弁済の難問対策

宅建試験の民法解説:『弁済』+代物弁済の難問対策。前回の代理とは打って変わって簡単です。簡単だからこそ出題されたら落とせません。出題されたら確実に取っておくべき弁済を順番に見ていきます!

弁済の難問対策

難しい科目は力を入れ、簡単な科目はサラッと流して覚えて曖昧な知識にする方がいますが、それは逆です

まずは簡単な科目こそ力を入れて万全にし、残った時間で難しい科目に力を入れてください。時間がなければ難しい科目は基礎だけを確実に覚えて消去法で正解できればくらいのスタンスで大丈夫です。 深入りしすぎずその勉強時間を簡単な科目に充ててください。50点を目指す必要はなく、40点を目標に確実に40点前後を取ってください

難しい科目に力を入れすぎて記憶が散漫になることなく、まずは取れるところで確実に得点してください。合格を勝ち取るにはそういった勉強テクニックも必要です。


弁済とは

債務者が約束の債務を果たし、債権者の債権が目的を実現し消滅すること。債権の「効力」に視点をあてた履行と、債権の「消滅」に視点をあてた弁済、実質同じと考えておいて問題ありません。


弁済者

・債務者…まず、債務者本人は当然に弁済ができます。その他に、債務者の代理人も弁済ができます。

・第三者…債務者、債務者の代理人以外の第三者も弁済ができますが、要件が2つあります。

1.債務の性質がこれを許さないものでないこと…債務の本旨から、債務者本人にしか弁済できないと考えられるものについては、第三者の弁済は許されません。例:債務の内容が著名な学者による講演や俳優の演技とする場合などは、その本人が必要となります。

2.当事者が反対の意思を表示していないこと…当事者は、第三者による弁済を禁止することができます。友人や両親が「代わりに払ってやる」と言っても「大きなお世話」というわけです。例外:利害関係正当利益を有する第三者(抵当不動産の第三取得者、物上保証人など)は、債務者の意思に反しても弁済ができます。親族や友人は正当利益を有する第三者とはいえません。ただし、正当利益を有しない第三者が債務者の意思に反してした弁済であっても、債務者の意思に反することを債権者が知らなかったとき、更に、第三者が債務者の委託を受けた保証人であり、そのことを債権者が知っていたときは有効な弁済となります。

宅建合格!弁済
第三者が弁済した場合に、第三者が債権者に代位できることがあります。代位とは、債権者が有していた原債権を弁済した第三者が取得することをいうのですが、突っ込むとかなり難しくなりますので、次の2つだけを何も考えずにそのまま覚えておいてください

大きく変わっています!弁済の改正ページで別途解説中

債権者の承諾があれば、弁済と同時に代位の効果が発生する(任意代位)
弁済につき正当な利益を有する者は、当然に債権者に代位する(法定代位)

ここでの正当な利益を有する者とは、保証人、連帯保証人、連帯債務者、物上保証人、担保目的物の第三取得者、後順位担保権者などをいい、つまり、弁済が行われないと自分が執行を受けたり自分の権利価値が失われる者ですね。


弁済を受ける者

もちろん、債権者です。しかし、間違えて債権者でない者に弁済をしてしまった場合が重要となります。原則として、債権者以外の者への弁済は無効です。よって、債権は消滅しません。しかし、債権の準占有者受領権者以外の者であって取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有する者(=本当の債権者ではないが、権利証や実印などを持っていて債権者のように見えた人)に対し、「善意無過失」で弁済した場合は有効となります。

受取証書(領収証)を持参した者というだけでは「債権の準占有者」とは呼べなくなり、「取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有する者」と言えるかどうかで判断されることになりましたが、善意無過失で弁済した場合は有効ということですね。

善意無過失で債権の受領権者としての外観を有する者に弁済をした債務者は弁済をしたことになり、あとは不憫な本来の債権者が債権の受領権者としての外観を有する者に対して不当利得返還請求をすることになります。

