無権代理と表見代理の難問対策

宅建試験の民法解説:宅建試験は、単純な暗記で済む勉強がほとんどです。しかし!民法では暗記よりも理解することが重要となるところもあります。その一つが無権代理表見代理です。単純暗記ではなく登場人物をイメージし、頭を柔らかくして整理していってください。難易度も決して低くありませんが、権利関係の最初の山場として力を入れて頑張りましょう。

無権代理と表見代理の難問対策

無権代理・表見代理とは

・代理人と称して行為をした者に、実は代理権がなかった場合
・代理人が与えられた代理権の範囲を超えた行為をした場合
・以前は代理権があったが、行為時には消滅していた場合

これらは無権代理となります。そして無権代理行為であっても、それがまるで本当に代理権があるように見えるときは、表見代理となります。
宅建合格!表見代理のパターン

無権代理の効果

無権代理人が結んだ契約は無効であり、原則として本人に効力は生じません。正確には無効ではなく効果不帰属(本人が追認すれば遡って本人に効果が属する浮動的状態)なのですが、この違いを追求しだすと司法試験の問題となってしまいます。当然ですが、遺言や寄付、所有権放棄などの単独行為の無権代理も無効です。これには例外もあるのですが、さすがにそこまでは出題されないでしょう。

宅建試験の民法で一二を争うほど難しい(ややこしい)のが無権代理です。無権代理の問題を解くときは、「相手方」と「本人」を分けて考えるようにしてください。無権代理は代理人の暴走です。相手方も本人も、何も知らなければ悪くありません。

相手方は自分が有利だと思えば催告し、不利だと思えば取り消すだけ
本人は自分が有利(実際はレアケース)だと思えば追認し、不利だと思えば(効果が及ばないので)何もしないだけ

この原則を意識して、下記のややこしい解説をお読みください。


無権代理における本人の追認権

無権代理行為だからといって常に本人に不利益な内容のものとは限りません。本人が望んで無権代理行為を追認すると、原則として「契約時」に遡って有効な代理行為があったことになります(遡及しない旨の特約も有効)。本人は、無権代理行為(=契約)を追認して、正当な代理によってなされた場合と同じ効果を生じさせることができます。本人が追認の効果を主張するのに、相手方がそれを妨げることはできません

追認をするのに、無権代理人や相手方の同意は必要なく、また、追認の相手方は、無権代理人でも契約の相手方でも構いません。ただし、無権代理人に対して追認をした場合は、相手方が追認の事実を知らないと、相手方に対しては追認の効果を主張することができません。つまり、追認を知る前に相手方がした取消しは有効となります。黙示の追認も認められることも覚えておいてください。


無権代理における本人の追認拒絶権

追認権は「権利」であって「義務」ではないので、無理に追認をする必要もありません。相手方に対して追認拒絶の意思表示をすることで、無権代理行為の効果が自らに帰属しないことを確定させることができます。


無権代理における相手方の催告権

相手方は相当の期間を定め、本人に対して追認をするか否か確答すべき旨を催告することができ、確答がなかった場合は、「追認拒絶」があったものとみなされます。

相手方は、契約が有効なのか無効なのか不安定な状態に置かれています。そこで民法は、相手方に「催告権」と「取消権」を与えています。この催告権は、契約当時にその契約が無権代理であることを知っていた場合にも認められるということも覚えておいてください。


無権代理における相手方の取消権

相手方は、当該契約を取り消すことができます。これには重要な要件が2つあります。

契約時に無権代理であることを知らなかった(過失の有無は問わない)
本人がまだ追認をしていない

この2つの要件を満たせば、相手方は契約を取り消すことができます。相手方は悪意だった!という立証責任は本人が負います。取消権を行使すると契約は最初からなかったことになるので、次に述べる無権代理人の責任を追及できなくなります。取り消した上で損害賠償請求ができると出題されたら誤りですね。


無権代理人と相手方の間の効果

相手方が「善意無過失」ならば、無権代理人に対して、契約の履行または損害賠償請求をすることができます(相手方に過失があっても、無権代理人が自己に代理権がないことを知っていた場合は責任追及可)。取消権は善意であれば足り、無過失まで要求されていない点と比較して注意しておいてください。履行か損害賠償かは、相手方の選択によります。ただし、無権代理人が制限行為能力者である場合は、これらの請求はできません。

無権代理人に責任を追及できる要件まとめ →
・相手方が取消権を行使していないこと
・代理権がないことについて、相手方が善意無過失であること(無権代理人が悪意のときは、過失があっても可)
・無権代理人が行為能力者であること
・無権代理人が代理権の存在を証明できず、本人の追認もないこと
  催告権 取消権 責任追及
善意無過失の相手方
善意有過失の相手方 ×
悪意の相手方 × ×


