宅建試験の法令制限解説:「土地区画整理法」について解説します。覚えることが多く、しかも複雑で大変です。宅建試験ではかなり広い範囲から1問しか出題されませんが、どこから出題されるか分からない都市計画法や建築基準法と違い、土地区画整理法を押さえておけば確実に1点を拾えるとも言えます。ここは複雑だから宅建業法などに力をいれる!という方でも、最低限ポイントは覚え、「仮換地」と「換地処分」は押さえておいてください。最も出題可能性が高いのはこの2つなので、仮換地と換地処分は詳しめに解説します。
- 土地区画整理法の宅建解説
土地区画整理事業の流れとしては、施行者の決定 → 事業計画の決定・認可等の公告 → 換地計画 → 知事の計画認可→ 施行 → 換地処分の公告となります。
■土地区画整理事業とは
都市計画区域内の土地について、公共施設の整備改善、宅地の利用増進を図るために行われる土地の区画形質の変更および公共施設の新設・変更に関する事業をいい、換地計画・仮換地の指定・換地処分に分けられます。つまり道路や公園のような公共施設の整備や改善、袋地の解消、不整形な宅地を形の良い宅地にし、そのエリアの価値を高めるための事業ですね。土地区画整理事業は、都市計画区域内でしか施行できないという点は重要です。
土地区画整理事業について都市計画法の規定により都市計画に定められた区域=「施行区域」
土地区画整理事業を施行する土地の区域=「施行地区」施行区域 施行地区 都市計画区域外(準都市計画区域も含む) × × 市街化区域 〇 〇 市街化調整区域 × 〇 非線引区域 〇 〇
■土地区画整理事業の施行者
土地区画整理事業を施行することができる者は以下の7種類です。
1.個人(宅地の所有者および借地権者またはこれらの者から同意を得た者)
2.土地区画整理組合(宅地の所有者および借地権者の7人以上が共同して設立)
3.土地区画整理会社(地権者と民間事業者が共同で設立する株式会社または有限会社)
4.地方公共団体(都道府県、市町村)
5.国土交通大臣
6.独立行政法人都市再生機構
7.地方住宅供給公社
1~3の民間施行、4~7の公的施行があるということを覚えておいてください。公的施行においてはその事業ごとに土地区画整理審議会が設置されます(民間施行には設置されません)。
土地区画整理事業には①都市計画事業であるものと②都市計画事業ではないものがあり、1~3は都市計画で定められた(都市計画区域内の)施行区域内外で土地区画整理事業を行うことができ、4~7は都市計画(市街地開発事業)に定められた施行区域内でのみ土地区画整理事業を行うことができます。
=簡単に言うと、民間施行は①②どちらも可能、公的施行は①のみ可能ということです。個人施行者 規準(一人施行)または規約(共同施行)+事業計画を定め、都道府県知事の認可 土地区画整理組合 定款+事業計画を定め、都道府県知事の認可 土地区画整理会社 規準+事業計画を定め、都道府県知事の認可
■土地区画整理組合
意外と単独で出題される土地区画整理組合について補足しておきます。
土地区画整理組合は、7人以上が共同して定款と事業計画を作成し、施行地区となるべき区域内の宅地について権利を有する者(所有権者・借地権者で未登記含む)の2/3以上の同意を得て都道府県知事に認可申請を行います。
未登記の借地権者は借地権を申告する義務を負い、一定期間内に申告がない場合、その借地権は存在しないものとみなされます。また、組合員の有する所有権・借地権の全部または一部を承継した者は、その権利義務を承継します。「借家人」は組合員となりませんので凡ミスに注意してください。
組合は、その事業に要する経費に充てるため、賦課金として参加組合員(所有権・借地権を有しない組合員)以外の組合員に対して金銭を賦課徴収することができ、組合に対して債権を有する組合員でも、賦課金の納付について相殺をもって組合に対抗することはできません。賦課金を徴収するのに認可等不要で、賦課金の額・徴収方法は総会の議決で定められます(一律ではなく、宅地や借地の位置、地積等を考慮して公平に定める)。
総会は、定款に特別な定めがある場合を除き、組合員の半数以上が出席しなければ開くことができません。組合員の1/3以上の連署+理由を記載した書面を組合に提出して、理事または監事の解任を請求することもできます。
組合が解散する場合は都道府県知事の認可を受ける必要があり、借入金がある場合は債権者の同意も必要となります。設立要件 ①7人以上が共同して定款や事業計画等を定める
②施行地区内の宅地所有者・借地権者の各2/3以上の同意を得る
③知事の認可を得る組合員 施行地区内の宅地所有者・借地権者は、全て組合員となる
■土地区画整理事業の手法
土地区画整理事業は、減歩(げんぶ。ぷでも)と換地処分という手法で行われます。
1.減歩
施行区域内の各筆の土地所有者から一定の割合(減歩率)で土地を提供させること。この土地を公共用施設の用地と保留地にあてる。減歩は通常、土地の無償提供によってなされる。提供された土地を削って整備していきます。
2.換地処分(下でより詳しく)
減歩によって生み出された土地は各地に分散しているので、これを公共用施設の用地や保留地に集めなければならず、道路や公園を新しく作る場合はその用地にあたる宅地は他の場所へ移さなければならない。このような場所的移動を換地といい、区画整理事業が終了した後にこの換地を法律的にも従前の宅地とみなすことを換地処分といいます。
キレイな空気に入れ替える「換気」と同じく、キレイな土地に入れ替えるのが「換地」です。
■土地区画整理事業の手続き
1.事業計画:土地区画整理事業の基本事項についての方針を示す。
