- 宅建改正民法!賃貸借契約
宅建試験に出る「賃貸借」の成立から終了、敷金の改正民法解説
判例の明文化ばかりで新しい改正は少なめですが、その少ない改正箇所はすごく重要です。
重要と記載している箇所は確実に押さえておいてください。
また毎年2問出題される借地借家法の前提知識にもなりますので、全体的にもなるべく力を入れておきましょう。
では、順番に見ていきます!
■賃貸借の成立
従来は「当事者の一方がある物の使用収益を相手方にさせることを約し、相手方が賃料を支払うこと」で成立していましたが、これにプラスして「引渡しを受けた物を契約終了時に返還すること」が必要となりました。
相手方が賃料を支払い、目的物の返還を約することで成立します。
易しいサービス問題として出題可能性アリですので覚えておきましょう。
■賃貸借の存続期間
賃貸借の存続期間の上限が20年から50年となりました。
50年より長い存続期間を定めた場合、その期間は50年とされます。
更新期間も最長で50年となります。
基本の基本として、この3つはものすごく重要です。
絶対に覚えておいてください。
■不動産賃貸借の対抗力
不動産賃貸借って借地借家法じゃないの?と思う方もいるかもしれませんが、借地借家法が適用される土地や建物とは「長期の居住用」をイメージしてください。ゴルフ場や駐車場などは民法上の賃貸借が適用されます。居住用マンションなど賃借権が適用されるのか借家権が適用されるのかはケースバイケースとなりますので、試験対策としては「問題文」をよく読み、「民法の規定によれば」と書かれているか「借地借家法の規定によれば」と書かれているかで判断してください。
不動産賃貸借を登記しておけば、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対して対抗することができます。
ここでの出題ポイントは以下の2つです。
・不動産賃貸借の前に物権を取得した者と不動産賃借人は対抗関係に立つ!(先に登記を備えた者の勝ち)
・物権を取得した者だけでなく、二重賃借人や不動産を差し押さえた者(=その他の第三者)に対しても対抗力が及ぶ!
■不動産賃貸人の地位の移転
判例の明文化で覚えることは変わっていませんが、「契約の成立から解除」でお伝えした「契約の相手方が地位の譲渡を承諾すれば、その地位は新しい譲受人に移転する」という規定に関連してきますので、ご紹介しておきます。
契約上の地位の移転は相手方の承諾が必要であることが原則となりますが、賃借人にとっては賃貸人が誰であろうが関係ありません。賃料を支払い、約束通り使用収益さえできれば問題ありません。月極駐車場の貸主が誰であろうが知ったこっちゃありませんよね?
また、賃借人の承諾が必要となると、賃借人一人一人に承諾を貰わないと貸主が代わることができない、第三者にその土地を譲渡できないという猛烈に面倒な事態となってしまいます。
そこで不動産賃貸においては、賃貸不動産の譲渡人と譲受人の合意により賃貸人の地位の移転ができるとされています(賃借人の承諾不要)。これは必ず覚えておきましょう。
■不動産賃借人の請求権
不動産の賃借人は、
その不動産の占有を第三者が妨害しているとき → 第三者に対する妨害停止請求
その不動産を第三者が占有しているとき → 第三者に対する返還請求
をすることができます。この2つを正確に覚えてください。
私がここで問題を作るとしたら「どんなときに」「誰に対して」そして「賃貸人への妨害予防請求」(=認められない)、「妨害排除請求」(=賃借人ではなく所有者の権利。例外もありますが・・)といった、ひっかけ請求権を織り交ぜる感じで出題しますね。
■賃貸人の修繕義務
賃貸人は、賃貸物の使用収益に必要な修繕をする義務を負いますが、
賃借人の責任で修繕が必要となった場合にまで修繕義務を負う必要はありません。
この2行目が追加されました。簡単ですね。
■賃貸人の交替による有益費の償還義務者
建物賃借人が有益費を支出したのちに建物所有権が譲渡され賃貸人が交替した場合、特段の事情がない限り、新賃貸人が当該有益費の償還義務を承継し、旧賃貸人はこの償還義務を負いません。
特段の事情=不動産の譲渡人および譲受人が賃貸人の地位を譲渡人に留保する旨およびその不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意をしたときは、賃貸人の地位は譲受人に移転しない。
■賃借人による修繕
賃貸人に対して修繕が必要である旨を通知し、または賃貸人がその旨を知ったにも関わらず相当期間内に修繕をしないとき、もしくは急迫の事情があるときは、賃借人は自ら賃借物の修繕をすることができます。
新規定です。簡単な上に宅建試験が好きそうなところなので覚えておきましょう。
■一部滅失等による賃料の減額
賃借物の一部が滅失その他の事由により使用収益ができなくなった場合、
→ 使用収益ができなくなった部分の割合に応じて賃料が減額される(賃借人に責任がないときに限る)。
→ 残存する部分のみでは目的を達することができないときは、賃借人は、契約を解除することができる。
ひっかけ対策として、次の2点に注意です。
・賃借人に帰責事由がある場合、賃料は減額されないが、契約解除は可能
・賃料減額請求ではなく、当然に減額される
