遺産分割や相続放棄+贈与の要点解説

宅建試験の民法解説:「相続一般」の難問対策。遺言や遺留分は次ページでお伝えしますので、まずは相続の基本を押さえておきましょう。出題可能性は高く、難易度は低いです・・が、相続分の放棄や譲渡など最近は細かい問題も出題されているので少し深入りしてみましょう。宅建試験における権利関係の貴重な得点源ですので、ここは優先的に力を入れてマスターしてください。また、ほとんど出題されない「贈与」にも少し触れておきます。

相続の難問対策+贈与

相続とは

相続とは、人が死亡した場合に、その者の財産が他の人に移転することをいい、相続には「法定相続」「遺贈」「遺留分」があります。

例えば、Aさんが妻と子を残して死亡しました。通常は、Aの財産を妻と子が「法定相続」します。しかしAには愛人がいて、愛人に全財産を贈与するとの遺言を残していたとします。これが「遺贈」です。しかし、妻と子はそれに納得するはずがありません。そこで妻と子はある程度の財産を愛人から取り戻すことができます。これを「遺留分減殺侵害額請求」といいます。財産を取り戻すのであって、遺贈を取り消すわけではありません。

ではこの中から「法定相続」を見ていきます。以下、相続(人)とは法定相続(人)のことです。


相続人の範囲と順位

配偶者がいる場合は、配偶者は必ず相続人となります。順位も何もありません。配偶者はとても強く、別格です。配偶者とは法律上の配偶者(夫や妻)をいい、内縁配偶者は含まれません。内縁の者は特別縁故者として財産分与を受けることができる可能性があるに過ぎません。そして以下の者は配偶者とともに、配偶者がいないときは単独で、次の順位で相続人となります。

第一順位:(胎児、非嫡出子、養子を含む)
第二順位:直系尊属
第三順位:兄弟姉妹

直系尊属とは、親や祖父母です。これは親等が近い者が優先するので、親がいれば祖父母は相続人とはなりません。被相続人に配偶者と子がいた場合は、配偶者と子が相続人となり、直系尊属や兄弟姉妹は相続人とはなれません。

宅建合格!相続順位
子が被相続人の死亡以前に死亡していた場合(同時死亡を含む)などは、子の子、孫が代わりに相続することができます。これを「代襲相続」といいます。被相続人の死亡以前に子が死亡していた場合はその孫、兄弟姉妹が死亡していた場合は兄弟姉妹の子が代わって相続します。代襲相続は、子と兄弟姉妹の死亡についてのみ認められます。ちょっとややこしい代襲相続の出題ポイントです。

・配偶者に代襲相続は認められないため、再婚した配偶者の縁組前の連れ子は、配偶者が先に死亡しても代襲することはできない!

・子の子(孫)の子(ひ孫)は代襲相続ができるが、兄弟姉妹の子の子(兄弟姉妹の孫)は代襲相続ができない!

・代襲原因は、相続開始以前の死亡・相続欠格(※1)・相続廃除(※2)である!

相続放棄は代襲原因とならず、被相続人の子や兄弟姉妹が相続権を「放棄」した場合、その子は代襲相続ができないという点にご注意ください。

(※1)相続欠格:相続に関して不正の利益を得ようとした者の、相続権を剥奪する制度(例:先順位者を死亡させた、詐欺や強迫により自分に有利な遺言をさせた・・etc)

(※2)相続廃除:被相続人の請求に基づき、家庭裁判所の審判等により相続権を剥奪する制度(例:被相続人を虐待するなどしたため、相続人の地位を廃除された・・etc)

ややこしいので練習しておきましょう。

【問】Aには妻BとBとの間の子Cがおり、Cには妻DとDとの間の子Eがいる。Aの死亡により相続が開始した場合に、Cが相続の放棄をしたときは、Eは、甲の相続人にならない。 → 正:相続放棄は代襲原因とならないのでEは相続人とならない。

【問】Bは、被相続人Aの実子であったが、AとBがいずれも死亡し、両者の死亡の前後が分明でない場合、Bの実子であるCがBを代襲して相続人となる。 → 正:相続開始以前に死亡とは、同時死亡も含みます。

【問】Aには実子BCと養子Dが、Bには実子E、Cには養子F、Dには実子G、さらにEには実子Hがいる。Aの相続に関しCが廃除されたときは、CがFを養子としたのがその廃除後である場合であっても、Aの相続の開始前であるときは、FはCを代襲し、Aの財産はBFDが相続する。 → 正:本試験でよく出題される余計な情報だらけの長文ですが、聞きたいこと、ポイントは僅かですのでそこを見抜いてください。Fは相続開始前に子としての身分を取得しているので、BF及びDが相続人となります。


