【宅建民法解説】配偶者居住権と配偶者短期居住権

宅建試験の民法解説:改正民法により新設された新規定「配偶者居住権」と「配偶者短期居住権」。居住建物に関する権利であり、宅建業の実務としても重要な規定となるため、宅建試験での出題も増えると予想します。

配偶者居住権と配偶者短期居住権

配偶者居住権とは?
配偶者短期居住権との違いは?

宅建試験で頻出問題となる可能性のある新規定です(令和6年本試験までは配偶者居住権ばかりで、配偶者短期居住権は出題されていません)。

とりあえずここでは最重要ポイントを簡潔にまとめておきますので、改正民法の『配偶者居住権』もご参照ください。表や例題を交えてより詳しく解説しています。


配偶者居住権と配偶者短期居住権

配偶者居住権には、配偶者居住権配偶者短期居住権があります。これらは別物ですので、分けて考えてください。

配偶者居住権とは、被相続人死亡後の配偶者の居住権を長期的に保護する権利で、遺産となる建物の価値を「居住権」と「所有権」に分け、居住権は配偶者に残したまま所有権を子などに相続させることを可能とする規定です。

例えばAとBが再婚してAが死亡し、BとAの連れ子Cが相続人となった場合、血の繋がっていないBとCで相続トラブルとなる事例は日常茶飯事で、相続財産となる住居を遺産分割できない場合(Bが建物代金の半分をCに払えない場合)、Bはこれまで住んでいた家を追い出されてしまう可能性があります。これを回避する規定が配偶者居住権です。

そして配偶者居住権が終身とも言える長期の居住権であるのに対して、配偶者短期居住権とは、文字通り短期の居住権となります。遺産分割により出ていかなくてはならないことになってしまった場合でも、引き続き一定期間は住むことができる権利です。

どのような場合に配偶者居住権を行使できるのか、配偶者短期居住権となるのか、それぞれの成立要件などを見ていきましょう。


居住権の成立要件

配偶者居住権:
①遺言または遺産分割協議で決定し、
②配偶者以外の者と共有の状態ではなく、
③相続開始時に居住していること

配偶者短期居住権:
①法律上当然に認められ、
②配偶者居住権を取得しておらず、
③相続開始時に無償で居住していること

(補足)
配偶者居住権が認められるためには、配偶者居住権が遺贈の目的とされているか、遺産分割で配偶者が居住権を取得する必要があります。当然に認められる配偶者短期居住権と区別しておいてください。

Aが死亡し配偶者Bと子Cが相続人であった場合、建物甲の所有権をCが取得し、居住権をBが取得することはできますが、甲がAと第三者Dの共有だった場合、配偶者居住権は認められないとするのが2つめの要件です。ただし配偶者Bとの共有は問題なく、また甲の所有権をCが取得し、居住権をBが取得した後にCが死亡し、Cの配偶者Eと親であるBが当該建物を相続して共有となった場合、この場合もBの配偶者居住権は残ります。

配偶者短期居住権の成立には相続開始時に「無償」で居住していることが必要で、これは一部使用(建物の2階部分のみなど)にも認められるということだけ覚えておいてください。


居住権の権利内容

配偶者居住権  :建物全部について無償で使用収益が可能
配偶者短期居住権:無償で使用していた部分についてのみ使用可能(収益不可

(補足)
配偶者居住権を取得した配偶者は、善管注意義務をもって使用収益を行うことができ、建物の改築や増築、第三者に使用収益させるには所有者の承諾が必要です(配偶者短期居住権を取得した配偶者も善管注意義務をもって使用し、第三者に使用させるには建物取得者の承諾が必要)。

配偶者居住権の「所有者」=配偶者短期居住権の「建物取得者


居住権の存続期間

配偶者居住権  :別段の定めがある場合を除き、配偶者の終身の間
配偶者短期居住権:配偶者を含む遺産分割が行われる場合は「遺産分割の確定日」または「相続開始から6ヶ月を経過する日」のいずれか遅い方、配偶者を含む遺産分割が行われない場合は建物取得者からの消滅申入れから6ヶ月経過した日まで

(補足)
短期居住権であっても、少なくとも相続開始から6ヶ月は住むことができ、遺産分割が行われず消滅申入れもなければ、ずっと存続すると言えます。


居住権の登記請求権

配偶者居住権  :登記請求権が認められ、登記が第三者への対抗要件となる
配偶者短期居住権:登記請求権はなく、対抗要件も存在しない

(補足)
配偶者居住権を取得した配偶者が、居住権があることを第三者に対抗するためには登記が必要となります。建物の所有者は、配偶者に配偶者居住権の設定登記を備えさせる義務を負い、登記に協力しなければなりません。建物賃借権と異なり、占有だけで第三者に対抗することはできませんので注意してください。ここ出題可能性高めです。

所有者は自由に建物を譲渡することができますが、新たに取得した第三者に対抗手段のない配偶者短期居住権者を保護するため、新たな取得者は配偶者短期居住権者が出ていくまで、その使用を妨害することはできないとしています。


居住権における配偶者の義務

配偶者居住権:
譲渡ができず、
所有者の承諾なく第三者に使用収益させられず、
用法遵守義務に違反し催告で是正されない場合は消滅の可能性があり、
通常の必要費を負担する