2.認可:土地区画整理事業の施行には都道府県知事の認可(都道府県施行は国土交通大臣の認可、国土交通大臣施行は認可不要)が必要。上でも少し触れましたが、土地区画整理組合(+区画整理会社)が認可の申請をしようとする場合、定款(規準)および事業計画について施行地区となる区域内の宅地所有者および借地権者の各3分の2以上の同意を得る必要がある点に注意。
3.換地計画:施行者は換地処分を行うために、必ず換地計画を定める(施行者が個人、土地区画整理組合、市町村、地方住宅供給公社である場合、その換地計画について都道府県知事の認可を受けなければならない)。換地計画には、換地・清算金・保留地を定めます。
■換地照応の原則
換地計画において換地を定める場合には、換地および従前の宅地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等が照応するように定めなければならない。分かりやすく言うと、土地区画整理事業後に割り当てられる土地は、区画整理をする前の土地と同じような条件のものにする、ということです。
宅地所有者の申出または同意があれば、換地を定めないことも可能です(宅地の使用収益権者がいるときは、その者の同意も必要)。また公共施設用地など特別の宅地に対しては、位置・地積等について特別の考慮を払い換地を定めることも可能です。
■換地計画の清算金
換地照応の原則の例外として、宅地所有者の申出または同意があった場合には、換地計画でその宅地の全部または一部について換地を定めないとすることができますが、この場合は清算金で清算することになります。また、換地の割当てがない人や少ない人に対しても清算金が支払われます(=不均衡を金銭で清算するため必要に応じて徴収)。
清算金額に関すること(清算金明細)は換地計画で定める点、清算金は換地処分の公告があった日の翌日に確定する点は重要です。
■換地計画の保留地
宅地の整地費等の土地区画整理事業費用を生み出すため、一定の土地を換地として定めず、その土地を保留地として定めることができる(=換地として定めずに施行者が保有している土地)。
保留地を定めることができるケース⇒
個人、組合、整理会社:施行費用に充てるためor規準・規約・定款で定める目的のため
地方公共団体等:施行費用に充てるため
地方公共団体等(公的施行)が保留地を定める場合は土地区画整理審議会の同意が必要で、施行後の宅地の総額が施行前の宅地の総額を上回る範囲内においてしか保留地を定めることはできません。換地計画で定められた保留地は、換地処分の公告があった日の翌日において施行者が取得します(必ず施行者!取り決めで他の者が取得すること不可)。
■仮換地
土地区画整理事業は換地処分をもって終了しますが、事業の中途で仮換地の指定が行われることがあります。換地処分前に、仮に換地として指定される土地を仮換地といいます。
仮換地の指定は、仮換地となるべき土地と従前の宅地の所有者および使用収益権者に対し、仮換地の位置・地積、仮換地指定の効力発生日を通知して行います。公告して行うというひっかけに注意。また使用収益権者=地上権、永小作権、賃借権、質権を有する者で、例によって抵当権者は含まれませんので注意してください。
尚、仮換地の指定には次の条件が必要となります。組合が仮換地を指定するには土地区画整理審議会の意見を聴く=誤りなど、施行者によって必要な条件が異なり、そこそこ出題されますので余裕があれば覚えておいてください。個人 従前の宅地所有者等および仮換地となるべき宅地所有者等の同意 組合 総会もしくはその部会または総代会の同意 会社 所有権者および借地権者の各3分の2以上の同意 地方公共団体等 土地区画整理審議会の意見を聴く
そして仮換地が指定されると、従前の宅地について権原に基づき使用または収益できる者(=所有者、借地権者等)は、仮換地の指定の効力発生日から換地処分にかかる公告の日まで、仮換地について従前の宅地と同じ内容の使用または収益をすることができるようになります(従前の宅地については使用・収益不可)。使用収益権が仮換地に移るのであり、所有権は従前の宅地のままですので注意です。
仮換地を指定した場合において、従前の宅地に存する建築物の移転または除却が必要となった場合、施行者は、建築物を移転または除却することができます(土地区画整理審議会の意見等は不要)。また、仮換地上に建物などがあり、その除却のために仮換地の指定の効力発生日とは別に仮換地の使用・収益開始日を定める場合は、その日以後でなければ仮換地を使用・収益できないという点もご注意ください。
このように、使用収益権は仮換地に移りますが、所有権は従前の宅地のままですので、従前の宅地所有者は、従前の宅地を売却したり抵当権を設定したりすることができます(登記をすることも可能← 逆に仮換地では登記不可)。
また最後に、仮換地に指定されなかった土地の管理についても覚えておいてください。換地計画において換地を定めない場合、施行者は必要に応じて、その換地を定めないこととされる宅地所有者に対し、期日を定めて当該宅地の使用・収益を停止させることができます(この場合、施行者は損失を補償する)。
仮換地の指定または使用・収益の停止によって、使用・収益をする者がいなくなった従前の宅地は、換地処分の公告がある日まで施行者が管理することになります。- 甲地でショップを開いていたAさんが区画整理のため追い出され、他の土地をあてがわれ、そこで営業を行う。これが仮換地です。もちろんAさんは仮換地で使用収益ができるようになり、工事中の甲地では使用収益ができなくなります。しかし甲地の所有権はAさんのままですので、甲地を売却したり担保に入れたりすることはできます!
