宅建業の事務所の完全解説

宅建業法の完全解説:宅建業を行うための「事務所」とは?事務所に備える帳簿や従業者名簿等について解説します。

宅建業の事務所の完全解説

得点源である宅建業法の中でも特に得点源です。定番の出題ポイントとひっかけパターンを押さえておけば間違える要素がありません。

では、サクサクッと押さえて1点を確保しておきましょう!


宅建業を行う事務所とは

宅建業法でいうところの事務所とは、

1.本店(主たる事務所)
2.支店(従たる事務所)
3.宅建業務を継続的に行うことができる施設を有する場所で、宅建業に係る契約締結権限を有する使用人を置いているところ

をいいます。商業登記の有無などは関係ありません。3番が条文そのままで分かりにくいですね。これはつまり、営業所などしっかり固定された場所で、営業所長など偉い人がいるところということです。新入社員が1人で留守番しているテント張りの案内所など、すぐに移動できる簡易な施設は事務所とは呼べません。事務所と案内所の違いについては次ページで詳しくお伝えします。

また、次の一文は重要です。「支店で宅建業を営んでいれば、宅建業を営んでいない本店も事務所となる」これは絶対に覚えておいてください。例えば2つの支店ABを持つ会社(本店)があったとします。支店Aだけが宅建業を営み、本店と支店Bは宅建業とは関係ありません。この場合に事務所と呼ばれるのは・・本店と支店Aですね!宅建業を営んでいない支店Bは事務所ではありませんので、ここも注意です。
甲県の本店で宅建業 甲県の支店で宅建業 甲県知事免許
甲県の本店で宅建業 乙県の支店で宅建業 国土交通大臣免許
甲県の本店で建設業 乙県の支店で宅建業 国土交通大臣免許
甲県の本店で宅建業 乙県の支店で建設業 甲県知事免許

少し練習しておきましょう。

1.宅建業者の本店で、本店では宅建業を行わない場合、当該本店は事務所ではない。
→ 宅建業を営むかどうかに関係なく、本店は事務所となります。誤りです。

2.宅建業者の支店で、支店長を置き宅建業を行う場合、当該支店は事務所である。
→ 宅建業を営めば、支店は事務所となります。

3.宅建業者の本店支店以外で、継続的に業務を行うモデルルームで宅建業に係る契約を締結する権限を有する使用人を置く場合、当該モデルルームは事務所である。
→ しっかりとした建物で、宅建業に係る契約締結権限を有する使用人を置けば、事務所として扱われます。

4.宅建業の本店支店以外で、分譲マンションを販売するための現地案内所で専任宅建士を置く場合、当該案内所は事務所である。
→ 土地に定着して継続的に業務を行う施設でなければ案内所です。当該案内所で契約の申込みや締結を行う場合は専任宅建士を1名以上設置する必要がありますが、専任宅建士の設置義務があっても案内所は案内所です。誤りです。


事務所に必要なもの

宅建業を営む事務所には、次の5つのものが必要です。

1.標識

正式には「宅地建物取引業者票」といいます。正式名を覚える必要はありません。本当に宅建業者であるか判断するためのものです。標識には免許番号や商号などが必ず記載され、事務所・宅建士を置くモデルルーム・契約申込みを行わない案内所・・など各ケースに応じて専任宅建士の氏名やクーリング・オフの適用がある旨などを記載します。

2.報酬額の掲示

宅建業者が受け取る報酬がいくらなのか、あらかじめ明記しておきます。お客さんが安心して取引できるようにするためです。掲示義務に違反すると指示処分+罰則の対象となります。

3.帳簿

宅建業の取引があった場合、その年月日、宅地建物の所在・面積、取引金額や報酬額等を記載する台帳で、宅建業の適正な運営と取引の公正を確保するためのものです。この帳簿は、事務所ごとに備え、各事業年度の末日に閉鎖して、閉鎖後5年間保存する必要があります(宅建業者が自ら売主となる新築住宅にかかる帳簿は10年間保存を要する)。

