宅建試験の民法解説:これまでに見てきた取消も、債権消滅事由です。しかし、もっとも普通の債権消滅事由といえば、債務者が債務を履行することによって、債権者の債権が消滅する場合でしょう。その典型が「弁済」です。民法は他にも債権消滅事由として、「代物弁済」「相殺」「更改」「免除」「混同」を規定しています。宅建試験で重要なのは、弁済と相殺です。ここでは弁済を、次ページで「相殺」を解説していきたいと思います。より詳しい解説はこちら→弁済の難問対策
- 弁済の宅建解説
■弁済とは
債務者が約束の債務を果たし、債権者の債権が目的を実現し消滅すること
■弁済の要件
弁済すべき者が、
弁済を受ける者に対して、
約束(契約・法律で定められた)の債務を、
定められた場所で、
定められた時期に、
定められた方法で、
なされること。
■弁済すべき者
・債務者
まず、債務者本人は当然に弁済ができます。
その他に、債務者の代理人も弁済ができます。
・第三者
債務者、債務者の代理人以外の第三者も弁済ができますが、要件が2つあります。
債務の性質がこれを許さないものでないこと
→債務の本旨から、債務者本人にしか弁済できないと考えられるものについては、第三者の弁済は許されません。例:債務の内容が、著名な学者による講演とする場合などは、その学者本人が必要
当事者が反対の意思を表示していないこと
→当事者は、第三者による弁済を禁止することができます。友人や両親が「代わりに払ってやる」と言っても「大きなお世話」というわけです。例外:利害関係正当利益を有する第三者(抵当不動産の第三取得者、物上保証人など)は、債務者の意思に反しても弁済ができる。ただし、正当利益を有しない第三者が債務者の意思に反してした弁済であっても、債務者の意思に反することを債権者が知らなかったとき、更に、第三者が債務者の委託を受けた保証人であり、そのことを債権者が知っていたときは有効な弁済となります。
■弁済を受ける者
もちろん、債権者です。
しかし、間違えて債権者でない者に弁済をしてしまった場合が重要となります。そんなことがあり得るの?と思われますが、あるのです。原則として、債権者以外の者への弁済は無効です。よって、債権は消滅しません。
しかし、債権の準占有者受領権者以外の者であって取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有する者(=本当の債権者ではないが、権利証や実印などを持っており債権者のように見えた人)に対し、「善意無過失」で弁済した場合は有効となります。受取証書(領収証)を持参した者というだけでは「債権の準占有者」とは呼べなくなり、「取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有する者」と言えるかどうかで判断されることになりましたが、善意無過失で弁済した場合は有効ということですね。
■弁済場所
特定物(※):債権発生当時にその物が存在した場所
不特定物や金銭債務等:債権者の現時の住所
※特定物 =個性ある物(○月○日収穫のササニシキ100キロ)
不特定物=ただ一定の種類や量(米100キロ)
改正民法により、特定物は、契約その他の債権発生原因及び取引上の社会通念に照らしてその引渡しをすべきときの品質を定めることができないときに限り、現状の引渡しで足ります。改正前の特定物の引渡しは無条件で現状引渡しだった点に注意。
■弁済時期
当事者の特約・法律の規定によって定まる。
ここで覚えておいてほしいのは、売買の目的物の引渡しについて期限を定めた場合は、その代金の支払いにも同一期限が付されたものと推定される、ということです。同時履行の趣旨です。法律の規定については、順次、場面に応じて覚えていってください。
また、法令や慣習により取引時間の定めがあるときは、その取引時間内に限り弁済をし、または弁済請求をすることができます。
■弁済の提供
原則:現実の提供(売買代金を銀行からおろして、約束の場所へ持参して提示する)
例外:口頭の提供(債権者が、「あらかじめ受領を拒み」、または「履行のために債権者の行為を必要とするとき」には、口頭の提供で足りる)
弁済の提供をすることにより、債務者は債務不履行責任を免れます。
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