広告の完全解説

宅建業法の完全解説:宅建業者が行う「広告」に関する制限=取引態様の明示から誇大広告・おとり広告について解説します。

広告の完全解説

今回は宅建業者が行う「広告」について見ていきますが、簡単な宅建業法の中でも特に簡単で「完全版」を作るのが難しいところです。基本だけで十分ですが、出題可能性があるポイントを絞り出してみます。


取引態様の明示

宅建業者が広告をするときには「取引態様の明示」をする必要があります。注文を受けた際も同様です。広告をする際にはそのつど、注文を受けた際にはただちに、取引態様の別を明示します。広告時に明示したからといって、注文時に省略することはできません。相手方が宅建業者だろうが取引態様を熟知していようが承諾を得ていようが省略することはできません。

取引態様は何度も明示して「例外規定はない!」と覚えておいてください(もちろん「自ら貸借」は宅建業に該当しませんので取引態様の明示は不要です。自ら貸借のひっかけには注意してください)。
  自ら当事者 媒介代理
売買交換 必要 必要
貸借 不要 必要

取引態様の明示とは、宅建業者自らが当事者として売買・交換を行うのか、代理や媒介によって売買・交換・貸借を行うのか、を購入者等に知らせておくことです。明示は書面によることなく、口頭で行うことができます。宅建業者が取引態様の明示を怠った場合、則はありませんが、監督処分として業務停止処分を受けることがあります。
広告関連の規制違反で罰則が科されるのは、下記でお伝えする「誇大広告等の禁止違反のみ」です。取引態様の明示義務違反や広告開始時期制限違反は宅建業法上の監督処分の対象となり得ますが、罰則が科されることはありませんので注意してください。割と出題されます。


誇大広告等の禁止

宅建業者は、契約を成立させるために購入者等へ事実と違ったことを伝えてはいけません(=大げさな広告)。誤認させる行為自体が違法で、購入者等に実際の被害が起きている必要はありません。この「事実」の対象となるのは次の8個についてです。

1.所在:物件の所在地は正確に!
2.規模:土地、建物の面積をあらわします(マンションでは1DKなども可)
3.形質:地目(田や畑など)や電気・ガスなどの供給施設、建物の構造や築年数など
4.利用の制限:建蔽率や容積率、地上権などの対象となっているか
5.環境:日照や静かさの状況、学校や公園などが近くにあるか
6.交通その他の利便:電車やバスなどの所在や、最寄り駅までの所要時間
7.代金や借賃等の対価の額および支払い方法
8.代金または交換差金に関する金銭の貸借のあっせん

4~6番については、将来的にどうなるかも伝える必要があります。

7番の対価の額とは、代金額や借賃額のほか、工事費や敷金・礼金・権利金などを指します。また、支払い方法とは、一括払いか割賦払いか、割賦払いの場合は頭金の額や支払回数・期間・利息なども伝えなければなりません。

8番の交換差金とは、物件と物件を交換する場合、一方の評価額が低いときにそれを補って同等の価額にするために支払われるお金のことをいいます。宅建業者は金銭をあっせんする場合、アド・オン方式のみを表示することはできません(実質金利を付記すれば可)。アド・オン方式の意味は重要ではありませんので、アド・オン方式という単語だけ覚えておいてください。

存在しない物件存在するが取引の対象となり得ない物件存在するが取引する意思がない物件も、広告をすることは宅建業法違反となります(おとり広告)。

インターネット広告も規制の対象となります。建物売買の広告をインターネットに掲載し、売買契約成立後も当該広告を掲載し続けた場合、当該広告について1件も問い合わせがなかったとしても、おとり広告として宅建業法違反となります。

宅建業者が免許を取り消された場合でも、締結した契約に基づく取引を終了するまでは、その目的の範囲内でなお宅建業者とみなされますが、広告についてこの規定は適用されません。免許取消前に広告を行っていれば…という問題は、全て宅建業法違反と思って大丈夫です。また、もちろん業務停止期間中に広告をすることはできません。

宅建業者がこれら誇大広告等の禁止に違反した場合、監督処分として業務停止処分罰則として6ヶ月以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられることがあります。とても厳しいと覚えておいてください。法人業者の代表者が誇大広告を行った場合、その代表者だけでなく、当該法人が罰金の刑に処せられることもあります。
違反行為 ・著しく事実に相違する表示
・実物より著しく優良、有利であると誤認させる表示
対象物件 所在、規模、形質
対象環境 現在+将来の利用制限、住居環境、交通その他の利便
対象金銭 代金や借賃等の対価の額、支払方法、あっせん
おとり広告 ・実際に存在しない物件
・存在するが取引対象となり得ない物件
・存在するが取引する意思がない物件
罰則 6ヶ月以下の懲役または100万円以下の罰金、もしくはその併科