事務所のパソコンのハードディスク等に記録し、必要に応じ当該事務所においてパソコンやプリンタを用いて紙面に印刷することが可能な環境を整えることで、当該帳簿への記載に代えることもできます(閲覧義務なし)。

4.従業者名簿

宅建業者は、一時的なアルバイト等も含む全ての従業者に「従業者証明書」を携帯させる必要があり、従業者は、取引関係者から請求があった場合は、従業者証明書を提示する義務があります(請求がなくても提示する重要事項説明時の宅建士証と区別)。従業者証明書をまとめた台帳を「従業者名簿」といい、事務所ごとに備え、取引関係者の請求があった場合は、この従業者名簿も閲覧させる義務があります(事務所のパソコンのハードディスク等に記録し、ディスプレイの画面に表示する方法で閲覧に供することもできる)。

従業者名簿は、最終の記載をした日から10年間保存する要があり、従業者名簿には、従業者の氏名、生年月日、主たる職務内容、宅建士であるか否かの別などを記載します。平成29年度法改正により住所の記載が除かれましたので注意してください。

ちょっと細かいですが、帳簿の備付義務違反は指示処分と50万円以下の罰金、従業者名簿の備付義務違反は指示処分または業務停止処分と50万円以下の罰金の対象となることも覚えておいて損はないかもしれません。
宅建合格!従業者証明書
①宅建士証と異なり撮影月を記載します
②宅建士証と異なり勤務先事務所の名称と住所を記載します(会社名ではなく事務所名)
③宅建士証と異なりいつから働いているかも記載します(有効期間5年以内)
④宅建士証の知事印と異なり、事務所の代表者の印を押します

宅建士証が宅建士の氏名と住所を記載するのに対し、従業者証明書は従業者の氏名+事務所の住所と代表者氏名を記載する点に注意。
  備付け 保存期間 閲覧 備付義務違反
帳簿 事務所ごと 閉鎖後5年
自ら売主の新築は10年
不要 指示処分+罰則
従業者名簿 事務所ごと 最終の記載から10年 必要 業務停止処分+罰則


5.成年者である専任の宅建士

宅建業に関する法律の専門家を置き、業務の適正な運営を図ります。
・事務所については業務に従事する者5名に1名以上の割合
・宅建士の設置義務のある案内所等については少なくとも1名
宅建業者は成年者である専任の宅建士を、上記の通り置かなければなりません。

この人数が不足した場合、宅建業者は2週間以内に新しい宅建士を補充するなどの措置を執らなければなりません。そして設置から30日以内に免許権者に届け出ます。2週間以内に必要な措置を執ると出題されたら正しい肢、2週間以内に設置して届け出ると出題されたら誤りの肢です。もちろん初めから所定の人数が不足する場合は、事務所等を開設することができません。業務に従事する者とは、営業や一般管理はもちろん、補助的な事務に従事する者も含まれます。

成年者である専任の宅建士とは、18歳以上で、その事務所に常勤する宅建士を言います(IT等を活用することで事務所に「常駐」する必要はなくなりました)。ここは1つ注意点があります。未成年者であっても、その者自身が宅建業者である場合、または業者が法人でその役員である場合は、未成年者でも専任の宅建士となることができます(その者が主として従事する事務所等に限る)。「役員」ですのでご注意ください。未成年者の政令で定める使用人が宅建士となっても、成年者である専任の宅建士とはみなされません。宅建業に関して営業許可を受けても、法定代理人の同意があっても専任宅建士となることはできず、上記赤文字の要件を満たす必要があります。

最後に補足として、この専任の宅建士設置要件を欠いた場合は、100万円以下の罰金の他に、業務停止処分を受けることがあるということも頭の片隅に入れておいてください。
宅建業者の事務所 業務に従事する者5名に1名以上の割合で設置(※)
案内所等 1名以上設置
(※)従業員10名=専任宅建士2人以上、従業員21名=専任宅建士5人以上が必要


事務所の出題ポイントとひっかけパターンまとめ

押さえるべき箇所を覚えやすいようインプリ風にコンパクトにまとめておきます。

1.標識は、事務所と案内所に掲示することを要する!

