宅建業法の完全解説:宅建業を行う上での「業務上の規制」や供託所等の説明、インスペクションについて解説します。
- 宅建業務上の規制の完全解説
宅建業者に課せられた業務上の規制とは、以下の通りです。
・業務処理の原則(信義誠実の原則)
・守秘義務
・誇大広告の禁止
・広告開始時期の制限
・契約締結時期の制限
・取引態様の明示
・不当な履行遅延の禁止
・信用の供与による契約締結誘引の禁止
この中から、広告関連など個別解説をしていない箇所について、供託所等に関する説明や犯罪収益移転防止法なども追加してまとめて見ていきます。見慣れない言葉もなく、常識判断でとても覚えやすいと思います。
■業務処理の原則
宅建業者は、取引関係者に対して信義を旨とし(約束を守り)、誠実にその業務を行わなければなりません(=信義誠実の原則)。ちなみに宅建士は、宅建士の信用または品位を害するような行為をしてはなりません。宅建業務中に限らず信用と品位が求められます。
宅建業者は、その従業者に対し、その業務を適正に実施させるため、必要な教育を行うよう努めなければなりません。宅建士は、宅地建物の取引に係る事務に必要な知識及び能力の維持向上に努めなければなりません。
■供託所等に関する説明
宅建業者が契約の相手方に対して説明する事項として、重要事項の説明の他に「供託所等に関する説明」があります。営業保証金と弁済業務保証金に関連するところです。重要事項説明書に記載して説明することが望ましい(義務ではなく口頭の説明でもOK)とされ、重要事項の説明と同時に行われることが多いので、実務経験のある方ほど勘違いしやすいところですが、供託所等に関する説明は重要説明事項ではありません。別物です。「供託所等に関する説明は重要説明事項である」と出題されたら誤りとなります(供託所等の説明は両当事者に説明する必要があるため、別物扱いとなっています)。
以下、重要事項の説明と比較しておいてください。
・説明義務者 :宅建業者(従業者)← 35条は宅建士
・説明時期 :契約が成立するまで
・説明場所 :制限なし
・説明の相手方:契約の両当事者 ← 35条は買主・借主・交換のみ両当事者
・説明方法 :口頭でもよい ← 35条は宅建士が記名した書面を交付して説明
尚、35条と同じく、相手方が宅建業者の場合は説明不要となります。供託所等に関する説明の内容は以下の通りです。
・宅建業者が保証協会に加入していない場合
→ 営業保証金の供託所とその所在地
・宅建業者が保証協会に加入している場合
→ 保証協会の名称・住所・事務所の所在地、社員である旨、弁済業務保証金の供託所とその所在地(+保証協会が弁済業務を開始していない場合は営業保証金の供託所とその所在地)重要事項の説明 供託所等の説明 いつ 契約成立前 契約成立前 誰が 宅建士(専任の必要なし) 宅建業者(従業者でOK) 誰に 買主や借主(交換は両当事者) 契約の両当事者 説明 書面を交付して行う(電子交付可) 口頭でよい 例外 相手が宅建業者なら交付のみで説明不要 相手が宅建業者なら説明不要 違反 業務停止処分または免許取消処分 指示処分
■守秘義務
宅建業者やその従業者は、正当な理由なく、業務上知りえた秘密を他に漏らしてはなりません。「正当な理由なく」ですので、それなりの理由があれば秘密を漏らすことも可能です。
正当理由
・本人の承諾がある場合
・裁判の証人となった場合
・税務署職員による質問検査権に基づく質問など
「いかなる理由があっても漏らしてはならない」「本人の承諾がある場合以外は漏らしてはならない」と出題されたら誤りですので注意してください。