■換地処分
土地区画整理事業の工事が完了した後のお話です。使用収益権は仮換地、処分は従前の土地と分裂していたものを換地に一体化します。
換地計画にかかる区域の全部について、事業施行者が遅滞なく、土地区画整理事業の工事完了後に従前の宅地所有者に対して換地を交付することを換地処分といいます(区域の全部についてとありますが、規準・規約・定款・施行規定に別段の定めがあるときは、例外として一部の工事が終わっていない時点で行っても構いません)。
換地処分は、施行者が関係権利者(従前の宅地につき登記ある権利者や、未登記だが権利の申告をした権利者)に換地計画において定められた事項を通知して行い、そして都道府県知事は、換地処分があった旨を公告しなければなりません(国土交通大臣施行は国土交通大臣が公告を行う)。換地処分自体は通知して行われるので注意してください。公告して行うというひっかけが定期的に出題されます。知事への届出 公告 個人・組合・会社 必要 知事 都道府県 × 知事 国土交通大臣 × 国土交通大臣 市町村・機構・公社 必要 知事
換地処分の公告があった場合、施行者は直ちにその旨を換地計画にかかる区域を管轄する登記所に通知し、事業の施行にかかる権利変動があったときは遅滞なく登記申請を行わなければなりません。公告後も、施行者が変動の登記を申請するまでは、施行地区内の土地および建物につき他の登記をすることはできません(例外:確定日付ある書類で公告前の登記原因発生を証明した場合)。
また、換地処分が行われると、様々な効果が生じます。この効果発生日はすごく重要です。換地処分にかかる公告日の終了時(=土地区画整理事業が終わった日の深夜0時)か、公告日の翌日か、しっかり区別しておいてください。
1.公告日の終了時に効力発生(=消滅系)
・仮換地の指定の効力の消滅
・換地を定めなかった従前の宅地に存する権利の消滅
・事業の施行により行使の利益がなくなった地役権の消滅(※)
・建築行為等の制限の消滅
(※)通常の地役権は換地処分の公告日の翌日以後も従前の宅地の上に存する
2.公告日の翌日に効力発生(=確定系)
・換地計画で定められた換地が従前の宅地とみなされる(※)
・換地計画で定められた清算金の確定
・施行者による保留地の取得
・土地区画整理事業により設置された公共施設が、別段の定めあるときを除き所在する市町村の管理に属する
・地役権以外の権利が換地に移行する
(※)換地計画において参加組合員にも宅地を与えるよう定めていた場合、当該宅地は参加組合員が公告日の翌日に取得できる古い権利(消滅) 新しい権利(発生) 換地処分の公告日が終了したときに、 換地処分の公告日の翌日に、 換地を定めなかった従前の宅地上の権利が消滅する。
行使する利益がなくなった地役権は消滅する。換地は従前の宅地とみなされる。
清算金が確定する。
施行者が保留地を取得する。
公共施設が(原則として)市町村の管理に属する。
■土地区画整理事業における建築行為制限
土地区画整理事業についての各認可等の公告があった日以後、換地処分の公告がある日までに施行地区内において次の行為をしようとする場合には許可を受ける必要があります。
許可を要する行為 ⇒
・土地の形質の変更
・建築物その他の工作物の新築、改築、増築
・重量が5トンを超える物件の設置、堆積(たいせき)
許可権者 ⇒
・都道府県知事
・市の区域内で個人、組合、区画整理会社、市が施行する場合は市長
やたらと土地区画整理組合の許可というひっかけが出題されますので注意してください。この制限に違反した場合、知事等は、相当の期限を定めて土地の原状回復や建築物等の移転・除却を命ずることができます。
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