共有物の保存・管理・変更行為

宅建試験の民法解説:「共有」の難問対策。出題確率は40%弱ですが、とても簡単です。出題された場合は宅建試験における権利関係の貴重な得点源となります。令和5年に大きな改正があったため、出題可能性が高めでしばらく激アツです。

共有の難問対策

共有とは

共有とは、数人の者がそれぞれ共同で持分を有して、一つの物を所有することを言います。各共有者は各自の所有権を持ち、その総和が1個の所有権の内容と等しくなっている状態です。ちょっと難しい言い方ですね。

たとえば、ABCの3人が1,000万円ずつ出し合って3,000万円の建物を購入したとします。この場合、この建物は誰のものになるのでしょうか?もちろんABC3人のものです。3人でお金を出し合ったのですから当然ですね。このように、1つの物を何人かの人で共同して所有することを、共有といいます。


共有物の保存・管理・変更

では、この建物を誰がどのように使用できるのでしょうか?ABCは同じ額のお金を出したのですから、同じ割合でこの建物を所有しています。このような所有権の割合を「持分」といいます。ここで試験に出る可能性のあるポイントは2つです。

・各共有者は共有物全体について、各自の持分に応じた使用をすることができる!
・各共有者の持分は、特約がない場合(不明な場合)は等しいものと推定される

つまり、土地の3分の1を有する共有者は、面積の3分の1ではなく全体を持分に応じて使用することができます。各共有者は、別段の合意がある場合を除き、善管注意義務をもって共有物の使用をしなければならない点も頭の片隅に入れておきましょう。

そしてこの「使用」とは、3つの種類に分類されます。

1.「保存行為」=共有物の現状を維持する行為
例:修繕不法占拠者への返還請求、盗まれたので取り返す etc

2.「管理行為」=共有物を利用・改良する行為
例:賃貸借賃貸借契約の解除、共有宅地の地ならし、管理者を定め使用収益させる etc

3.「変更行為」=共有物を物理的に変化させる行為
例:売却・建替え・増改築、抵当権設定、田を畑にする etc

保存行為は、各共有者が単独ですることができます。
管理行為は、各共有者の持分価格の過半数の賛成で行います。
変更行為は、共有者全員の同意が必要です。

令和5年法改正
管理行為において特別の影響を及ぼす共有者がいるときは、その者の承諾が必要となる。
変更行為において形状または効用の著しい変更を伴わないもの(軽微変更)は、共有者の持分の価格に従い、その過半数で決することができる(変更行為が「重大変更」と「軽微変更」に分けられ、軽微変更は管理行為になったという考え方で大丈夫です)。

不動産が数人の共有に属する場合に、共有者が他の共有者を知ることができず、またはその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、所在等不明共有者の持分を取得(譲渡)させる旨の裁判をすることができる。

賛否不明共有者がいる場合 裁判により、賛否不明共有者以外の持分価格の過半数で管理行為・軽微変更が可能。
重大変更や、抵当権の設定など賛否不明共有者が持分を失う行為は不可
所在不明共有者がいる場合 裁判により、所在不明共有者以外の持分価格の過半数で管理行為・軽微変更が可能。
裁判により、所在不明共有者以外の全員の同意で重大変更が可能。

ここはものすごく大事です。問題が出題された場合、それはどの行為に該当し、つまり単独でできるのか、過半数か、全員の同意が必要なのか、必ず分かるようにしておいてください。持分の過半数を有する者は少数持分権者に対して共有物の明渡を求めることができるなど、意味不明なそれらしい問題に注意です。上記の例をしっかり覚えてください。

そして、ひっかけ問題用の注意点があります。上記の使用行為は、あくまでも「共有物全体」についてのお話です。各共有者が、自分の持分のみについては売却しようが抵当権を設定しようが、それは自由です。それは単独でできるということに注意しておいてください。少し細かいですが、持分について宅建試験に出そうな補足を挙げておきます。

・共有者の1人が持分を放棄した場合、その持分は他の共有者のものになる!

