建築基準法の高さ制限

宅建試験の法令制限解説:建築基準法で定める建築物の「高さに関する制限」について解説します。高さ制限は難問題の宝庫です。難しい問題を作ろうと思えばいくらでも作れますので、細かい知識にこだわりすぎず要点だけをしっかりマスターしておいてください。意味不明な肢があったら消去法で対処してください。難しい肢が並ぶ中でポツンと簡単な肢がズバリ正解肢ということも多いです。2~3肢難しい場合は運勝負で大丈夫です。ここで細かい知識を詰め込む時間があるなら、宅建業法などをより確実にした方が有意義です。以下、建築物の高さに関する制限の要点です。

高さ制限の宅建解説

頑張って高いお金を支払い購入した自分の土地だからといって、張り切って自由に大きな建物を建てても良いということはありません。日照や通風などの健康上の問題、火災などの際に消防車のハシゴが上部に届くか、など様々な問題を考慮する必要があります。これらの見地から、建築基準法では建築物の高さに関する制限を課しています。


絶対高さの制限

第一種低層住居専用地域・第二種低層住居専用地域・田園住居地域内の建築物の高さは10mまたは12mのうち、都市計画で定められたものを超えてはいけません(絶対高さの制限)。

第1第2低層住専と田園住居は、居住環境の保護が特に強く求められている用途地域だからです。絶対高さが制限されるのは低層住専と田園住居の3つの用途地域のみですので注意してください。ただし、以下の2つの場合は例外として10mまたは12mを超えても構いません。出題可能性は低いですが一読しておいてください。

1.敷地の周囲に広い公園や広場、道路等の空地があり、低層住宅に係る良好な住居の環境を害するおそれがないと認めて特定行政庁が許可した建築物

2.学校等その用途からやむを得ないと認めて特定行政庁が許可した建築物

また令和5年の法改正により、特定行政庁の許可を受けることで高さの限度を除外できる3つめのケースが新設されました。「再生可能エネルギー源の利用に資する設備の設置のため必要な屋根などに関する工事」について、特定行政庁の許可を受けることで10mまたは12mを超えることも可能となります。


道路斜線制限

道路斜線制限とは、前面道路の反対側の境界線から建築物の敷地上空に向かって斜線を引き、その斜線の内側に建築物を建てなければならないという規制です。道路斜線制限の目的は、道路側の上部空間を確保することにあります。

道路斜線制限は、用途地域内、用途地域の指定のない都市計画区域内、準都市計画区域内で適用されます。ポイントとして、道路斜線制限が適用されない用途地域はない、と覚えておいてください。


隣地斜線制限(りんちしゃせんせいげん)

道路側だけでなく、隣地との関係においても上方の空間を確保する必要があります。隣地との境界線上に一定の高さをとり、そこから一定の傾きの斜線を引き、その範囲内でしか建築できないよう制限します。制限隣地斜線制限の目的は、隣地間の通風、採光等の確保にあります。

隣地斜線制限は、31mまたは20mを超える建築物を対象としています。ここでのポイントは、絶対高さの制限がある第1第2低層住専と田園住居で隣地斜線制限は適用されないということです。


北側斜線制限

特に良好な住居環境を保護する必要がある地域には、道路斜線制限、隣地斜線制限よりも更に厳しい北側斜線制限が課されます。北側隣地との境界線上に一定の高さをとり、北から南方向へ一定の傾きの斜線を引き、その範囲内でしか建築できないよう制限します。北側斜線制限の目的は、北側にある隣地の日照、採光、通風等の確保にあります。

北側斜線制限は、特に良好な住居環境を保護する必要がある地域、つまり第一種・第二種低層住宅専用地域、田園住居地域、第一種・第二種中高層住宅専用地域が対象となります。ポイントは、北側斜線制限は第1第2低層住専、田園住居、第1第2中高層住専の5つの住居地域のみで適用されるということです。
宅建合格!高さに関する制限
① =道路斜線制限
②③=隣地斜線制限
④ =隣地斜線制限・北側斜線制限

尚、建築物が異なる用途地域にまたがる場合、建築物の各部分ごとに斜線制限適用の有無を検討します。建築物の過半が存する・・というひっかけに注意してください。


日影規制(にちえいきせい)

「日影による中高層建築物の高さの制限」これを略して日影規制と呼びます。つまり、中高層建築物によって近隣の日照時間が短くなるのを防止するための規定です。日影規制の目的は、住宅地の中高層建築物が周囲の敷地へ落とす日影を一定時間以内に制限することで、直接的に日照を確保することにあります。

以下、日影規制のポイント+少し細かいですが出題可能性のある箇所です。

1.日影規制は、住居系(8つ)・近隣商業・準工業において適用される(=商業・工業・工業専用は対象外

2.日影規制は、用途地域無指定区域においても適用される

3.日影規制は、高層住居誘導地区内においては適用されない

4.第1第2中高層住専で日影規制の対象となる建築物は、北側斜線制限の適用がない

5.第1第2低層住専と田園住居で日影規制の対象となる建築物は、軒の高さが7m超、または地階を除く階数が3以上の建築物である

6.第1第2中高層住専、第1第2住居、準住居、近隣商業、準工業で日影規制の対象となる建築物は、高さ10m超の建築物である

7.日影規制は、「冬至日の8時~16時の8時間のうち、日影になる時間を制限する」という方法でなされる

8.同一敷地内に2つ以上の建築物がある場合、これらの建築物は、1つの建築物とみなして日影規制が適用される

9.建築物の敷地が道路や海等に接し隣地との高低差が著しい場合などは、日影規制が緩和される

10.日影規制の適用対象区域外にある建築物でも、高さが10mを超え、冬至日において日影規制の適用対象区域内に日影を生じさせる建築物は、日影規制の適用を受ける

上記番号に対応する補足として、

1=つまり日影規制の対象区域外となるのは、商業、工業、工業専用の3つです

1.2=これらの地域から地方公共団体が指定する区域で適用されます(都市計画での指定ではない!)