相続分の計算

相続人が複数いる場合、誰がどれだけ相続できるのか、という問題です。

配偶者と子が相続人の場合(1:1
配偶者:2分の1 子:2分の1

配偶者と直系尊属が相続人の場合(2:1
配偶者:3分の2 直系尊属:3分の1

配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合(3:1
配偶者:4分の3 兄弟姉妹:4分の1

子が数人いるときは、2分の1を頭数で均等に分けます。養子でも非嫡出子でも相続分は実子(嫡出子)と同じとなります。直系尊属が数人いるときは、3分の1を頭数で均等に分けます。兄弟姉妹が数人いるときは、4分の1を頭数で均等に分けます。片親が違う兄弟姉妹の相続分は、全血の兄弟姉妹の2分の1となるという点にご注意ください。

では、少し練習をしてみましょう。Aさんが1,200万円の財産を残して死亡しました。次の者の相続分は、それぞれいくらになるでしょうか?

1.Aに妻と嫡出の子BとCがいた。
2.Aに妻と嫡出子B、養子C、非嫡出子Dがいた
3.Aに妻と父親B、母親C、弟Dがいた

正解です↓

1.妻:600万円 B:300万円 C:300万円
2.妻:600万円 B:200万円 C:200万円 D:200万円
3.妻:800万円 B:200万円 C:200万円 D:なし

簡単ですね。では難問対策として代襲相続などが絡んだ複合問題を1つ。これが解ければ相続分の計算はバッチリです。関係図を書きながら考えてみてください。

【問】AB夫婦は、先妻との間の子CがいるDを養子にした。その後、DはEと再婚し、その間にFが生まれた。Aには母Gがいる。ADFの3人が旅行中に事故で死亡したが、その死亡の先後は不明であり、Aの遺産は1,200万円であった。この場合の相続分は、B800万円、G400万円となる。正しいか誤りか・・正解は最後で!


相続分の譲渡と遺産分割

遺産分割は面倒で時間がかかります。早く済ませたい、疲れる遺産争いに巻き込まれたくない、今の生活で十分というときに、遺産分割前に自分の相続分を他の相続人や第三者に譲渡してしまうことができます。

また共同相続人は、いつでも他の相続人に遺産の分割を要求することができます。協議により遺産の分割を禁止することもできますが、分割禁止期間内でも共同相続人全員の合意があれば遺産の全部または一部の分割をすることができます。被相続人の遺言により分割が禁じられた場合、共同相続人全員の合意があっても原則として分割をすることはできません。共同相続人間で遺産分割協議が調わない場合は、分割を家庭裁判所に請求することができますが、一部を分割することで他の共同相続人の利益を害するおそれがあるときに分割請求は認められません(家庭裁判所は分割を禁ずることもできる)。

遺産分割前に共同相続人の一人が相続財産を処分してしまった場合、共同相続人は全員の同意(処分をした当人は除く)により処分された財産が遺産分割時に存在するものとみなすことができます。死が近い者の財産を使い込んで、相続が開始されたら遺産もしっかり分割してもらうなんて虫のいい話です。

また改正民法により、婚姻期間が20年以上の被相続人が配偶者に対してした居住用建物や敷地の遺贈または贈与は、遺産分割の計算対象から外れることとなった点にも注意しておいてください。「20年以上」「居住用に限る」・・ひっかけ問題を作りやすいところですね。

更に令和6年法改正により、所有権の登記名義人について相続の開始があり、所有権を取得した者は、自己のために相続があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に所有権移転登記をしなければならないとされています(相続人に対する遺贈も同様。正当理由なく登記申請を怠った場合は10万円以下の過料)。


相続の承認と放棄

被相続人が死亡した場合、相続人は相続を承認するのも放棄するのも自由です。財産が手に入るのに放棄する人なんているの?と思われた方もいるかと思いますが、財産とは金銭や不動産など、プラスの財産ばかりではありません。場合によっては借金だらけで、マイナスの財産のほうが多いこともあるのです。

そこで相続人は、家庭裁判所に申述して相続放棄により全く相続がないことにしたり、「限定承認」により相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務等を弁済し、固有財産をもって責任を負わないという留保付で権利義務を承継することができます。相続財産全部について承認することは「単純承認」といいます。考慮期間を徒過した場合や背信的行為があった場合も単純承認となります。以下、ここでの宅建試験出題ポイントです。

