいると思いますが、借地借家法が適用される土地建物は「居住用」をイメージしてください。ここでいう「土地」や「建物」とは、駐車場資材置き場、一時的な仮住居、建築現場事務所などを指します。


賃貸借と使用貸借の違い

使用貸借とは、当事者の一方がある物を無償で使用収益した後に返還することを約束し、相手方からそのある物を受け取る契約をいいます。消去法でも対応できるように、難問対策として軽く押さえておきましょう。

賃貸借 :有償の諾成契約
使用貸借:無償の要物契約 諾成契約となりました

真逆ですね。要注意です。
  賃貸借 使用貸借
対抗要件 登記・建物引渡し なし
目的物引渡義務 あり なし(引渡で契約成立)
修繕義務 あり なし
必要費 直ちに償還 特別な必要費を除き償還義務なし
有益費 賃貸借終了時に償還 目的物返還時に償還
借主の地位譲渡 賃貸人の承諾必要 貸主の承諾必要
貸主の死亡 相続される 相続される
借主の死亡 相続される 契約終了

使用貸借で償還を要する特別な必要費とは、災害による破損の修繕費などです。


分かりやすい民法解説一覧ページに戻る
<<< 前のページ <<< >>> 次のページ >>>
不法行為の難問対策 相続の難問対策
【宅建試験問題 平成20年ー問10】Aは、自己所有の甲建物(居住用)をBに賃貸し、引渡しも終わり、敷金50万円を受領した。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。

1.賃貸借が終了した場合、AがBに対し、社会通念上通常の使用をした場合に生じる通常損耗について原状回復義務を負わせることは、補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているなど、その旨の特約が明確に合意されたときでもすることができない。
2.Aが甲建物をCに譲渡し、所有権移転登記を経た場合、Bの承諾がなくとも、敷金が存在する限度において、敷金返還債務はAからCに承継される。
3.BがAの承諾を得て賃借権をDに移転する場合、賃借権の移転合意だけでは、敷金返還請求権(敷金が存在する限度に限る。)はBからDに承継されない。
4.甲建物の抵当権者がAのBに対する賃料債権につき物上代位権を行使してこれを差し押さえた場合においても、その賃料が支払われないまま賃貸借契約が終了し、甲建物がBからAに明け渡されたときは、その未払賃料債権は敷金の充当により、その限度で消減する。
1 誤:特約が明確に合意されていれば、通常損耗について賃借人に原状回復義務を負わせることも可能
2 正:賃貸人の地位が移転した場合、敷金に関する権利義務は当然に新賃貸人に承継される(賃借人の承諾不要)
3 正:賃借人の地位が移転した場合、敷金に関する権利義務は当然には新賃借人に承継されない
4 正:賃貸人は、賃貸借契約の終了後、明渡しが完了するまでに生じた被担保債権を敷金から控除して、残額がある場合に返還義務を負担するに過ぎない
【宅建試験問題 平成17年ー問10】Aは、自己所有の建物について、災害により居住建物を失った友人Bと、適当な家屋が見つかるまでの一時的住居とするとの約定のもとに、使用貸借契約を締結した。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。

1.Bが死亡した場合、使用貸借契約は当然に終了する。
2.Aがこの建物をCに売却し、その旨の所有権移転登記を行った場合でも、Aによる売却の前にBがこの建物の引渡しを受けていたときは、Bは使用貸借契約をCに対抗できる。
3.Bは、Aの承諾がなければ、この建物の一部を、第三者に転貸して使用収益させることはできない。
4.適当な家屋が現実に見つかる以前であっても、適当な家屋を見つけるのに必要と思われる客観的な期間を経過した場合は、AはBに対し、この建物の返還を請求することができる。
1 正:使用貸借は、借主の死亡によって終了する(賃貸借は相続される)
2 誤:使用貸借契約は対抗要件という概念がなく、新所有者に対抗できない(建物賃借権は登記または引渡しが対抗要件)
3 正:使用貸借の借主は、貸主の承諾を得なければ第三者に転貸して使用収益させることができず、無断転貸は契約を解除される(賃貸借の無断転貸は、背信的悪意が認められるときに限り解除可能)
4 正:使用貸借は、「返還時期を定めた場合はその時期」、「返還時期を定めず契約の目的が定められている場合は目的に従い使用収益を終わったor使用収益に足る期間を経過したとき」、「返還時期も使用収益目的も定めなかった場合は(いつでも)返還請求」により使用貸借契約は終了する