表見代理の効果

代理権授与の表示による表見代理
本人が契約の相手方に対して、ある者に代理権を与えたと表示した
実際には代理権を与えていないのに、口頭や書面等でウソを言った場合です。任意代理にのみ適用され、法定代理には適用されないとするのが通説です。代理人の選任について本人の意思関与がないので当然と言えば当然ですね。

権限踰越による表見代理
基本権限はあるが、それが代理権限の範囲を逸脱してなされた
賃貸契約の代理を頼んだのに、それを売却してしまった場合等です。越権行為について代理権があると相手方が誤信し、その誤信に正当の理由があることが必要です。何をもって正当の理由かは…深入りはやめておきましょう。これは法定代理にも適用されます。

権限消滅後の表見代理
代理権が消滅して、もはや代理人でない者が代理行為をなした
かつては代理権が存在し、かつて有した代理権の範囲内で代理行為を行った場合です。法定代理にも適用されます。

これらの表見代理が行われた場合、「善意無過失」の相手方は、

・表見代理を主張して本人の責任を問う(催告し契約を履行させる)
・無権代理として無権代理人の責任を問う
・無権代理行為として取り消して、契約を白紙に戻す

という3つの方法のうち1つを自由に選択して主張することができます。無権代理人が、表見代理が成立しているとして無権代理人の責任を免れることはできません


本人の地位と無権代理人の地位が同一人に帰した場合

本人と無権代理人が親子だった場合などの話です。

・本人が死亡し、無権代理人が本人を相続した場合
→ 単独相続=当然に有効となる(追認拒絶不可)
→ 共同相続=相続人全員による追認権の行使により有効となる

無権代理人は自業自得であり、契約は有効となって、相手方の請求を拒むことができなくなります。ただし、他にも相続人がいる場合は、他の相続人を保護するために、当然に有効とはなりません。無権代理人の相続分についても、他の共同相続人全員の追認により有効となります。

・追認拒絶後に本人が死亡し、無権代理人が本人を相続した場合
追認拒絶が確定し、有効となることはない

・無権代理人が死亡し、本人が無権代理人を相続した場合
→ 当然には有効とならず、追認を拒絶することができる

もともと本人は、追認を拒絶できる立場にあったのですから当たり前ですね。追認を拒絶しなかった場合、無権代理人が相手方に債務を負担していたときは、追認拒絶もできたことを理由にその債務を免れることはできません

・無権代理人が死亡し、本人と共に無権代理人を相続した者が更にその後本人を相続した場合
→ 本人自らが法律行為をしたのと同様の効果を生じる(追認拒絶不可)


無権代理と表見代理のまとめ

相手方が主張して初めて表見代理が問題となり、相手方が主張しない限り、本人側から表見代理を主張することはできません。本人が当該代理行為の効果を成立させたいときは、相手方が無権代理行為取消権を行使するよりも先に追認するしかありません。逆に、本人が無権代理行為の追認を拒絶しても、相手方は表見代理を主張することができます。

本人も可哀想ですが、つまりは圧倒的に「(何も知らない)相手方保護」のための規定ということです。無権代理人は知ったこっちゃありません。悪いのは誰か、どの順番で保護すべきかを考えながら勉強していけば覚えやすいはずです。ここは理解です!


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代理の難問対策 弁済の難問対策
【宅建試験問題 平成4年ー問3】Aの所有する不動産について、Bが無断でAの委任状を作成して、Aの代理人と称して善意無過失の第三者Cに売却し、所有権移転登記を終えた。この場合、民法の規定によれば、次の記述のうち正しいものはどれか。

1.Cが善意無過失であるから、AC間の契約は、有効である。
2.AC間の契約は有効であるが、Bが無断で行った契約であるから、Aは取り消すことができる。
3.Cは、AC間の契約を、Aが追認するまでは、取り消すことができる。
4.AC間の契約は無効であるが、Aが追認をすれば、新たにAC間の契約がなされたものとみなされる。
1 誤:表見代理は成立せず、Bの行為は無権代理行為となるため、本人Aが追認しない限りAC間の契約は効力を生じない
2 誤:AC間の契約は本人Aが追認しない限り効力を生じず、また、AC間の契約を取り消すことができるのは相手方Cであり、Aは取消権を有していない
3 正:無権代理につき善意の相手方は、本人が追認をしない間は契約を取り消すことができる
4 誤:無権代理を本人が追認すると、当初より有効な代理行為として契約は有効となる