また、宅建業者が宅建業をやめた後、もしくは従業者が退職した後も秘密を漏らしてはなりません。守秘義務違反は50万円以下の罰金となります。重要説明事項など、相手方に告げるべき事項を一方から「秘密にしてくれ」と頼まれたからといって秘密にする必要はありません。それは守秘義務でもなんでもありません。
『個人情報保護法』(令和3年法改正):デジタル社会の進展に伴い個人情報の利用が著しく拡大していることに鑑み、個人情報の適正な取扱いに関し、①国及び地方公共団体の責務を明らかにし、②個人情報を取り扱う事業者及び行政機関等についてこれらの特性に応じて遵守すべき義務等を定め、③個人情報保護委員会を設置することで行政機関等の事務及び事業の適正かつ円滑な運営を測り、④新たな産業の創出並びに活力ある経済社会及び豊かな国民生活の実現に資するものであることその他の個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することを目的とする。
令和7年試験において犯罪収益移転防止法(下記)が丸々4肢で出題されたため、次は個人情報保護法が出題されるかもしれません。簡単なので事業者を宅建業者に置き換え、下線部分と以下のポイントのみ軽く頭に入れておいてください。守秘義務は「職務上知りえた秘密の全て」を保護の対象とするのに対し、個人情報保護法は「個人情報のみ」が保護の対象となります。
・個人情報とは、特定の個人を識別できるもの、または個人識別符号(運転免許番号など)が含まれるものをいう
・他人が作成した個人情報データベース等を利用する者も個人情報取扱事業者に該当する
・書面により個人情報を取得する場合、原則として利用目的を明示しなければならない
・漏洩等で1000人超の個人情報に被害の恐れがある場合、個人情報保護委員会に報告しなければならない
■宅建業務上の禁止事項
以下の7つ(特に1~4)は重要ですので、必ず覚えておいてください。
1.不当な遅延行為の禁止:宅建業者は、その業務に関してなすべき宅地建物の登記や引渡し、取引にかかる対価の支払いを不当に遅延する行為をしてはならない。→ 違反すると、業務停止処分事由に該当し、罰則として6ヶ月以下の拘禁または100万円以下の罰金、もしくは併科となります。「不当」ですので、天災等の不可抗力で遅延した場合は宅建業法違反とはなりません。
2.重要な事実の不告知・不実告知の禁止:宅建業者は、取引関係者に大きな不利益をもたらす恐れのある重要な事項について、故意に事実を告げず、または不実のことを告げてはならない。35条書面に記載する重要説明事項とは別物で、単に「重要な事実」(周辺環境、交通の利便状況など)です(=対象は宅建士に限らない)。違反した従業者は2年以下の拘禁または300万円以下の罰金、もしくは併科となり、法人業者は1億円以下の罰金も有り得ます。
3.高額報酬要求の禁止:宅建業者は、不当に高額の報酬を要求してはならない(実際に受け取ったかどうかは関係なし)。要求をしなくても、報酬限度額を超えて報酬を受領すれば宅建業法違反となります。
4.手付の信用供与の禁止:宅建業者は、手付について信用の供与をすることにより、契約の締結を誘引してはならない(手付金を、貸付る、分割払いにする、立て替える、後払いにする、約束手形で受領する、支払い期日を延期するなど)。単なる減額やローンのあっせんは信用の供与ではないので注意。→ 違反すると、業務停止処分事由に該当し、罰則として6ヶ月以下の拘禁または100万円以下の罰金、もしくは併科となります。契約が成立しなくても、誘引すること自体が宅建業法違反となります。
分割払いで契約勧誘
手付金=宅建業法違反
代金 =可
報酬 =可
減額して契約勧誘
手付金=可
代金 =可
報酬 =可
代金や宅建業者が受領する報酬については分割払い等も可能という点に注意!
