宅建試験の民法解説:「賃貸借」の難問対策。宅建試験で重要なのは土地と建物の賃貸借である「借地借家法」ですが、借地借家法を勉強するための基礎知識にもなりますので要点はしっかり押さえておきましょう。賃貸借とは皆さんのイメージ通り、当事者の一方が相手方にある物の使用および収益をさせることを約束し、相手方がその対価である賃料を支払うことを約束する契約です。敷金や、使用貸借との違いについても見ていきます。
- 賃貸借の敷金等の難問対策+使用貸借
■賃貸借の成立と存続期間
当事者の一方がある物の使用収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対して賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約終了時に返還することを約することで成立する。
賃貸借の存続期間は20年50年を超えることができません(更新も50年以内)。
50年を超える定めをしたときは、その期間は50年に短縮されます。
最短期間に制限はありません。
期間の定めのない賃貸借契約も有効です。賃借権 借地権 借家権 最長 50年 制限なし 制限なし 最短 制限なし 30年 1年(※)
■賃貸借の終了と更新
存続期間が定められている場合、その期間の満了によって賃貸借は終了します。存続期間が定められていない場合、各当事者はいつでも解約の申入れができます。解約を申し入れた後、土地賃貸借については1年、建物賃貸借については3ヶ月、動産賃貸借については1日の猶予期間を経て賃貸借は終了します。
存続期間が定められている場合でも、期間満了に際して、当事者間の約束で賃貸借契約を継続させる(更新)ことができます。
また、当事者間で更新の約束をせず、存続期間が満了した後も、賃借人が目的物の使用・収益を継続し、賃貸人がそれを知りながら異議を述べないときは、前の賃貸借と同じ条件でさらに賃貸借をしたものと扱われます。この場合は存続期間の定めのないものとなることにご注意ください。
賃貸目的物が全部滅失した場合も、履行不能として賃貸借契約は終了します。
■賃貸借の目的物が壊れた場合
賃借人は、目的物の保管につき善管注意義務を負います。
目的物の一部が壊れた場合、賃貸人には修繕する義務があり(賃借人の責任による場合を除く)、賃借人には修繕を請求(通知義務あり)する権利が認められます。そして、賃貸人がすぐに修繕をしてくれればよいのですが、なかなか修繕をしてくれないとき、または急迫の事情あるときは、賃借人が修繕費を立て替えることになります。
この場合の修繕費には「必要費」と「有益費」があります。
屋根の雨漏り修復など、目的物の使用に必要な費用を必要費といい、必要費を支出した賃借人は、賃貸人に対して直ちに償還を請求することができます。ただし、特約により賃借人の負担とすることも可能です。
老朽化による壁紙の張替え、トイレをシャワー付きにするなど、生活に必ずしも必要ではありませんが目的物の価値を増加させる費用を有益費といい、有益費を支出した賃借人は、賃貸借契約終了時に、目的物の価格の増加が存在している限り、償還を請求することができます。賃貸人は、裁判所への請求により有益費の償還について相当の期限を許与してもらうことができます。
また、賃借人の責任でなく賃借物の一部が滅失したことで使用収益ができなくなった場合、賃料は、その使用収益できなくなった部分の割合に応じて減額されます。「減額請求ができる」ではなく、改正民法により当然に減額されるようになりました。残存部分だけでは目的を達成することができない場合、賃借人は契約解除ができます(全部滅失は当然に終了と区別)。貸主の保存行為 ①貸主は賃貸物の保存義務を負い、借主は貸主の保存行為を拒めない(保存行為以上の行為は拒否可能)
②借主の意思に反した保存行為で賃借の目的を達することができなくなる場合、借主は契約解除ができる。貸主の修繕義務 ①貸主は、賃貸物の使用収益に必要な修繕義務を負う。
②借主の責任で修繕が必要となった場合は貸主に修繕義務なし。借主による修繕 ①借主が修繕が必要な旨を通知or貸主が修繕の必要を知ったにも関わらず相当期間内に修繕しない場合。
②急迫の事情がある場合。
■賃貸借の対抗力
賃貸借の目的物であった土地が第三者に売り渡されたとします。その土地を賃借していた賃借人は、賃借権を登記しておけば第三者に対抗することができます。第三者が「土地を明渡せ」と要求してきても拒むことができるのです。
第三者は、その土地について所有権移転登記を受けていれば、賃借人に対して賃料を請求することができます。賃貸人の地位自体は売買契約により移転し、賃借人の承諾は不要だということにご注意ください。
尚、譲渡人および譲受人が、①貸主の地位を譲渡人に留保する旨、②当該不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨について合意をすることで、貸主の地位を譲渡人に留めることもできます。
■賃借権の譲渡と転貸
賃借権の譲渡とは、賃借人が賃借権を他人に譲り渡すことをいい、賃貸人と旧賃借人の関係は終了します。転貸とは、賃借人が、借りている物をさらに又貸しすることをいい、賃貸人と賃借人の関係はそのまま継続します。新たに借り受けた者を転借人といいます。以下、出題ポイントです。
・賃貸人の承諾がなければ、賃借権の譲渡・転貸をすることはできない!
