宅建試験の法令制限解説:建築基準法も終わり、「農地法」について解説します。宅建試験で農地法が出題されない年はないと考えてください。一見複雑そうですが、すごく簡単です。この場合は農地法の許可がいるのか、いるとしたら第何条の許可なのか、3条許可、4条許可、5条許可をしっかり区別し、パターン化して確実に覚えていってください。農地法を間違えたら怒ります。宅建合格のためにはここで絶対に1点ゲットです。
- 農地法の宅建解説
■農地法とは
私たちに食料を供給してくれる農地はとても大切です。農地を勝手に宅地に転用されたら?農業を営むつもりのない者が農地を買ったら?
国民の生活に最も重要な食料の不足につながってしまいますね。そこで食料自給のための農地の確保、耕作者の地位の安定を目的として、「農地」については「農地法」で厳しく規制が行われています。
■農地法の農地とは
農地法の適用を受ける農地とは「耕作の目的に供される土地」をいいます。ここでの注意点は3つです。
1.土地登記簿上の地目とは関係なく、事実状態で判断される
2.所有者や使用者の使用目的に関係なく、客観的に判断される
3.土地の一時的な状態で判断しない
特に1番は重要です。土地登記簿上の地目が「宅地」や「山林」であっても、現況が農地ならば・・農地ですね。2番3番ですが、作物を栽培していなくても(休耕地)客観的に見ていつでも耕作できそうな状態ならば農地、一時的な「家庭菜園」などは農地ではない、ということです。
また、農地と同様、「採草放牧地」も農地法の適用を受けるということも覚えておいてください。採草放牧地とは、主として耕作または養畜事業のための採草、または家畜の放牧に供される農地以外の土地をいいます。
■農地の権利移動・転用・転用目的権利移動
ここが農地法の最重要ポイントです。ビシバシ宅建試験で出題されます。許可はいるのか?誰の許可か?例外は?・・確実に覚えておいてください。
権利移動=権利の移転や使用収益を目的とする権利設定
転用 =農地を農地以外のものにすること
1.農地の権利移動=農地法3条許可(農地に関する権利の設定または移転=使う人が変わる)
農地、採草放牧地について所有権を移転し、または地上権、永小作権、質権、賃借権、使用貸借権その他の使用および収益を目的とする権利を設定または移転する場合には農地法3条の許可を要する(抵当権は含まれない点に注意)。
対象:農地→農地 採草→採草 採草→農地
許可権者:農業委員会 ← 全て農業委員会の許可なので注意
ただし、以下の場合は例外として農地法3条の許可が不要となります。
・国または都道府県が権利を取得する場合(ひっかけ!地方公共団体でない点に注意)
・土地収用法により収用される場合(収用事業目的でも売買等で取得すれば許可必要)
・遺産分割や相続により取得する場合(農業委員会への届け出は必要)
・離婚による財産分与についての裁判または調停により取得する場合
農地法3条の許可を受けずに農地等について所有権の移転などが行われた場合、その行為(契約)自体が無効となり、また、3年以下の懲役または300万円以下の罰金もあり得ます。農地以外を農地に造成 許可不要 国や都道府県の権利取得 許可不要 抵当権設定 許可不要 売買予約 許可不要 売買・交換による権利取得 許可必要 競売による権利取得 許可必要 贈与による権利取得 許可必要 特定遺贈による権利取得 許可必要(相続人に対する場合は不要) 賃借権や地上権等の設定 許可必要 資材置場等の一時使用 許可必要 予約完結権の行使 許可必要
2.農地の転用=農地法4条許可(自己の農地を農地以外の土地にする=使い方が変わる)
自分が所有している農地を、農地以外のものにする場合には農地法4条の許可を要する。
対象:農地→農地以外
許可権者:農業委員会経由で知事(農林水産大臣が指定する市町村は指定市町村の長の許可)
ただし、以下の場合は例外として農地法4条の許可は不要となります。
・国または都道府県が地域振興上または農業振興上の必要性が高い施設のために権利を取得する場合(※)
・土地収用法により収用される場合
・自己所有の農地(2a未満)を農業用施設に供する場合