5.将来の利益に関する断定的判断の提供の禁止:宅建業者は、契約締結の誘引をするに際し、利益が生じることが確実であると誤解させる「断定的判断」を提供してはならない。宅建業者に故意がなくても、断定的判断をさせてしまった場合は宅建業法違反となる可能性があります。もちろん契約が成立したかどうかは関係なく、断定的判断を提供すること自体が宅建業法違反となります。
6.威迫行為等の禁止:宅建業者は、契約締結の誘引や撤回もしくは解除を妨げるため、「威迫行為」をしてはならない。威迫とは、声を荒げたりなど…脅迫の一歩手前の行為ですね。もちろん威迫行為自体が禁止され、威迫によって取引が成立しなければセーフということはありません。また勤務する宅建業者名のみを伝え「自分の名前を名乗らない」など怪しい行為も禁止されています。
7.預り金返還拒否の禁止:宅建業者は、相手方が契約申込の撤回を行う際に、既に受領した預り金を返還することを拒んではならない(キャンセル料として手付金=解約手付を受領することができる点と区別)。既に売主に交付済みであったり、多額の経費がかかったなどの理由があっても無関係です。
他にも、判断を急がせたり、断っているのにしつこく誘引したり、何度も訪問したり、深夜に電話をしたり・・常識的に考えてアウトなものは宅建業法違反となります。
■既存住宅の建物状況調査(インスペクション制度)
インスペクションとは、住宅診断のことです。中古住宅が対象となり、店舗、工場、商業ビルなどは含まれません。
調査対象となるのは、「建物の構造耐力上主要な部分(基礎、壁、柱など)」と「雨水の侵入を防止する部分(屋根、外壁、開口部など)」の2つです。調査実施者は「既存住宅状況調査技術者」となり、宅建業者が実施すると出題されたら誤りですので注意してください。既存住宅状況調査技術者とは、国土交通大臣が定める講習を修了した建築士をいいます。
住戸内における調査と住戸外における調査を異なる調査者が行った場合でも、それぞれの調査範囲およびその責任分担を明確にすることで有効な建物状況調査となります。
宅建業者は、媒介契約書面に建物状況調査のあっせんの有無を記載(標準媒介契約約款を採用し、あっせんを「無」とするときは理由を記載)し、建物状況調査の結果の概要を重要事項として説明し、当事者双方が確認した事項について契約書面に記載する義務を負います。
媒介契約書面:建物状況調査のあっせんの有無を記載
35条書面:建物状況調査の結果の概要(既存建物の売買・交換・貸借)、書類保存状況(既存建物の売買・交換)
37条書面:当事者双方が確認した事項(既存建物の売買・交換)
■犯罪収益移転防止法(犯収法)
正式名称を「犯罪による収益の移転防止に関する法律」といい、過去に一度だけ肢の一つで出題されたことはありましたが、令和7年の宅建試験で初めて丸々1問で出題されました。今後も出題が増えるのか、1回だけの意地悪問題だったのか未知数ですが、もう無視はできませんので要点をまとめておきます。
犯収法とは、資金洗浄やテロ資金供与対策のため、金融機関等の取引時確認、取引記録等の保存、疑わしい取引の届出の義務などの規制を定める法律となります。犯罪収益による組織犯罪の助長を防止するための法律であり、要はマネーロンダリング対策ということですね。
・本人特定事項とは、自然人では「氏名」「住居」「生年月日」をいい、法人では「名称」「本店または主たる事務所の所在地」をいう。
・顧客等が自然人である場合、取引の目的や職業を取引時確認として確認しなければならない。
・顧客等が法人である場合、事業の内容を取引時確認として確認しなければならず、その確認方法には、定款や法人の設立の登記に係る登記事項証明書(6ヶ月以内に作成)等の書類またはその写しを確認する方法がある。
・顧客である株式会社の取引時確認を行うに際して本人特定事項の確認を行わなければならない当該株式会社の実質的支配者とは、当該株式会社の議決権の総数の4分の1を超える議決権を有する者をいう(他の者がその法人の議決権の総数の2分の1を超える議決権を有している場合を除く)。