4=第1第2低層住専と田園住居では日影規制区域内でも北側斜線制限が適用される点に注意


天空率

令和6年の宅建試験でも出題された「天空率」について解説しておきます。土地を購入した買主が少しでも大きな家を建てられるように、宅建業者としても天空率について理解しておく必要があります。

天空率とは、任意の測定地点から魚眼レンズで空を見上げたときに、円の面積に対してどれだけ空が見えるかの割合を示したもので、天空率を使用することにより、斜線制限の適用時と同程度以上の採光、通風等が当該位置において確保されるのであれば、斜線制限を超えた高さの建物を建てられるようになります(=斜線制限が適用されない)。

天空率100%=全方向に天空を望む状態、0%=天空がすべて塞がれた状態

天空率による緩和対象=斜線制限(道路斜線制限、隣地斜線制限、北側斜線制限)
天空率の適用対象外 =絶対高さの制限、日影規制、高度地区

天空率を使用して建築した建物は、建築計画概要書にその旨を記載する必要があります。


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容積率 防火・準防火地域
  道路斜線 隣地斜線 北側斜線 日影規制
第一低層住専 × 37
第二低層住専 × 37
田園住居 × 37
第一中高層住専 10
第二中高層住専 10
第一住居 × 10
第二住居 × 10
準住居 × 10
近隣商業 × 10
商業 × ×
準工業 × 10
工業 × ×
工業専用 × ×
未指定区域 × 10 or 37
 △ =日影規制の適用がない場合に適用
 37=地上3階建て以上or軒の高さ7m超の建築物
 10=高さ10m超の建築物
【宅建試験問題 平成2年ー問24】建築物の高さの制限に関する次の記述のうち、建築基準法の規定によれば、正しいものはどれか。(改題)

1.第一種低層住居専用地域内においては、建築物の高さは、すべて10mを超えてはならない。
2.第一種低層住居専用地域内の建築物のうち、地階を除く階数が2以下で、かつ、軒の高さが7m以下のものは、日影による中高層の建築物の高さの制限を受けない。
3.隣地境界線上で確保される採光、通風等と同程度以上の採光、通風等が当該位置において確保されるものとして一定の基準に適合する建築物については、隣地斜線制限は適用されない。
4.建築物が第二種低層住居専用地域と第一種住居地域にわたる場合、当該建築物の敷地の過半が第一種住居地域であるときは、北側斜線制限が適用されることはない。
1 誤:第一種・第二種低層住居専用地域、田園住居地域内においては、建築物の高さは10mまたは12mのうち都市計画において定められた建築物の高さの限度を超えてはならない
2 正:第一種・第二種低層住居専用地域、田園住居地域内で日影規制の対象となるのは、軒の高さ7mを超える建築物または地階を除く階数が3以上の建築物
3 誤:隣地境界線からの水平距離が16mまたは12.4m外側の線上の政令で定める位置における採光・通風が一定の基準に適合する建築物に隣地斜線制限は適用されませんが・・覚える必要なし
4 誤:建築物が2以上の地域や地区にわたる場合、建築物の各部分ごとに斜線制限適用の有無を検討する
【宅建試験問題 平成5年ー問23】建築物の高さの制限に関する次の記述のうち、建築基準法の規定によれば、正しいものはどれか。

1.道路斜線制限(建築基準法第56条第1項第1号の制限をいう。)は、用途地域の指定のない区域内については、適用されない。
2.隣地斜線制限(建築基準法第56条第1項第2号の制限をいう。)は、第一種低層住居専用地域及び第一種中高層住居専用地域内については、適用されない。
3.北側斜線制限(建築基準法第56条第1項第3号の制限をいう。)は、第一種低層住居専用地域・第二種低層住居専用地域・田園住居地域・第一種中高層住居専用地域・第二種中高層住居専用地域内に限り、適用される。
4.日影制限(建築基準法第56条の2の制限をいう。)は、商業地域内においても、適用される。
1 誤:都市計画区域、準都市計画区域、用途地域の指定のない区域で道路斜線制限は適用される
2 誤:隣地斜線制限は、第一種・第二種低層住居専用地域、田園住居地域を除き適用される
3 正:北側斜線制限が適用されるのはこの住居系の5つ
4 誤:商業・工業・工業専用に日影規制は適用されない
【宅建試験問題 平成7年ー問24】日影による中高層の建築物の高さの制限(以下この問において「日影規制」という)に関する次の記述のうち、建築基準法の規定によれば、正しいものはどれか。

1.日影規制の対象となる区域については、その区域の存する地方の気候及び風土、土地利用の状況等を勘案して、都市計画で定められる。
2.第一種中高層住居専用地域又は第二種中高層住居専用地域において、日影規制の対象となるのは、軒の高さが7m又は高さが10mを超える建築物である。
3.同一の敷地内に2以上の建築物がある場合においては、これらの建築物を一の建築物とみなして、日影規制が適用される。
4.建築物の敷地が道路、水面、線路敷その他これらに類するものに接する場合であっても、日影規制の緩和に関する措置はない。
1 誤:日影規制の対象区域は、地方公共団体の条例で指定される(都市計画で定める絶対高さと区別)
2 誤:軒の高さは関係なく、高さ10m超の建築物
3 正:同一敷地内に2以上の建築物がある場合、これらの建築物を一の建築物とみなして日影規制の規定を適用する
4 誤:道路や海などと接して隣地と高低差がある場合、日影規制は緩和される