宅建試験の民法解説:法律行為が取り消される可能性のある状態というのは、相手方や第三者の地位を不安定にしています。いつ取り消されるか分からないのはドキドキです。そこで、今回のテーマは「追認(ついにん)」です。
- 追認の宅建解説
追認とは、取り消すことができる行為を取り消さないものと決める意思表示です。
つまり、取消権の放棄を意味します。
追認がなされると、法律行為は有効に確定します。契約の相手方は、その行為を追認するのかどうか、催告することができます。では、追認の詳細を見ていきましょう。
■追認ができる者
追認権者は取消権者と同じ、イコールです。未成年者、被保佐人、被補助人が保護者(法定代理人、保佐人、補助人)の同意を得ないで行った行為や、成年被後見人が行った行為(日常生活に関する行為を除く)は、成人に達するなど、無能力を脱した状態でないと自ら追認することはできません。詐欺、強迫を受けた者も、自由で正常な判断をなし得る状態になって、初めて追認ができます。
保護者は自由に追認できます。制限行為能力者の同意などは必要ありません。
■追認の要件
取り消すことができる行為の追認は、取消原因となっていた状況が消滅し、かつ、取消権を有することを知った後にしなければ効力を生じない。改正民法の新規定です。追認は、取消権の存在を知った上ですることが要件となりました。
また次の者は、取消原因となった状況が消滅していなくても、取消権があることを知ってさえいれば追認をすることができます。
・法定代理人、保佐人、補助人
・成年被後見人を除く制限行為能力者が、法定代理人等の同意を得てする追認
■法定追認
追認の意思表示をしなくても、ある一定の行為がなされた場合は、追認があったものと擬制されます。法律関係の早期確定による取引の安定と、相手方の保護を図った規定です。以下が法定追認事由です。① 全部または一部の履行 取消権者が債務者として履行、または債権者として受領 ② 履行の請求 取消権者がした場合に限る(例:相殺の意思表示) ③ 担保の供与 取消権者が債務者として担保供与、または債権者として担保授受 ④ 取得した権利の全部または一部の譲渡 取消権者がした場合に限る ⑤ 強制執行 取消権者が債権者として執行した場合に限る ⑥ 更改 契約の一種。宅建試験での出題可能性は低いので頭の片隅に
例を挙げます。
売主Aと買主Bが売買契約を行いました。Bは契約締結時には未成年でしたが、現在は成年に達しています。
①Bは代金を支払うと、追認したものとみなされます(物を受領した場合も同じ)。
②BがAに対して「物を渡せ!」と言うと、追認です(AがBに「金を払え!」と言っても、Bが追認したことになりません)。
③Aの要求に対してBが土地に抵当権を設定したり保証人をつけると、追認です(逆も同じ)。
④Bが第三者Cに、BがAに対して有する物の引渡債権を譲渡すると、追認です(AがCに代金債権を譲渡しても、Bが追認したことになりません)。
⑤BがAに対して強制執行をかけると、追認です(AのBに対する強制執行では、Bは追認したことになりません)。
⑥Bは現金を持っていないため、代わりに宝石で支払うとAに伝えると、追認です。
注:意思表示による追認と同じく、制限行為能力者本人は、保護者の同意を得るか無能力を脱するかしないと、これらの行為を行っても法定追認は成立しません。
■追認の効果
法律行為は(契約時に遡って)有効に確定し、もはや取り消すことができなくなります。
4月1日に契約 → 5月1日に追認=4月1日から有効
■追認の期間
制限行為能力者が無能力を脱したあと、相手方から「1ヶ月以上の期間内に、契約を追認するか否か確答すべき旨」を催告してきたにも関わらず、確答しなかった場合は、追認したものとみなされ、契約を取り消すことができなくなります。保護者に対して「1ヶ月以上の期間内に、契約を追認するか否か確答すべき旨」を催告して確答がなかった場合も、追認したものとみなされます。
よって返事がなかったら、取り消すつもりはないんだな、ということで、契約は有効に成立いたします。1ヶ月以上というのは1ヶ月以上です。「2週間以内に取り消すか追認するか返事をしろ」は無効です。
では次ページより、追認も大きく関係している「代理」に入っていきます!
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