・取引時確認を行った場合、直ちに、当該取引時確認に係る事項、その取引時確認のためにとった措置その他の主務省令で定める事項に関する記録を作成し、特定取引等に係る契約終了日その他の主務省令で定める日から7年間保存しなければならない。
・特定業務に係る取引を行った場合、原則として取引記録等を作成し、7年間保存しなければならない(特定業務に係る取引のうち、少額取引その他の政令で定める取引を行ったときは作成の必要なし)。
・厳格な顧客管理を行う必要性が特に高いと認められる取引には、顧客等になりすましている疑いがある取引、または、取引時確認に係る事項を偽っていた疑いがある顧客等との間で行う取引などがある。
【宅建試験問題 令和7年-問44】宅地建物取引業者は、犯罪による収益の移転防止に関する法律第2条第2項の特定事業者に該当するが、宅地建物取引業者Aの行為に関する次の記述のうち、同法に違反するものはどれか。
1 Aは、土地付建物の売買を行うに際して、当該売買契約の相手方である買主が自然人であったので、氏名、住居、生年月日、取引を行う目的及び職業について、確認した。
2 Aは、価額が5,000万円の土地付建物の売買を行ったとき、直ちに、一定の方法により、当該売買契約の相手方である買主の確認記録を検索するための事項、当該取引の期日及び内容その他の事項に関する記録を作成して保存していたが、当該取引の行われた日から5年経過したので、当年度末に当該記録を廃棄した。
3 Aは、土地付建物の売買契約の相手方である買主から収受した代金について犯罪により得た収益であるとの疑いがあったので、速やかに、所定の事項を行政庁に届け出た。
4 Aは、取引時確認、取引記録等の保存、疑わしい取引の届出等の措置を的確に行うため、顧客と実際に接する営業担当者に対する教育訓練を実施した。
1=氏名、住居、生年月日で本人であることを特定し、取引の目的や職業を確認します。3=犯罪により得た収益である疑いが認められる場合は速やかに行政庁に届け出ます。4=教育訓練が違反するわけもありません(努力義務)。よって7年の保存が必要な確認記録を5年で廃棄している2番が正解肢となります。
■近年の宅建本試験問題(皆さん直近の過去問は解く機会が多いと思いますので、古すぎず新しすぎない練習問題を1つ。言い回しなど、雰囲気をチェックしておきましょう)
宅建業者Aが行う業務に関する次の記述のうち、宅建業法の規定に違反するものはいくつあるか(2018-40)
ア 宅建業者Aは、自ら売主として、建物の売買契約を締結するに際し、買主が手付金を持ち合わせていなかったため手付金の分割払いを提案し、買主はこれに応じた。
イ 宅建業者Aは、建物の販売に際し、勧誘の相手方から値引きの要求があったため、広告に表示した販売価格から100万円値引きすることを告げて勧誘し、売買契約を締結した。
ウ 宅建業者Aは、土地の売買の媒介に際し重要事項の説明の前に、宅建士ではないAの従業者をして媒介の相手方に対し、当該土地の交通等の利便の状況について説明させた。
エ 宅建業者Aは、投資用マンションの販売に際し、電話で勧誘を行ったところ、勧誘の相手方から「購入の意思がないので二度と電話をかけないように」と言われたことから、電話での勧誘を諦め、当該相手方の自宅を訪問して勧誘した。
1.一つ
2.二つ
3.三つ
4.四つ
ア:手付金分割払いの提案は、信用の供与による契約締結誘引の禁止に該当します。
イ:値引きしているだけで信用供与とはなりません。単に親切な宅建業者です。
ウ:重要事項説明ではなく、世間話(重要事実)ですね。宅建業法に違反しません。
エ:電話が迷惑なら自宅に突撃・・許されるはずがありません。
宅建業法に違反するのはアエとなります。「業務上の規制」は、覚えやすい知識半分と、常識判断半分で確実に得点しておくべきところですね。
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