また、余裕があれば難問対策として、債権者に弁済したのに弁済の効力が生じない次の1つを頭の片隅に入れておいてください。他にも例外はあるのですが、この1つを覚えておきましょう。
→ 「AのBに対する債権がAの債権者Cに差し押さえられた場合、BがAに弁済しても、BはCに対して弁済の効力を主張することができない」。Cからの請求があればBは二重に弁済しなければならず、二重に弁済したBはAに対して求償することになります。


弁済場所

特定物:債権発生当時にその物が存在した場所
不特定物や金銭債務等:債権者の現時の住所(債権譲渡されたときは新債権者の住所)

特定物 =個性ある物(○月○日収穫のササニシキ100キロ)
不特定物=ただ一定の種類や量(米100キロ)

改正民法により、特定物は、契約その他の債権発生原因及び取引上の社会通念に照らしてその引渡しをすべきときの品質を定めることができないときに限り、現状の引渡しで足ります。改正前の特定物の引渡しは無条件で現状引渡しだった点に注意。


弁済時期

確定期限あるとき 債務者は、その期限到来時から遅滞責任を負う
不確定期限あるとき 債務者は、期限到来を知ったときから遅滞責任を負う
期限を定めなかったとき 債務者は、履行請求を受けたときから遅滞責任を負う

確定期限 =いつ来るか確定している期限(○月○日まで)
不確定期限=いつか来ることは確実だがいつ来るか分からない期限(次に雨が降るまで)

また、法令や慣習により取引時間の定めがあるときは、その取引時間内に限り弁済をし、または弁済請求をすることができます

弁済時期に弁済しなかったらどうなるのかは、「債務不履行」を参照してください。

ここで覚えておいてほしいのは、売買の目的物の引渡しについて期限を定めた場合は、その代金の支払いにも同一期限が付されたものと推定される、ということです。同時履行の趣旨ですね。

代金が支払れるまで目的物を引渡す必要はありません。目的物が引渡されるまで代金を支払う必要はありません。他にも同時履行が要求されるケースについては、順次、場面に応じて覚えていってください。同時履行の必要がないケースも重要です。ここでは、債務の弁済と受取証書(領収証)の交付義務は同時履行の関係にあるということを絶対に覚えておいてください。

ひっかけとして、弁済と債権証書(契約書など)の返還義務が同時履行の関係にあると出題されたら誤りです。債権証書は、全ての弁済完了後に返還を請求することができます。

弁済者が弁済の提供をして受取証書の交付を求めたが、弁済受領者が受取証書の交付を拒んだ場合、弁済は有効に成立していませんが弁済者は遅滞責任を免れます。弁済が遅れた履行遅滞などと異なり、債権者が弁済を受けるのは「権利」であって義務ではありません。債権者が弁済に応じない受領遅滞については細かすぎるため触れませんので、債務者が弁済時期までに弁済の提供をすれば遅滞責任を免れるということだけ覚えておいてください。

また2021年の法改正により、受取証書の交付を電磁的記録による請求に代えることができるようになりました。ただし、弁済を受領する者に不相当な負担を課す場合はこの限りではありません。


弁済の提供

原則:現実の提供(売買代金を約束の場所へ持参して提示する)
例外:口頭の提供(債権者が、「あらかじめ受領を拒み」、または「履行のために債権者の行為を必要とするとき」には、口頭の提供で足りる)

つまり例外も含め最低でも口頭での提供だけは必要ということですが、口頭の提供すら要しないケースがあります。かなり細かい知識ですが、宅建業に関係していて出題されてもおかしくないので軽く触れておきます。

不動産賃貸借契約における賃料に関して、賃借人の経済状態が悪いわけでもなく支払う意思はあるのに、賃貸人が受領しない意思が明確であるときは口頭の提供すら要しません。大家さんが賃料の値上げを要求し、賃借人がそれを拒んで値上げ前の賃料を支払う意思を示しても、大家さんが「明確に拒絶」することが分かっている場合ですね。この場合は口頭の提供すらしなくても債務不履行となることはありません。

弁済の提供をすることにより、債務者は債務不履行責任を免れます。債権の目的が特定物の引渡しである場合、その物が毀損等していても現状で引き渡せば(弁済の提供をして債務不履行責任を免れるという意味では)問題ありません。尚、債権の目的が特定物の引渡しである場合、債務者は、引渡しが終わるまで契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善管注意義務をもって特定物を保存する必要があります。