・市町村が道路、河川、堤防、水路等にする場合
農地を採草放牧地にする場合は転用となりますが、採草放牧地を採草放牧地以外の土地にする場合は農地法4条の規制は受けませんので注意してください。
また、都市計画法による市街化区域内において農林水産大臣と協議が調った区域内の農地については、転用に着手しようとする日までに農業委員会に届出をすれば、農地法4条の許可不要で農地を他の土地に転用することができます(面積の大小問わない)。国・都道府県・指定市町村が許可を要する場合、都道府県知事や指定市町村長との協議をもって許可があったものとみなされます。
農地法4条の許可を受けずに農地を転用した場合、原状回復や転用工事中止等の命令が行われることがあり、また、3年以下の懲役または300万円以下の罰金もあり得ます(法人は1億円)。
3.農地の転用目的権利移動=農地法5条許可(農→農以外、採→採以外にするための権利移動=使う人も使い方も変わる)
農地を農地以外、採草放牧地を採草放牧地以外(農地を除く)にするため所有権を移転し、または地上権、永小作権、質権、賃借権、使用貸借権その他の使用および収益を目的とする権利を設定または移転する場合には農地法5条の許可を要する。
対象:農地→農地 採草→採草(農地を除く=3条許可)からの転用
許可権者:農業委員会経由で知事(農林水産大臣が指定する市町村は指定市町村の長の許可)
ただし、以下の場合は例外として農地法5条の許可は不要となります。
・国または都道府県が地域振興上または農業振興上の必要性が高い施設のために権利を取得する場合(※)
・土地収用法により収用される場合
・農業用施設のための転用
・市町村が道路、河川、堤防、水路等にする場合
また、都市計画法による市街化区域内において農林水産大臣と協議が調った区域内の農地については、所有権の移転等をしようとする日より前、かつ、転用に着手しようとする日までに農業委員会に届出をすれば、農地法5条の許可不要で農地等の転用ができます(面積の大小問わない)。
この市街化区域内の特例は農地法4条5条の許可のみで認められ、3条の許可では認められませんので注意です。更に4条許可と同様、国・都道府県・指定市町村が許可を要する場合、都道府県知事や指定市町村長との協議をもって許可があったものとみなされます。
農地法5条の許可を受けずに農地等について所有権移転等が行われた場合、その行為(契約)自体が無効となり、また、原状回復や転用工事中止等の命令が行われ、かつ、3年以下の懲役または300万円以下の罰金もあり得ます(法人は1億円)。
※国または都道府県が自己転用・転用目的で農地を取得する場合
農地法4条5条許可不要:道路、農業用用水排水施設等への転用目的 ← 地域振興上・農業振興上の必要性が高い施設
農地法4条5条許可必要:学校、社会福祉事業施設、病院、多数の者の利用に供する国・都道府県の庁舎等への転用目的農地法3条 農地法4条 農地法5条 対象取引 ・農地を農地
・採草放牧地を採草放牧地
・採草放牧地を農地農地をその他 ・農地をその他
・採草放牧地をその他許可権者 農業委員会 農業委員会経由で知事 同左 許可不要 ・国または都道府県の取得
・遺産分割や相続
・土地収用法による収用や使用
・民事調停法による取得・国または都道府県が地域振興上または農業振興上の必要性が高い施設のために権利を取得する場合
・土地収用法による収用や使用
・採草放牧地の転用
・農家が自己所有の農地(2a未満)を農業用施設に供する場合・国または都道府県 が地域振興上または農業振興上の必要性が高い施設のために権利を取得する場合
・土地収用法による収用や使用
・採草放牧地を農地にする場合
・農業用施設のための転用市街化区域 特例なしで許可必要 あらかじめ農業委員会に届け出ることで許可不要 同左 許可や届出なし 効力を生じず、3年以下の懲役または300万円以下の罰金 原状回復や転用工事中止等の命令が行われ、3年以下の懲役または300万円以下の罰金(法人は1億円) 効力を生じず、原状回復や転用工事中止等の命令が行われ、3年以下の懲役または300万円以下の罰金(法人は1億円)
