宅建試験の民法解説:以前は「意思の欠缺(けんけつ)」というタイトルでしたが、民法改正に伴いまして、「意思の不存在」に変更いたしました。宅建試験での出題可能性は低めですが、簡単な心裡留保と通謀虚偽表示、そこそこ重要な錯誤について見ていきます。より詳しい解説はこちら→心裡留保等の難問対策
- 心裡留保や錯誤等の宅建解説
■心裡留保(しんりりゅうほ)
心裡留保とは、簡単に言うと冗談・自作自演です。例えば、売る気がないのに「売る」と言ったり、契約書に署名したりすることです。その効果ですが、原則的に冗談では済まされません。契約は有効に成立してしまいます。安全な取引のために、自分の言った言葉には責任を持てということです。しかし例外がありまして、相手方が、
・表意者の真意その意思表示が表意者の真意でないことを知っていた場合(悪意)または、
・一般人の注意をもってすれば知り得たはずだと見られる場合(過失)
は、その意思表示は無効となります。友人に100万円あげると言われ、それが冗談だったからと言って本気で怒る人はいませんよね。誰がどう見ても冗談だと分かる契約は無効となります!
また、心裡留保による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができません。こちらの第三者は善意でさえあればよく、無過失が要求されていない点に注意ですね。
■通謀虚偽表示(つうぼうきょぎひょうじ)
通謀虚偽表示とは、簡単に言うと誰か他の者と一緒に行った真意ではない意思表示です。他人と通謀している点で心裡留保とは異なります。
例えば、AさんとBさんが売買契約をしました。Aさんは真意では売るつもりはなく、Bさんも買うつもりはありません。お互いにそのことを知っています。この場合は心裡留保の例外として、相手の真意を知っていたのですから、AB間の売買契約は無効となりますね。
では、何も知らないCさんが、Bさんからその物を買ってしまったらどうなるのでしょうか?AB間の契約は無効ですから、CさんはAさんに物を返す必要があるのでしょうか?いえ、この場合のCさんは民法によって保護されます。Cさんは善意であれば、Aさんに物を返還する必要はありません。Aさんは自業自得です。
ここで注意していただきたいのは、Cさんについて過失の有無を問わないということです。Cさんは、AB間の契約が虚偽表示であることを知らなかったのならば保護されます。注意すればAさんとBさんが何かを企んでいると気付くことができても保護されます。もちろんCさんが悪意の場合は話になりません。Cさんを保護する必要がないのは常識的に見て当然でしょう。
しかし、面白いのはDさんが登場した場合です。Dさんが更にCさんからその物を買ってしまった場合・・
・Cが虚偽表示につき悪意でも、Dが善意ならばDは保護される
・Dが虚偽表示につき悪意でも、Cが善意ならばDは保護される
2つ目は不思議ですね。なぜ悪意のDさんが保護されるのか?これはDさんを保護しなければ、善意のCさんが損害を受けるためです。CD間の契約が解除されたら、DさんはCさんに代金を返却するよう請求するでしょう。損害があれば賠償請求もするかもしれません。このように、善意のCさんを守るために仕方なくDさんを保護するのです。これは覚えておいて損はないかもしれません。
■錯誤(さくご)
これは思いちがい、言いまちがいです。もっと簡単に言うと、勘違いです。心理留保や虚偽表示は、表意者自らが真意と食い違った発言をするのに対し、錯誤とは自分で食い違いに気付いていないというパターンです。
錯誤とは勘違いですから、表意者は基本的に悪くはありません。よって、表意者保護のために錯誤による意思表示は取消可能となります。しかし、取引の安全も無視できません。では、その調整をどうするか?
錯誤による意思表示が取消事由となるための要件が2つあります。
・法律行為の重要な部分に錯誤があること(=重要な錯誤)
・表意者に重大な過失がないこと
つまり軽い勘違い、または明らかに注意が足りなかった場合は取消事由とはなりません。ただし、①相手方が錯誤について悪意の場合または重過失により知らなかった場合、②相手方も同じ錯誤に陥っていた場合、表意者は重過失ある錯誤の意思表示でも取り消すことができます。
心裡留保 表意者の帰責性が大きいので、第三者保護要件は善意で足りる 虚偽表示 表意者の帰責性が大きいので、第三者保護要件は善意で足りる 錯誤 表意者の帰責性が小さいので、第三者保護要件は善意無過失が要求される
尚、改正により「要素の錯誤」という言葉が条文から消えて「その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるとき」という長い文言に変わっていますが、便宜上「重要な錯誤」とさせていただきます。
改正民法により、内心で勘違いして契約してしまった場合(=動機の錯誤)も錯誤に含まれることが明文化されましたので、心裡留保や錯誤等の難問対策もご覧ください。
また「無効と取消の総まとめ」のページに比較表を作ってありますのでそちらも参考にしてください。
では、次は詐欺・強迫についてお送りします。
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