広告開始時期の制限

宅建業者は、宅地の造成・建物の建築に関する工事の完了前は、当該工事に必要な許可・確認等が下りた後でなければ、広告をすることはできません(=開発許可や建築確認を受けた後であれば、工事完了前でも広告をすることができる)。「売買契約は建築確認後に締結する」等と明記して広告をすることも宅建業法違反となります(建築確認を受けた後、変更申請書を提出している期間においては、変更の確認を受ける予定であることを表示し、かつ、当初の確認内容を合わせて表示すれば、変更後の内容を広告することはできます)。

契約締結や広告開始前に必要な処分…開発許可建築確認宅地造成工事許可(完了検査まで必要ない点に注意)・都市計画事業地内における建築等の制限に係る許可・風致地区内における建築等の規制についての条例による処分などなど。令和4年法改正で追加された浸水被害防止区域における特定開発行為および特定建築行為の制限に係る許可はしばらく熱いかもしれません。また逆に、国土法の届出や建築協定の認可は対象外という点も押さえておいてください。

この広告開始時期の制限は、売買・交換・貸借に関係なくすべての取引態様が対象となりますが、未完成物件に対する契約締結時期の制限は、売買と交換のみが対象となり、貸借契約には規制がないということも覚えておいてください。つまり宅建業者は、宅地の造成・建物の建築に関する工事の完了前は「当該工事に必要な許可・確認等が下りた後でなければ、売買または交換契約をすることができない」が、「貸借契約締結の媒介は可能」となります。

宅建業者が自ら貸借する場合は宅建業に該当しませんので、広告開始も契約締結も自由です。このひっかけは、本当にさり気なくあちこちで出題されますのでご注意ください。

また、誇大広告と異なり、広告開始時期違反は指示処分だけ(業務停止処分もなし)で、罰則の適用もありません
  売買交換 貸借
広告 × ×
契約 ×

宅建合格!広告開始時期の制限
広告費

宅建業者は、法定額を超えて報酬を受領することができませんが、「依頼者に依頼された広告料金」(=特別の広告費)は報酬と別途受領することができます。これは頻出問題です。

難問対策としては、「契約が不成立に終わった場合、宅建業者は報酬を請求できないが、特別の広告費は受領することができる」という点を覚えておいてください。報酬=成功報酬で経費等も請求することはできませんが、契約が不成立に終わった場合でも特別の広告費は請求することができます。


近年の宅建本試験問題(皆さん直近の過去問は解く機会が多いと思いますので、古すぎず新しすぎない練習問題を1つ。言い回しなど、雰囲気をチェックしておきましょう)

宅建業者が行う広告に関する次の記述のうち、宅建業法の規定によれば、正しいものはどれか(2018-26)

1.宅地の売買に関する広告をインターネットで行った場合において、当該宅地の売買契約成立後に継続して広告を掲載していたとしても、当該広告の掲載を始めた時点で当該宅地に関する売買契約が成立していなかったときは、宅建業法第32条に規定する誇大広告等の禁止に違反しない。
2.販売する宅地又は建物の広告に著しく事実に相違する表示をした場合、監督処分の対象となるほか、6月以下の懲役及び100万円以下の罰金を併科されることがある。
3.建築基準法第6条第1項の確認を申請中の建物については、当該建物の売買の媒介に関する広告をしてはならないが、貸借の媒介に関する広告はすることができる。
4.宅建業者がその業務に関して広告をするときは、実際のものより著しく優良又は有利であると人を誤認させるような表示をしてはならないが、宅地又は建物に係る現在又は将来の利用の制限の一部を表示しないことによりそのような誤認をさせる場合は、宅建業法第32条に規定する誇大広告等の禁止に違反しない。

ひっかかるとしたら3番でしょうか…。建築確認申請中に売買も貸借も広告をすることはできません(広告は不可ですが、貸借であれば「契約締結」の媒介は可能です)。他の肢は説明する必要がないほど簡単ですね。宅建業法の罰則としてはトップクラスで出題される正しい肢の2番は要チェックです。


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