- 宅建改正民法!配偶者居住権と特別の寄与
宅建試験に出る「配偶者居住権と特別の寄与」の改正民法解説
配偶者居住権は完全なる新規定なので未知数ですが、今後の宅建試験で頻出分野になってもおかしくないところだと思います。しっかりと押さえておきましょう。
では、宅建試験で狙われそうなポイントを見ていきましょう!
■配偶者居住権と配偶者短期居住権
配偶者居住権には、配偶者居住権と配偶者短期居住権があります。
これらは別物ですので、分けて考えてください。
試験で狙われるポイントですので、下のまとめ比較表も有効にご活用ください。
配偶者居住権とは、被相続人死亡後の配偶者の居住権を長期的に保護する権利で、遺産となる建物の価値を「居住権」と「所有権」に分け、居住権は配偶者に残したまま所有権を子などに相続させることを可能とする規定です。
例えばAとBが再婚してAが死亡し、BとAの連れ子Cが相続人となった場合、血の繋がっていないBとCで相続トラブルとなる事例は日常茶飯事で、相続財産となる住居を遺産分割できない場合(Bが建物代金の半分をCに払えない場合)、Bはこれまで住んでいた家を追い出されてしまう可能性があります。これを回避する規定が配偶者居住権です。
そして配偶者居住権が終身とも言える長期の居住権であるのに対して、配偶者短期居住権とは、文字通り短期の居住権となります。遺産分割により出ていかなくてはならないことになってしまった場合でも、引き続き一定期間は住むことができる権利です。
どのような場合に配偶者居住権を行使できるのか、配偶者短期居住権となるのか、それぞれの成立要件などを見ていきましょう。
■居住権の成立要件
配偶者居住権:
遺言または遺産分割協議で決定し、
配偶者以外の者と共有の状態ではなく、
相続開始時に居住していること
配偶者短期居住権:
法律上当然に認められ、
配偶者居住権を取得しておらず、
相続開始時に無償で居住していること
(補足)
配偶者居住権が認められるためには、配偶者居住権が遺贈の目的とされているか、遺産分割で配偶者が居住権を取得する必要があります。当然に認められる配偶者短期居住権と区別しておいてください。
Aが死亡し配偶者Bと子Cが相続人であった場合、建物甲の所有権をCが取得し、居住権をBが取得することはできますが、甲がAと第三者Dの共有だった場合、配偶者居住権は認められないとするのが2つめの要件です。ただし配偶者Bとの共有は問題なく、また甲の所有権をCが取得し、居住権をBが取得した後にCが死亡し、Cの配偶者Eと親であるBが当該建物を相続して共有となった場合、この場合もBの配偶者居住権は残ります。
配偶者短期居住権の成立には相続開始時に「無償」で居住していることが必要で、これは一部使用(建物の2階部分のみなど)にも認められるということだけ覚えておいてください。
【例題1】被相続人の配偶者は、相続開始時に被相続人の財産である建物に居住していた場合、その居住建物の全部について、無償で当然に使用収益をすることができる。
→(誤)配偶者居住権は当然に取得するものではなく、遺贈や死因贈与、遺産分割により取得します。
【例題2】被相続人の配偶者は、相続開始時に被相続人の財産である建物に無償で居住していた場合、その居住建物について一定期間は無償で使用できる権利を取得することを家庭裁判所に請求することができる。
→(誤)配偶者短期居住権は、要件さえ満たせば法律上当然に取得します。
【例題3】被相続人Aの配偶者Bが、相続開始時にAの財産である建物に居住していた場合、当該建物がAと第三者Cとの共有であったであった場合でも、Bは配偶者居住権を取得することができる。
→(誤)相続開始時に、被相続人が居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合、配偶者居住権を取得することはできません。AとBの共有だった場合、Bは問題なく配偶者居住権を取得することができますのでひっかけに注意。
■居住権の権利内容
配偶者居住権 :建物全部について無償で使用収益が可能
配偶者短期居住権:無償で使用していた部分についてのみ使用可能(収益不可)
(補足)
配偶者居住権を取得した配偶者は、善管注意義務をもって使用収益を行うことができ、建物の改築や増築、第三者に使用収益させるには所有者の承諾が必要です(配偶者短期居住権を取得した配偶者も善管注意義務をもって使用し、第三者に使用させるには建物取得者の承諾が必要)。