■重要!平成28年の農地法改正
改正前:農地法4条5条許可 →都道府県知事の許可(面積4ha超は農林水産大臣の許可)
改正後:農地法4条5条許可 →都道府県知事の許可に統一。ただし、農地または採草放牧地の農業上の効率的かつ総合的な利用の確保に関する施策の実施状況を考慮して農林水産大臣が指定する市町村(=指定市町村)の区域内にあっては指定市町村の長の許可。
農地法4条5条の許可を受けようとする者は、農林水産省令で定める事項を記載した申請書を、農業委員会を経由して、都道府県知事等に提出しなければならない。農業委員会は、当該申請書に意見を付して都道府県知事等に送付しなければならない。
農業委員会が意見を述べる場合、
30アールを超える農地の転用 → 原則として都道府県機構の意見が必要
30アール以下の農地の転用 → 必要があれば都道府県機構の意見を聴くことができる
また、指定市町村内にある指定市町村が、農地法4条5条の許可が必要となる行為をする場合、指定市町村と指定市町村長との協議が成立することをもって、4条5条の許可があったものとみなされます。
■農地所有適格法人(H28法改正)
農地所有適格法人とは、農地法で規定された呼称で、同法第2条第3項に定める要件を満たした「農地に関する権利の取得が可能な法人」を指します。いわゆる認可法人ではなく、一定の要件を満たす法人が農地所有適格法人として農地に関する権利主体になれるという性質のものであり、農地法第2条第3項の要件を欠けば、いつでも農地所有適格法人としての資格を失います。
要件等まで詰めると難問となり過去にも出題されたことはありませんので、ここでは「農地所有適格法人でない法人も農地の賃借はできる」という1点+大穴として下線部分だけを押さえておいてください。農地所有適格法人であれば農地の売買(所有)・賃借が可能で、一般法人は農地の所有はできませんが賃借は可能(一定の要件あり)となります。尚、社会福祉法人がその目的に供するため農地を取得する場合、農地所有適格法人でなくても、農業委員会の許可を得て農地の所有権を取得することができます。
もう少し詰めたい方へ難問対策
農地所有適格法人は、
・株式会社(非公開会社に限る)、持分会社(合名、合資、合同)、農事組合法人である必要がある
・主たる事業(売上の過半)が農業(農業関連事業も含む)である必要がある
・業務執行役員の過半が、農業に常時従事する構成員である必要がある
・毎事業年度の終了後3ヶ月以内に、事業状況等を農業委員会に報告する必要がある
■農地法の適用を受ける「耕作」
コンクリートを敷き詰めたビニルハウスなどで農作物の耕作を行っても、そのビニルハウスは農地法上の農業用施設とは認められず、栽培管理の向上のため農地を改良すると、それは農地ではなくなり、農地の「転用」扱いとなることがありました(=新たに農地法4条許可が必要)。
そこで平成31年の法改正により、「農林水産省が定めた農作物栽培高度化施設」と認められた場合は農地法の許可が不要となりました。許可を不要とするには、コンクリート張り等を行う前に、農業委員会に届け出なければなりません。農作物栽培高度化施設と認められたのに長期間に渡り農作物の栽培を行わない場合、農業委員会は、相当の期間を定めて栽培を行うべき勧告をすることができます。勧告は義務ではない点に注意。
■農地の賃借人
農地または採草放牧地の賃借人は、賃貸借の解除、解約申入れ、合意解除等の契約を終了させる行為は、原則として都道府県知事の許可を受けなければ行うことができません。また、農地または採草放牧地の賃貸借は、登記がなくても引渡しによって第三者に対抗することができます(対抗要件=引渡し ←重要!)。
また、あまり重要ではありませんが、農地の賃貸借契約に期間の定めがある場合、その期間満了の1年前から6ヶ月前までに更新拒絶の意思表示をしておかないと、それまでと同じ条件(期間の定めはないものとされる)で更に契約したものとみなされる(法定更新)、ということは覚えておいてもいいかもしれません。
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