全ての案内所にも掲示し、事務所と案内所の標識が同一である必要はありませんので注意です。

2.報酬額は、事務所にのみ掲示することを要する!

案内所に報酬額を掲示する必要はありませんので注意です。

3.帳簿は、各事業年度の末日に閉鎖して、閉鎖後5年間の保存を要する!

従業者名簿10年とのひっかけに注意です。

4.宅建業者自ら売主となる新築住宅に係る帳簿は、閉鎖後10年間の保存を要する!

「自ら売主となる新築住宅」が10年で、単に新築住宅の媒介などは5年となりますので注意です。

5.帳簿は、取引があったつど記載することを要する!

事業年度末にまとめて記載と出題されたら誤りなので注意です。記載は宅建士が行う必要はなく、宅建士の記名も不要です。

6.取引関係者の請求があった場合、従業者証明書を提示させなければならない!

これに違反しても罰則なし重要事項説明時の宅建士証は請求がなくても提示する必要があり、これに違反すると罰則がある点に注意です。

7.取引関係者の請求があった場合、従業者名簿を閲覧させなければならない!

帳簿には閲覧義務はありませんので注意です。

8.従業者名簿は、最終の記載をした日から10年間の保存を要する!

帳簿5年とのひっかけに注意です。

9.帳簿や従業者名簿は、事務所ごとに備えることを要する!

本店に一括して備えなければならないと出題されたら誤りなので注意です。案内所に帳簿や従業者名簿は不要です。

10.事務所については、5名に1名以上の割合で専任宅建士を置く!
11.宅建士設置義務のある案内所等については、少なくとも1名の専任宅建士を置く!
12.専任宅建士が不足した場合、2週間以内に補充する!

この辺のひっかけ対策は後ほど「宅地建物取引士」の説明で見ていきます。


では最後に、近年の本試験問題をチェックして知識を仕上げておきましょう。


近年の宅建本試験問題(皆さん直近の過去問は解く機会が多いと思いますので、古すぎず新しすぎない練習問題を少々。言い回しなど、雰囲気をチェックしておきましょう)

・宅建業者Aが行う業務に関する次の記述のうち、宅建業法の規定に違反しないものはいくつあるか(2017-28

ア.Aは、宅建業法第49条に規定されている業務に関する帳簿について、業務上知り得た秘密が含まれているため、当該帳簿の閉鎖後、遅滞なく、専門業者に委託して廃棄した。
→ 秘密が含まれていたからと例外はなく、閉鎖後5年間の保存を要します。


・次の記述のうち、宅建業法の規定によれば、正しいものはどれか(2017-35

1.宅建業者は、自ら貸主として締結した建物の賃貸借契約について、宅建業法第49条に規定されている業務に関する帳簿に、宅建業法及び国土交通省令で定められた事項を記載しなければならない。
2.宅建業者は、その業務に関する帳簿を、一括して主たる事務所に備えれば、従たる事務所に備えておく必要はない。
3.宅建業者は、その業務に関する帳簿に報酬の額を記載することが義務付けられており、違反した場合は指示処分の対象となる。
4.宅建業者は、その業務に従事する者であっても、一時的に事務の補助のために雇用した者については、従業者名簿に記載する必要がない。

まず「自ら貸主」という言葉にピーンと来るクセをつけてください。1番は宅建業に該当しないため、帳簿の記載も不要となります。帳簿は事務所ごとに備える必要があるため2番も誤り。一時的に補助するアルバイトでも非常勤の役員でも従業者であれば証明書を発行し、従業者名簿に記載するので4番も誤り。よって正解は、帳簿の記載内容や罰則を問う少し細かい肢の3番となります。簡単ですね!


宅建業法では、細かい肢があっても残りの3肢は簡単です。やや難しめの問題も大抵は消去法で対応できます。まれに細かい肢が混ざっている意地悪な個数問題も出題されますが、正解率の低い問題が多ければ合格ラインは下がります。

要所をきちんと勉強しておけば、宅建業法で2肢も3肢も分からない問題はほぼないはずです。押さえるべき箇所を確実に押さえて効率良く宅建合格を勝ち取りましょう!


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