配偶者居住権の「所有者」=配偶者短期居住権の「建物取得者」
【例題4】配偶者短期居住権を有する配偶者は、居住建物取得者の承諾を得れば、当該建物を第三者に使用または収益をさせることができる。
→(誤)配偶者短期居住権を有する配偶者は、居住建物取得者の承諾を得ることで当該建物を第三者に使用させることができます。配偶者居住権と異なり、収益は不可です。
■居住権の存続期間
配偶者居住権 :別段の定めがある場合を除き、配偶者の終身の間
配偶者短期居住権:配偶者を含む遺産分割が行われる場合は「遺産分割の確定日」または「相続開始から6ヶ月を経過する日」のいずれか遅い方、配偶者を含む遺産分割が行われない場合は建物取得者からの消滅申入れから6ヶ月経過した日まで
(補足)
短期居住権であっても、少なくとも相続開始から6ヶ月は住むことができ、遺産分割が行われず消滅申入れもなければ、ずっと存続すると言えます。
【例題5】配偶者居住権を取得した配偶者が生存している限り、当該権利が消滅することはない。
→(誤)原則として終身存続しますが、別段の定め(存続期間など)がある場合や下記の用法遵守義務に違反した場合、建物消失などによって消滅します。意外とこういったシンプルな直球問題ほど間違えやすいので注意。
【例題6】配偶者短期居住権の存続期間は最長で6ヶ月間となり、遺産分割の確定日または相続開始から6ヶ月を経過した日に消滅する。
→(誤)配偶者短期居住権の存続期間は遺産分割が行われる場合と行われない場合の2パターンがあり、遺産分割が行われる場合は「遺産分割により居住建物の帰属が確定した日」または「相続開始から6ヶ月を経過する日」のどちらか遅い方となり、遺産分割が行われない場合は「建物取得者の配偶者短期居住権の消滅申入れの日から6ヶ月を経過する日」が権利行使期間となります。この場合の遺産分割は配偶者も参加するものであることが必要な点にも注意。
■居住権の登記請求権
配偶者居住権 :登記請求権が認められ、登記が第三者への対抗要件となる
配偶者短期居住権:登記請求権はなく、対抗要件も存在しない
(補足)
配偶者居住権を取得した配偶者が、居住権があることを第三者に対抗するためには登記が必要となります。建物の所有者は、配偶者に配偶者居住権の設定登記を備えさせる義務を負い、登記に協力しなければなりません。建物賃借権と異なり、占有だけで第三者に対抗することはできませんので注意してください。ここ出題可能性高めです。
所有者は自由に建物を譲渡することができますが、新たに取得した第三者に対抗手段のない配偶者短期居住権者を保護するため、新たな取得者は配偶者短期居住権者が出ていくまで、その使用を妨害することはできないとしています。
■居住権における配偶者の義務
配偶者居住権:
譲渡ができず、
所有者の承諾なく第三者に使用収益させられず、
用法遵守義務に違反し催告で是正されない場合は消滅の可能性があり、
通常の必要費を負担する
配偶者短期居住権:
譲渡ができず、
建物取得者の承諾なく第三者に使用させられず、
用法遵守義務に違反した場合は催告不要で消滅の可能性があり、
通常の必要費を負担する
(補足)
配偶者居住権を有する配偶者が善管注意義務に違反したり、所有者の承諾なく増改築等を行った場合、所有者は、相当期間を定めて是正を催告し、それでも是正されない場合は配偶者居住権を消滅させることができます(配偶者短期居住権の建物取得者は、催告不要で消滅請求可能)。
通常の必要費以外の特別費(災害による大きな損傷の修繕費など)や有益費(価値を増加させる費用)は、所有者が負担します。また配偶者は建物に小さな修繕の必要があるときはすぐに修繕する必要があり、配偶者が修繕をしない場合は所有者が修繕することもできます(配偶者短期居住権も同様)。
【例題7】被相続人Aが死亡し、居住建物についてAの妻Bが配偶者居住権を取得し、ABの子Cが所有権を相続した場合において、Bは、配偶者居住権を第三者Dに譲渡することはできないが、Cの承諾を得ることでDと賃貸借契約を締結することはできる。
→(正)配偶者居住権の譲渡はできませんが、所有者の承諾を得ることで第三者に使用収益させることはできます。
■居住権の権利の終了
配偶者居住権 :配偶者の死亡、建物滅失、存続期間を定めた場合は存続期間の満了(延長や更新不可)など
配偶者短期居住権:配偶者の死亡、建物滅失、上記存続期間の終了、建物取得者による消滅請求、配偶者居住権の取得など