・相続の承認や放棄は、相続人が相続の開始を知ったときから3ヶ月の考慮期間内にしなければならない!(相続人が複数いる場合は個別に起算する。共同相続人ABのうち、Aが自己に相続が開始したのを知ってから3ヶ月が経過しても、Bが自己に相続が開始したことを知らないときは自己の考慮期間内であれば放棄をすることができる)

相続の開始を知ったとき=自己に相続権があることを知ったときという意味です。配偶者や第一順位の相続人であれば相続開始を知ったとき=被相続人が亡くなったときとシンプルに考えて問題ありませんが、第二順位以降の相続人にとって相続開始を知ったときとは「前順位の相続人が相続放棄をしたことを知ったとき」です。

父A母B子C子Dの4人家族でAが借金を残して死亡した場合、BCDはAの他界を知った日から3ヶ月以内に相続放棄を行えば借金を免れます。そしてその借金は父方の祖父母EFへと向かいますが、EFはBCDが相続放棄をしたことを知らなかったのであれば、それを知った日から3ヶ月間は相続放棄が可能となります。「相続の開始を知ったとき」の言い回しを変えて「EFはBCDの相続放棄を知ったときから3ヶ月以内であれば相続放棄ができる=〇」といった出題もあり得ますので、頭を柔らかくして対応できるようにしておきましょう。

・相続の承認や放棄の考慮期間の伸長は、利害関係人または検察官の請求に基づき家庭裁判所が行うことができる!(被相続人が遺言で伸長できる? → ×)

・一度した相続の承認や放棄は、原則として撤回することができない

・詐欺や強迫等によって相続の承認や放棄をした場合、家庭裁判所に申述することで、その承認や放棄を取り消すことができる!

・未成年者が相続の承認や放棄をする場合、法定代理人の同意を要する!

・相続開始前に、前もって相続の放棄をしておくことはできない!

・相続の開始を知りながら相続財産を処分した者は、単純承認をしたものとみなされ、もはや放棄をすることはできない!(相続放棄後に相続財産を処分した場合、悪意ある隠匿等は相続放棄の効果が覆り、単純承認をしたものとみなされることがあります)

・相続人が数人いる場合、限定承認は、相続人全員が共同してしなければならない!(相続放棄をした者がいるときは、その者を除いた残りの全員で行う)

・限定承認は、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければならない!
単純承認 限定承認 相続放棄
権利義務の全てを承継 プラス財産の限度内で債務を承継 一切承継しない
熟慮期間の経過・相続財産の処分等 相続人全員で家庭裁判所へ申述 各相続人が家庭裁判所へ申述


贈与とは

相続税を安くしたい、生きているうちに財産を引き渡したい、というときに「生前贈与」という言葉をよく耳にすると思います。贈与とは、当事者の一方(贈与者)が自己の財産を無償で相手方(受贈者)に与えることをいいます(改正民法により他人の財産を贈与することもできると明文化されました)。有償・双務契約の典型が売買であるのに対し、無償・片務契約の典型が贈与となります。片務契約なので、同時履行の抗弁権や危険負担は問題となりません。

以下、宅建試験での出題可能性はすごく低いですが、一応重要ポイントをまとめておきます(遺贈につきましては次ページでお送りしますので、まずは贈与一般について見ておきます)。

まず、書面によらない贈与の場合、各当事者はいつでも撤回解除することができるということは覚えておいてください。書面によらない贈与も履行が終わった部分については解除することができなくなりますが、死因贈与については遺贈に関する規定が準用されるため、原則として解除が可能となります。「書面」の定義は緩く、決まった形式はありません。贈与の契約と書面の作成が同時である必要もありません。

贈与者は、特定物の引渡しの場合は引渡時まで善管注意義務を負います。
受贈者は、不動産の贈与を受けた場合は登記をしないと所有権の承継を第三者に対抗できません。

贈与契約は無償契約のため、原則として贈与者は担保責任を負いませんが、贈与者がその瑕疵または不存在を知りながら受贈者に告げなかったときには担保責任を負うこととます。← 改正民法によりこの責任がなくなった点に注意。贈与の目的として特定したときの状態で引渡せばよいこととなりました。例外として責任を負う贈与に「負担付贈与」というものがあるのですが、宅建試験での出題可能性は低いでしょう。出題されたら消去法で!


相続分の解答ですが、正解は『正しい』です。同時死亡の場合、死亡者相互間では相続を生じません。養子縁組前に生まれた子Cは養親や養親血族との間に親族関係を生じず、さらにDの配偶者Eに代襲相続が生じるわけもなく相続人とはなりません。よってAの相続人は配偶者Bと母Gとなり、法定相続分に従いB800万、G400万となります。


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