宅建試験の民法解説:前ページでお話した相続人、相続分と異なる者・異なる額を相続させる場合は、その意思を言い遺したり書き遺したりします。これが「遺言」で、遺言により相続分を侵害されたときに行うことができる権利が「遺留分侵害額請求権」となります。他にも遺言により認知を行うなどいろいろあるのですが、宅建試験では相続に関する遺言だけを覚えておいてください。より詳しい解説はこちら→遺言と遺留分の難問対策
- 遺言と遺留分の宅建解説
人の死亡によって効力が生じる意思表示を「遺言」といい、遺言の中でも財産を対象とするものを「遺贈」といいます。遺言は死にゆく者の最後の意思表示ですから、かなり尊重されます。とても強力です。しかし、残された相続人たちの権利も無視することはできません。そこで登場するのが「遺留分」という制度です。
■遺言
・遺言は、満15歳以上であればすることができる!
行為能力は不要ですので、未成年者であっても満15歳以上であれば遺言をすることができます。また、被保佐人も保佐人の同意不要で遺言ができることにご注意ください。
・1度なされた遺言であっても、いつでも撤回することができる!
この撤回権を放棄することはできません。また、内容の異なる新たな遺言をした場合は、後の遺言で前の遺言を取り消したことになります。
・遺言は必ず、1人が1つの証書でしなければならない!
2人以上の者が同一の証書で遺言をしても無効となります。夫婦などでもダメです。撤回しにくくなり、自由な意思表示が難しくなるためです。
・遺言は、法律が定めた一定の方式によらなければならない!
自筆証書遺言や公正証書遺言等があり、証人や立会人を必要としたりするものなど様々です。この方式を守らない遺言は、その効力が認められません。また、遺言に関して検認という制度があるのですが、これは単なる偽造変造を防止するための保全手続であって、遺言の有効・無効を判断するものではないという点にご注意ください。
・遺言は、遺言者死亡のときから効力を生ずる!
ただし、遺言に停止条件が付いていた場合は条件成就のときから効力を生じます。たとえば「子どもが生まれたら土地を与える」などの遺言は、子どもが生まれたときに遺贈が行われます。
「遺贈」単独での出題可能性は低いため、難問対策版に少しだけまとめておきます。
■遺留分
遺言者は、遺言によって自己の財産を誰にどれだけ与えるかを決めることができます。しかし、これを無制限に認めると問題が生じることがあります。
父親が妻と小さな子どもを残して死亡したとします。父親には愛人がいて、自分の財産は全て愛人に贈与するという遺言を遺して亡くなりました。その父親の財産に依存して生きてきた妻や子どもは、父親の死後にとても苦しい生活が待っています。こういった理不尽な問題を解消するために民法が定めたのが遺留分という制度です。遺留分=最低限の取り分というイメージですね。
法定相続人(兄弟姉妹は除く)は、自己の取り分として相続財産の一定額を確保することができます。以下、要点です。
・兄弟姉妹を除く法定相続人(配偶者・子・直系尊属)は、遺留分をもつ!
相続欠格、廃除、相続放棄により相続権を失った者は遺留分もありません。胎児も生きて生まれれば遺留分をもち、子の代襲相続人も遺留分をもちます。
遺留分率 → 遺留分を算定するための財産価額の、配偶者2分の1、子2分の1、直系尊属3分の1。つまり妻と子が遺留分を請求する場合、遺留分は法定相続分の4分の1ずつとなります。
・相続開始前の遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けなければならない!
家庭裁判所の許可を受ければ「放棄ができる」という点に注意です。更に、相続開始後の放棄は家庭裁判所の許可すら必要なくすることができます。遺留分を放棄しても相続権がなくなるわけではないという点にもご注意ください。また、共同相続人の1人がした遺留分の放棄は、他の共同相続人の遺留分に影響を与えません。上の例では、妻が遺留分を放棄しても、子の遺留分は4分の1です。
・遺留分侵害額請求権は裁判外で行使してもよく、意思表示のみで足りる!
遺留分侵害額請求権とは、遺留分を侵害する額に相当する金銭の支払いを請求して遺留分を確保することです。この遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が相続の開始および侵害する遺贈等があったことを知ったときから1年間、または相続開始のときから10年間行使しないと、時効により消滅します。
・遺留分を侵害する遺言でも、当然には無効とならない!
遺言として何を遺してもそれは遺言者の自由で、まずは有効に成立します。それに不満があるからこそ遺留分という制度があるわけです。遺留分侵害額請求は意思表示のみで足りますが、それでは決着がつかずに裁判沙汰はざらですので、あまりに情のない遺言を遺すのはやめておきましょう…。
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