間違えて本来の目的物でない物を引き渡してしまった場合は、もちろん更に有効な弁済が必要です。有効な弁済をするまで、間違えて給付した物を取り戻すことができません。債権者が本来の給付と気づかず善意でその物を消費したり譲渡した場合、弁済者は取戻請求ができなくなります(あとは弁済者と本来の所有者との不当利得や損害賠償の問題となります)。

弁済の給付が一部で、全ての債務を消滅させるのに足りない場合は、当事者の合意によりいずれの債務に充当するか決めますが、当事者の合意がなかった場合は、費用→利息→元本の順で充当する必要があります。一部弁済でも受取証書の交付を請求できます。

弁済費用については、別段の意思表示がないときは債務者が負担します。ただし、債権者が住所を移転するなど弁済費用を増加させたときは、その増加額は債権者の負担となります。債権者が増加分の費用を支払わないとして、債務者が弁済を拒むことはできません。とりあえず増加分の自腹を切って弁済の提供をした後に頑張って請求してください。

債務者は、弁済の提供をすることで債務不履行責任債務を履行しないことで生じる責任を免れます。債務不履行ではない責任・・遅延損害金などですね。


弁済目的物の供託

供託に関する規定も要所が改正されていますので軽く押さえておきましょう。次の場合、弁済者は供託をすることで債権を消滅させることができます。

1.弁済の提供をしたが、債権者が受領を拒んだとき
2.弁済の提供をしても、債権者が受領することができないとき
3.弁済者が債権者を確知することができないとき(弁済者に過失がある場合を除く。過失の立証責任は債権者

また、弁済の目的物が供託に適しない場合、保存に過分の費用を要する場合などは、裁判所の許可を得て目的物を競売にかけ、その代金を供託することもできます。


代物弁済とは

本来の給付と異なる他の給付を現実になすことにより、本来の債権を消滅させること。

債権の一部についても代物弁済をすることが可能です。第三者が弁済できるとき、その第三者も代物弁済をすることが可能です。代物弁済として給付された物に不適合があった場合でも、債権者は不適合のない物に代えるよう請求することはできず、代物弁済により債権者の債権は消滅します(あとは損害賠償などの問題)。債権の一部と言わずに代物弁済がなされた場合、債権額より価値が少なくても債権全部が消滅します。

また、改正民法により要物契約から諾成契約となった点にも注意。代物弁済契約は当事者の合意で成立し、その効力は実際に他の給付をしたときに生じます。

以上、弁済の難問対策でした。ベースが簡単なのでちょっと深く掘り下げすぎた気もしますが、それでも難しくはなく覚えやすいと思いますので、しっかりとマスターしておいてください!


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【宅建試験問題 平成12年ー問9】Aが、Bに対する金銭債務について、代物弁済をする場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。

1.Aが、不動産の所有権をもって代物弁済の目的とする場合、Bへの所有権移転登記その他第三者に対する対抗要件を具備するため必要な行為を完了しなければ、弁済としての効力は生じない。
2.Aの提供する不動産の価格が1,000万円で、Bに対する金銭債務が950万円である場合、AB間で清算の取決めをしなければ、代物弁済はできない。
3.Aが、Bに対する金銭債務の弁済に代えて、Cに対するAの金銭債権を譲渡する場合に、その金銭債権の弁済期が未到来のものであるときは、弁済としての効力は生じない。
4.Bは、Aから代物弁済として不動産の所有権の移転を受けた後は、その不動産に不適合があっても、Aの責任を追及することはできない。
1 正:代物弁済の目的物が不動産の場合、原則として登記その他の引渡行為を完了しなければ、弁済の効力は生じない
2 誤:当事者が納得すれば、価格が等しくなくても清算不要で代物弁済をすることができる
3 誤:代物弁済の目的物が債権の場合、弁済期未到来でも弁済の効力が生じる
4 誤:代物弁済契約は売買契約の規定が準用され、契約不適合責任を追及することもできる