配偶者短期居住権:
譲渡ができず、
建物取得者の承諾なく第三者に使用させられず、
用法遵守義務に違反した場合は催告不要で消滅の可能性があり、
通常の必要費を負担する

(補足)
配偶者居住権を有する配偶者が善管注意義務に違反したり、所有者の承諾なく増改築等を行った場合、所有者は、相当期間を定めて是正を催告し、それでも是正されない場合は配偶者居住権を消滅させることができます(配偶者短期居住権の建物取得者は、催告不要で消滅請求可能)。

通常の必要費以外の特別費(災害による大きな損傷の修繕費など)や有益費(価値を増加させる費用)は、所有者が負担します。また配偶者は建物に小さな修繕の必要があるときはすぐに修繕する必要があり、配偶者が修繕をしない場合は所有者が修繕することもできます(配偶者短期居住権も同様)。


居住権の権利の終了

配偶者居住権  :配偶者の死亡、建物滅失、存続期間を定めた場合は存続期間の満了(延長や更新不可)など
配偶者短期居住権:配偶者の死亡、建物滅失、上記存続期間の終了、建物取得者による消滅請求、配偶者居住権の取得など

(補足)
存続期間の満了により配偶者居住権の期間が終了した場合、配偶者は建物を所有者に返還しなくてはなりません。ただし、配偶者がその建物について共有持分を有する場合は返還する必要はなく、他の所有者も返還請求をすることができません


以上、配偶者居住権・配偶者短期居住権についてお送りしましたが、つまりこれらは「居住建物について別に所有権者がいること」を前提とした法律となります。他に所有権者がいなければそのまま住み続けることができるわけで、居住権を取得する意味がありません。配偶者居住権・配偶者短期居住権の根本として理解しておいてください。
  配偶者居住権 配偶者短期居住権
成立要件 遺言または遺産分割協議で決定
配偶者以外の者と共有ではない
相続開始時に居住していたこと
法律上当然に発生
配偶者居住権を取得していない
相続開始時に無償で居住していたこと
権利内容 建物全部について無償で使用収益 無償使用部分を使用できる
存続期間 別段の定めがある場合を除き、終身 遺産分割確定日or相続開始から6ヶ月の遅い方
建物取得者の消滅申入れから6ヶ月経過日
対抗要件 登記 対抗要件なし
義務 譲渡不可
所有者の承諾なく第三者に使用収益不可
違反時に催告からの消滅可能性
原状回復義務あり
譲渡不可
建物取得者の承諾なく第三者に使用不可
違反時に催告不要で消滅可能性
原状回復義務あり
管理 善管注意義務
修繕→原則として配偶者で、通常の必要費を負担
善管注意義務
修繕→原則として配偶者で、通常の必要費を負担
発生しないケース 被相続人が配偶者以外と建物を共有していた場合 配偶者居住権を取得した場合
相続の欠格・廃除により相続権を失っていた場合


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遺言 不動産登記法
【宅建試験問題 令和3年10月ー問4】被相続人Aの配偶者Bが、A所有の建物に相続開始の時に居住していたため、遺産分割協議によって配偶者居住権を取得した場合に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、正しいものはどれか。

1.遺産分割協議でBの配偶者居住権の存続期間を20年と定めた場合、存続期間が満了した時点で配偶者居住権は消滅し、配偶者居住権の延長や更新はできない。
2.Bは、配偶者居住権の存続期間内であれば、居住している建物の所有者の承諾を得ることなく、第三者に当該建物を賃貸することができる。
3.配偶者居住権の存続期間中にBが死亡した場合、Bの相続人CはBの有していた配偶者居住権を相続する。
4.Bが配偶者居住権に基づいて居住している建物が第三者Dに売却された場合、Bは、配偶者居住権の登記がなくてもDに対抗することができる。
1 正:配偶者居住権は原則として配偶者の終身の間存続するが、別段の定めも可(延長や更新不可)
2 誤:第三者に使用収益させるには居住建物所有者の承諾が必要
3 誤:配偶者の死亡により配偶者居住権は消滅する
4 誤:配偶者居住権の設定登記が必要
【宅建試験問題 令和5年ー問7】甲建物を所有するAが死亡し、Aの配偶者Bが甲建物の配偶者居住権を、Aの子Cが甲建物の所有権をそれぞれ取得する旨の遺産分割協議が成立した場合に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、正しいものはどれか。

1.遺産分割協議において、Bの配偶者居住権の存続期間が定められなかった場合、配偶者居住権の存続期間は20年となる。
2.Bが高齢となり、バリアフリーのマンションに転居するための資金が必要になった場合、Bは、Cの承諾を得ずに甲建物を第三者Dに賃貸することができる。
3.Cには、Bに対し、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務がある。
4.Cは、甲建物の通常の必要費を負担しなければならない。
1 誤:配偶者居住権の存続期間は原則として配偶者の終身の間で、遺産分割協議や遺言等で別段の定めがあるときはその期間となる(本肢は定めがないので終身)
2 誤:第三者に使用収益させるには居住建物所有者の承諾が必要
3 正:居住建物所有者は、配偶者に対し配偶者居住権の設定登記を備えさせる義務を負う
4 誤:居住建物の通常の必要費は配偶者が負担する