・共有者の1人が持分を放棄した場合、持分抹消登記ではなく持分移転登記を行う!

・共有者の1人が相続人なく死亡した場合(特別縁故者への財産分与もない)、その持分は他の共有者のものになる!(1.特別縁故者2.共有者となり、相続人なく死亡した場合は国庫に帰属と言うひっかけに注意です)

共有者の1人が死亡 → その相続人や特別縁故者へ
共有者の1人が死亡して相続人や特別縁故者がいない場合 → 他の共有者へ(共有ではなく死亡した場合は国のものとなる点と区別)

・共有者の1人が1年以内に負担義務(※)を履行しないときは、他の共有者は相当の償金を払って、その持分を取得することができる!(※負担義務=各共有者は、その持分に応じて管理費用を払う義務を負っています)

・共有物が第三者によって侵害された場合、各共有者は持分権に基づき損害賠償請求をすることができる!(=自己の持分率に応じた請求に限る)
保存行為 単独で可
管理行為 持分価格の過半数で決定(特別の影響を及ぼす共有者の承諾必要)
変更行為 他の共有者全員の同意が必要(軽微変更は過半数の同意でOK)
共有物の使用 持分割合に応じて全体を使用可
明渡し請求 単独で可
損害賠償請求 持分に関しては単独で可(全体は単独で不可)


管理者(令和5年新設)

共有者は、第三者を管理者と定めることができるようになりました。

管理者の選任は管理行為に含まれ、管理者は管理行為(軽微変更を含む)をすることができ管理者が共有物に重大変更を加えるには共有者全員の同意が必要となります。

管理者が共有者を知ることができず、またはその所在を知ることができないときは、裁判所は、管理者の請求により所在等不明共有者以外の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができます。

難問対策:管理者は、共有者が決した管理に関する事項に従い職務を行わなければならず、これに違反する管理行為は効力を生じず、共有者もまたこれをもって善意の第三者に対抗することはできません。


共有物の分割請求

最後に、共有物の分割について説明しておきます。ここも割と試験に出ますので押さえておいてください。共有にはトラブルが生じやすいということで、民法は、原則として各共有者はいつでも自由に共有物の分割を請求できるとしています。しかし、ポンポンと自由に分割されては困る共有者もいるでしょう。そこで、共有者同士で「共有物を分割しない」という特約を結ぶことも許されます。これを共有物不分割特約といいます。以下、分割および共有物不分割特約のポイントです。

・分割について共有者間の協議がまとまらない場合、裁判所に分割を請求することができる!

・共有物につき権利(地上権、賃借権、抵当権等)を有する者は、自己の費用で分割協議に参加することができる!

・共有物不分割特約の期間は、5年を超えることはできない!

・共有物不分割特約は更新することができるが、その期間は更新のときより5年を超えることはできない!

・共有物分割請求がなされた場合、裁判所は、1次的に、共有物の現物を分割する方法(現物分割)または共有者に債務を負担させて他の共有者の持分の全部または一部を取得させる方法(賠償分割)によって分割を命じ、2次的に、現物分割または賠償分割をすることができないとき、または分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは競売分割を命じる!(現物分割ができない例外:自動車など分割不能なもの、歴史的価値などがあり分割により著しくその価格を損ずるおそれがあるもの)


遺産共有(令和5年新設)

こちらも令和5年の新設規定です。

共有者の一人が死亡して共同相続が発生し、通常共有と遺産共有が併存する状態が生じた場合、相続開始時から10年を経過したときは、遺産共有関係の解消も裁判所による共有物分割訴訟において実施することが可能となりました。

かなり細かめの規定ですが、共有で出てくる数字といえば「不分割特約の5年」でしたので、この10年はちょっと熱いですね。一読で覚えられますので押さえておきましょう。尚、相続人の所在等が不明な場合も、相続開始から10年で所在等不明相続人との共有関係を解消することができます


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