また、賃借人の帰責事由により一部滅失が生じて契約が解除された場合、賃貸人は損害賠償請求も可能です。改正前 改正後 民法上の賃貸借契約の存続期間上限は20年 民法上の賃貸借契約の存続期間上限は50年 賃貸人は賃貸物の修繕義務を負う 左記+次の場合は賃借人が自ら修繕可能
1.賃貸人に修繕が必要と通知し、または賃貸人がその旨を知ったにも関わらず、賃貸人が相当期間内に必要な修繕をしないとき
2.急迫の事情があるとき賃借物の一部が賃借人の過失によらず滅失した場合、賃借人は、滅失の割合に応じて賃料の減額を請求することができる 賃借物が使用収益できなくなった場合、当然に賃料が減額される(残存部分のみで目的を達成できないときは解除も可能)
■転借人の履行義務
従来は「転借人は賃貸人に対して直接に義務を負う」と定められているだけで、何のことかよく分からない規定でしたが、「賃貸人と賃借人との間の賃貸借に基づく賃借人の債務の範囲を限度として、転貸借に基づく債務を直接履行する」と義務が明確になりました。
明確と言ってもまだ条文通りだと分かりにくいので、具体例を挙げます。
賃貸人Aから5万円で賃貸した土地をBが7万円でCに転貸した場合
=CはAに対して5万円を限度としてAに支払う義務を負う
賃貸人Aから5万円で賃貸した土地をBが3万円でCに転貸した場合
=CはAに対して3万円を限度としてAに支払う義務を負う
■賃借人の原状回復義務
賃貸借が終了したときに賃借物に損傷が生じていた場合、賃借人は原状回復義務を負います。改正民法では、この損傷に「通常損耗」と「経年劣化」は含まないこととしました。
きっちりと明文化されましたので、引っ越しの際に自信満々の顔で噛まずに「これはツウジョウソンモウですね」と言えば敷金が丸々返ってくるかもしれません(借地借家法の居住用建物でも通用します)。
試験に出題される内容から話は逸れますが、そもそも「ものすごく汚さない限り」賃借人が修繕費を負担する必要はありません。原状回復とはピカピカの状態に戻すことではありません。知識がないと言われるがままとなってしまいますが、原状回復とは経年劣化等を加味して本来存在したであろう状態に戻すことを言います。
備え付けの絨毯に飲み物をこぼしたり、濡れたフローリングを放置して腐らせたり、一切掃除せず風呂場をカビだらけにしたり、タバコで壁を黄色くしたり(※)、壁に大きな穴を開けたり・・などは負担する必要がありますが、ポスターや写真を飾る画鋲くらいの穴、壁掛け時計を外したときの他の壁との色の差、冷蔵庫をどかしたときの黒ずみや凹み、畳やフローリングの色落ち・・など通常は賃貸人負担です。
掛け時計の跡が真っ白なのは、その部分以外が電気ヤケしただけです。冷蔵庫も普通は置きます。普通に置いた冷蔵庫をどかしたら凹んでいたとしても、チープな作りの床の耐久性の問題です。敷金から引くと言われたら怒っていいです(ただし賃貸借契約書に特約の記載がある場合あり。よく読みましょう)。
(※)賃貸物件において壁紙は6年で価値が0(厳密には1円)になるので、長く住んでいれば壁を黄色くしても落書きをしても基本的に問題なく、張り替え費用を負担する必要はありません。ただし継続して使える場合もありますので、故意に落書き等を行うと原状回復費用が発生する場合もありますので気をつけましょう。
■使用貸借規定の賃貸借への準用
以下、使用貸借で適用される規定が賃貸借でも準用されます。主なものだけ紹介しておきます。
・期間を定めた賃貸借は、期間満了により終了する。
・賃借人は、賃借物に附属させた物の収去義務を負うが、分離できないとき及び分離に過分の費用を要する場合はこの限りではない。
・賃貸借契約の本旨に反する使用収益により生じた損害賠償請求、または借主が支出した費用償還請求は、貸主が返還を受けたときから1年以内にすることを要する(返還から1年以内は時効が完成しない点も同じ)。
■敷金
改正民法により、初めて「敷金」が明文化されました(これまでは判例が認めていたに過ぎない規定でした)。
覚えることは変わっていませんが、条文化されたということで要点だけ押さえておきましょう。
敷金の返還時期
1.賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき
2.賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき
二つめの賃借権を譲渡したときも返還義務が発生する点には注意ですね。一つめの「かつ」は頻出事項です。賃貸借契約が終了するだけでなく、賃借物を返還をして初めて敷金の返還を受けることができます。
また賃貸人は、賃借人が家賃を支払わない場合など債務不履行があったときは、敷金を債務の弁済に充当することができますが、敷金を弁済に充当するかどうかを決めることができるのは賃貸人のみです。賃借人側から「敷金を賃料の支払いに充当してくれ!」と請求することはできません。
そしてこれまでの解釈が変更された新設注意規定が一つあります。賃貸物が譲渡された場合、敷金は充当されたりせず、そのまま新賃貸人(譲受人)に承継されます。これも覚えておきましょう。
以上、宅建試験で出題される賃貸借の改正点でした。長くなってしまいましたが、それほど難しい箇所はないと思います。
重要な借地借家法とも絡んできますので、コツコツと少しずつ覚えていきましょう!
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