宅建試験の民法解説:債権者と債務者が相互に同種の債権・債務を有する場合に、その債権と債務とを対等額において消滅させる一方的意思表示を「相殺」といいます。より詳しい解説はこちら→相殺の難問対策
- 相殺の宅建解説
「相殺(そうさい)」とは、例えば、AがBに対して100万円の金銭債権を有し、BがAに対して80万円の金銭債権を有するとします。AがBに対して相殺の意思表示を行うと、Bに対する80万円の債務を免れることができます。つまり差引計算によりBのAに対する債権は帳消しになり、相殺後は、AのBに対する20万円の債権が残るということです。
そしてこの場合、相殺する方の債権(AのBに対する債権)を「自働債権」、相殺に供される方の債権(BのAに対する債権)を「受働債権」といいます。
以下、相殺の要件、方法、効果と、その注意点をまとめてみましたので、参照してください。自働だ受働だと頭が混乱しそうになる箇所もありますが、頭を柔らかくして読んでみてください。
■相殺の要件(相殺の要件が揃った状態を「相殺適状」といいます)
1.2つの債権が有効に成立し、かつ、対立していること
時効により消滅した債権であっても、それが消滅以前に相殺適状にあったときは、その債権を相殺に供することができる。既に消滅時効にかかった債権を譲り受けて、これを自働債権として相殺することは許されない。
2.対立する両債権が同種の目的を有すること
履行地が同一である必要はない。
3.両債権がともに弁済期にあること
受働債権については、期限の利益を放棄すれば、弁済期に達している必要はない。期限の定めのない債務は、自働債権としても受働債権としても相殺に供しうる。
4.相殺を許す債務であること
・悪意ある不法行為によって生じた債権を「受働債権」として相殺することはできない
・人の生命または身体の侵害により生じた債権を「受働債権」として相殺することはできない
・相手方の同時履行の抗弁権が付着している債権を「自働債権」として相殺することはできない
・差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権を「受働債権」として相殺することはできない (差押え後に取得した債権が差押え前の原因により生じたものである場合は相殺による対抗可能)
どういうことだか意味不明だと思います。出題されるとしたら割とこのままかと思いますが、一応解説しておきます。
不法行為から生じた債務(損害賠償債務)を受働債権として相殺することにより、不法行為債務を免れることは許されません。例)Aが交通事故によりBに100万円の損害を与えたが、他方AはBに100万円の賃金債権を有していた場合、AはBに対して有する賃金債権を自働債権として、Bの損害賠償債権と相殺することはできない。これを認めると、弁済を受けられない債権者が、腹いせとして不法行為に及ぶ可能性があるためです。どうせ返してもらえないならケガをさせてやろう!と。
また、同時履行の抗弁権が付着している債権を自働債権として相殺することを認めると、同時履行の原則が根底から覆されてしまいます。相手方に、強制的に履行させるのも同然です。
差止めとは、たとえばAのBに対する債権が、Aの債権者Cによって支払いを止められることです(差押え)。同時履行と同様、これを認めると、差押えという制度が無意味となってしまいます。差押えの実効性を確保するため、上記の相殺は認められません。
■相殺の方法
当事者の一方から相手方に対する意思表示によって行われる。相殺の意思表示に、条件または期限を付けることができないということを覚えておいてください。
■相殺の効果
双方の債権が、その対等額において消滅する。その効力は、双方の債権が相殺適状になったときに遡及して生じるということを覚えておいてください。
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