・賃貸人に無断で賃借権の譲渡・転貸をした場合、賃貸人は賃貸借契約を解除することができる!(背信的行為と認められない場合は解除不可)
・賃借権の譲渡の場合、賃貸人は、賃借権の譲受人(新賃借人)に対してのみ賃料を請求することができる!
・転貸の場合、賃貸人は、賃借人だけでなく、転借人に対しても賃料を請求することができる!
・賃借権が譲渡された場合、旧賃借人は、賃貸人に対して敷金の返還を請求することができる!(賃貸人の地位が移転した場合は、新賃貸人に対して請求する)
・賃借人の債務不履行により賃貸借契約が解除された場合、転貸借契約は履行不能により終了する!(転借人に賃料の支払いを催告する必要なし)
・賃貸人と転貸人(賃借人)の賃貸借契約が期間満了または解約申入れにより終了する場合、賃貸人が転借人に対してその旨を通知した日から6ヶ月後に転貸借契約は終了する!
尚、賃貸不動産の譲渡人と譲受人の合意により賃貸人の地位は移転し、賃借人の承諾は不要となります。賃貸アパート、マンションの居住者からしたら大家さんが変わろうがあまり関係ありませんし、常識的に考えて当然ですね。
■賃貸借における敷金
不動産の賃貸借に際し、賃貸借終了後から明渡しまでに生ずる損害金等、賃貸人の債権を担保する目的で賃借人から賃貸人に交付される金銭を敷金といいます。被担保債権を控除し、明渡完了時に残額があれば賃借人に返還されます。債務の弁済に充てるかどうかを決めるのは賃貸人で、賃借人の方から充当請求をすることはできません(賃貸借契約に賃借人が原状回復義務を負う旨が定められていても、賃借人は、通常損耗や経年劣化の補修費を支払う必要はありません)。
ここで重要なのは、敷金返還請求権と目的物明渡請求権は同時履行の関係に立たない、という1点です。敷金を返してくれるまで出ていかないよ!というのは不可ですので、「賃借人は敷金が返還されるまで退去する必要はない」と出題されたら誤りとなりますね。敷金の返還時期=①賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき、②賃借人が適法に賃借権を譲渡したときとなります。
少し難問対策としては、賃貸人の地位が移転した場合、賃借人の同意は不要で敷金に関する権利義務は当然に新賃貸人に承継されますが、賃借権が移転した場合は、敷金に関する権利義務は当然には新賃借人に承継されないという比較を覚えておいてください。
賃貸人が変更:敷金は旧賃貸人から新賃貸人に承継される(=新賃貸人が敷金返還義務を負う)
賃借人が変更:敷金は旧賃借人から新賃借人に承継されない
直接本試験で問われる内容ではありませんが、物件を借りるときに役立つ敷金に関する小ネタを宅建業法の「業務上の規制」で公開していますので、息抜きにご覧になってみてください。
■短期賃貸借
被保佐人(被補助人も)が賃貸借契約を締結する場合、次の期間を超えない範囲でのみ契約をすることができます。
1.樹木の植栽または伐採を目的とする山林の賃貸借:10年
2.上記以外の土地の賃貸借:5年
3.建物の賃貸借:3年
4.動産の賃貸借:6ヶ月
2番と3番は覚えておきましょう。土地5年、建物3年を超える賃貸借は保佐人や補助人の同意が必要です(=同意があればできる)。短期賃貸借を更新するには、期間満了前の土地1年以内、建物3ヶ月以内、動産1ヶ月以内に更新する必要があります。
土地や建物の賃貸借って借地借家法じゃないの?と疑問に思われる方もいると思いますが、借地借家法が適用される土地建物は「居住用」をイメージしてください。ここでいう「土地」や「建物」とは、駐車場、資材置き場、一時的な仮住居、建築現場事務所などを指します。
■賃貸借と使用貸借の違い
使用貸借とは、当事者の一方がある物を無償で使用収益した後に返還することを約束し、相手方からそのある物を受け取る契約をいいます。消去法でも対応できるように、難問対策として軽く押さえておきましょう。
賃貸借 :有償の諾成契約
使用貸借:無償の要物契約諾成契約となりました真逆ですね。要注意です。賃貸借 使用貸借 対抗要件 登記・建物引渡し なし 目的物引渡義務 あり なし(引渡で契約成立) 修繕義務 あり なし 必要費 直ちに償還 特別な必要費を除き償還義務なし 有益費 賃貸借終了時に償還 目的物返還時に償還 借主の地位譲渡 賃貸人の承諾必要 貸主の承諾必要 貸主の死亡 相続される 相続される 借主の死亡 相続される 契約終了
使用貸借で償還を要する特別な必要費とは、災害による破損の修繕費などです。
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