(補足)
存続期間の満了により配偶者居住権の期間が終了した場合、配偶者は建物を所有者に返還しなくてはなりません。ただし、配偶者がその建物について共有持分を有する場合は返還する必要はなく、他の所有者も返還請求をすることができません。
以上、配偶者居住権・配偶者短期居住権についてお送りしましたが、つまりこれらは「居住建物について別に所有権者がいること」を前提とした法律となります。他に所有権者がいなければそのまま住み続けることができるわけで、居住権を取得する意味がありません。配偶者居住権・配偶者短期居住権の根本として理解しておいてください。
■特別の寄与
これも新設規定ですが、判例等で認められていたことの明文化がメインです。宅建試験で出題されてもおかしくない箇所を軽く解説しておきますが、そもそも宅建試験で特別の寄与が出題されたことはありませんので、出題可能性は低いと思います。
従来より「相続人」が「特別の寄与」を行っていれば「寄与分」として相続分が増えることは規定されていました。特別の寄与とは、介護や財産を増やしたり・・などです。
しかし、被相続人の息子の嫁が義父である被相続人の介護の世話を何年も頑張ったのに、相続人ではない息子の嫁は法定相続分もなく、相続人ではないので寄与分も受けられないというのは理不尽です。
そこで改正民法において、無償の労務の提供によって相続財産の維持・増加があった場合、相続開始後、相続人に対して寄与に応じた額の金銭を請求できることが明文化されました。
寄与を請求できる者を「特別寄与者」といいますが、特別寄与者は戸籍上の親族である者に限られます。内縁の妻等は含まれません。また「無償」ですので、その行為時に対価があった場合にも認められません。寄与分をいくらとするか、相続人と協議が調わない場合、特別寄与者は、裁判所に対して協議に代わる処分を請求することもできます。
深追い禁止で、特別の寄与はここまでにしておきましょう。
■特別養子縁組(おまけ)
宅建試験では特別の寄与よりも更に出題可能性が低いですが、「特別養子縁組」についても大きな改正がありましたので表でまとめておきます。令和2年の宅建試験から出題範囲となった「改正民法の施行」より1年遅れて、令和3年の宅建試験から出題範囲となった改正点です。改正前 改正後 特別養子縁組の請求時に6歳に達している子は養子となることはできない 特別養子縁組の請求時に15歳に達している子は養子となることはできない
(特別養子縁組の成立時に18歳に達する子も養子となることはできない)特別養子縁組の請求時に8歳未満であり、6歳に達する前から引き続き養親に監護されていれば養子となることができる 特別養子縁組の請求時に15歳に達していても、15歳に達する前から引き続き養親に監護され、請求をしなかったやむ得ない事由があれば養子となることができる 規定なし 養子となる者が15歳に達している場合、その者の同意が必要となる
以上、120年ぶりに大改正された宅建試験で出題される民法の解説は終了です。お疲れさまでした!!
改正民法一覧ページに戻る
配偶者居住権 | 配偶者短期居住権 | |
---|---|---|
成立要件 | 遺言または遺産分割協議で決定 配偶者以外の者と共有ではない 相続開始時に居住していたこと |
法律上当然に発生 配偶者居住権を取得していない 相続開始時に無償で居住していたこと |
権利内容 | 建物全部について無償で使用収益 | 無償使用部分を使用できる |
存続期間 | 別段の定めがある場合を除き、終身 | 遺産分割確定日or相続開始から6ヶ月の遅い方 建物取得者の消滅申入れから6ヶ月経過日 |
対抗要件 | 登記 | 対抗要件なし |
義務 | 譲渡不可 所有者の承諾なく第三者に使用収益不可 違反時に催告からの消滅可能性 原状回復義務あり |
譲渡不可 建物取得者の承諾なく第三者に使用不可 違反時に催告不要で消滅可能性 原状回復義務あり |
管理 | 善管注意義務 修繕→原則として配偶者で、通常の必要費を負担 |
善管注意義務 修繕→原則として配偶者で、通常の必要費を負担 |
発生しないケース | 被相続人が配偶者以外と建物を共有していた場合 | 配偶者居住権を取得した場合 相続の欠格・廃除により相続権を失っていた場合 |
<<< 前のページ <<< | >>> 次のページ >>> |
---|---|
遺言と遺留分の改正民法 | ー |