宅建試験の民法解説:『時効』の難問対策。取得時効と消滅時効について、それぞれの重要点や新規定となる協議による合意などを見ていきます。
- 取得時効と消滅時効の難問対策
時効という制度により、長期間継続した事実状態を尊重することによって法律関係の安定を図ります。これまで持っていなかった権利を時間の経過により取得することを「取得時効」、これまで存在した権利が時間の経過により消滅することを「消滅時効」といいます。
基本は簡単ですが、掘り下げると一気に難しくなります。重要ポイントは確実に押さえ、深入り注意で見ていきましょう!
■取得時効
・所有の意思をもって平穏かつ公然に占有する
・占有者が占有のはじめ善意無過失のときは10年、そうでないときは20年占有する
「所有の意思」=借主や預り主としての占有を含まない。
「平穏かつ公然」=荒っぽくなく、堂々と。
「10年」=他人の物であることを知らず、そのことについて落ち度がない。
「20年」=他人の物であることを知っていても、落ち度があって知らなくてもよい。
占有者に変更があった場合の善意無過失は最初の占有者の占有開始時点で判定します。善意無過失のAが占有開始 → 7年 → 悪意のBが占有承継 → 5年。Bは12年(=10年以上)の時効期間を主張して時効の完成を援用することができます(A保護のため)。Aが悪意でBが善意無過失だった場合、Bはまだ時効完成を主張することができません。
売主が善意無過失で買主も善意無過失 買主は通算10年で取得可能 売主が善意無過失で買主が悪意または有過失 同上 売主が悪意または有過失で買主が善意無過失 買主の10年または通算20年で取得可能 売主が悪意または有過失で買主も悪意または有過失 買主は通算20年で取得可能
・取得時効の対象となる権利は、所有権・地上権・永小作権・地役権・賃借権など(後述しますが、地役権は「継続かつ表現のもの」に限り時効取得できる)。時効取得ができないものとして、抵当権、留置権、先取特権を覚えておいてください。
・一筆の土地の一部についても時効取得ができる
■消滅時効
時間の経過により権利が消滅することを消滅時効といいますが、では、その時間の経過とはどこからを指すのでしょうか。消滅時効が試験に出るとしたら、この「消滅時効の起算点」です。
確定期限ある債権(○月○日に支払う)=期限到来時から
不確定期限ある債権(次に雨が降ったら支払う)=期限到来時から ← いつかは必ず起きる
期限の定めなき債権(支払時期を決めていない)=債権が成立したときから
停止条件付債権(転勤したら支払う)=条件成就のときから ← 必ず起きるとは限らない
解除条件付債権(○○しなかったら支払う)=債権成立のときから(条件成就未定の間でも時効は進行する)
債務不履行による損害賠償債権=本来の債権の履行を請求できるときから
不法行為債権=被害者または法定代理人が損害および加害者を知ったときから3年(または不法行為時から20年)
・債権の消滅時効期間は10年、債権者が権利を行使できることを知ったときから5年、権利行使可能時から10年(人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権は20年)
・債権以外の財産権(地上権、永小作権、地役権、抵当権)の消滅時効期間は20年
・確定判決によって確定した債権の消滅時効期間は、10年より短く定められていても10年であり、確定した時から改めて10年の時効が進行する
・所有権は(所有権に基づく物上請求権や登記請求権も)消滅時効にかからない
・占有権、留置権、先取特権は独自に消滅時効にかからない
・同時履行の抗弁権が付着している債権も、履行期到来から消滅時効が進行するいつ 期間 取得時効 占有開始時に 善意無過失=10年
悪意または有過失=20年
で取得消滅時効 確定期限=期限到来時から
不確定期限=期限到来時から
期限の定めなし=権利発生時から1.権利行使可能を知ったときから5年
2.権利行使可能時から10年(※)
のいずれか早い方で消滅
■時効の完成猶予と更新
時効の成立に必要な期間の進行を中断させることを「時効の完成猶予」、それまでの期間の経過をゼロにすることを「時効の更新」といいます。それまで進行した時効期間は、いっさい効力を失います。従来の「時効の中断」「時効の停止」が、改正民法によりイメージしやすい言葉となりました(時効の中断・停止はなくなりました)。
時効の完成猶予および更新事由として以下のものを覚えておいてください。
1.請求(裁判上のもの=訴えの提起、裁判外のもの=催告)
債権の給付を求める訴え、支払命令、和解のための呼び出し、破産手続参加など。裁判上の請求や支払督促等の事由が終了するまで、時効の完成は猶予されます。また、確定判決等を得ることなく手続きが終了した場合でも、手続き終了から6ヶ月を経過するまで時効の完成は猶予されることとなりました。訴えが却下されたり、取り下げられた場合には猶予されません。確定判決等が得られて権利が確定した場合、そのときから改めて新しい時効期間が始まります(=時効の更新)。
催告があったときは、そのときから6ヶ月を経過するまでの間は時効は完成しません。催告によって時効完成が猶予されている間にされた再度の催告は効果がありません。最初の催告から6ヶ月以内に裁判上の請求等を行う必要があります。(下記の「協議を行う旨の合意」も参照)
2.仮差押え・仮処分
仮差押えまたは仮処分の手続き終了時も、6ヶ月間は時効の完成が猶予されることとなりました。
3.承認
時効によって利益を受ける者が、時効によって権利を失う者に対して、その権利が存在することを知っている旨を表示すること。黙示でも構わない。一部弁済や利息の支払い、証文を書く、もう少し待ってほしいと口頭で申し入れる、など。承認には管理能力が必要で、同意なく未成年者・成年被後見人のした承認は取り消すことができる(被保佐人・被補助人のした承認は有効)。承認により、完成猶予を待たずに更新されます。
4.強制執行・担保権の実行・民事執行法に基づく競売(余裕があれば覚える)
プラス、取得時効の特有事由として、占有の喪失があります。任意に占有を中止した場合はもちろん、他人に占有を奪われた場合でも取得時効の完成は猶予されます。
時効が完成していたことを知らずに債務の承認等をしてしまった場合、時効を援用することはできなくなります。債務の存在を認めておきながら、「時効が完成していたならやっぱり払わな~い」などというのは虫がよすぎます。
尚、時効の完成猶予・更新については「時効の民法改正」ページでより詳しくまとめていますので、そちらもご参照ください。事由 効果 ①時効の完成猶予 催告 催告から6ヶ月は時効の完成が猶予される ②時効の更新 承認 承認したときから時効は更新する ③①②の両方に該当 裁判上の請求
支払督促
訴訟上の和解や調停など手続開始から終了まで完成猶予
権利確定から手続終了で更新
権利確定せず取下げや却下等があったときは6ヶ月猶予
■協議を行う旨の合意(新規定)
当事者が協議をしている最中なのに、時効の完成時期が近づき、その完成をさせないようにするには裁判上の請求を行う必要があるなんて面倒な話です。そこで、権利について協議を行う旨の合意が書面でされたときは、
1.合意から1年を経過したとき
2.合意により協議を行う期間を定めたときは、その協議期間を経過したとき(1年未満に限る)
3.当事者の一方から協議続行を拒絶する旨の書面による通知がされたときから6ヶ月を経過したとき
以上のいずれか早い時期が到来するまでの間は時効が完成しません。
協議を行う旨の合意による時効の完成猶予期間中にされた再度の合意は効力を有します(最長5年)。催告による時効の完成猶予期間中にされた協議を行う旨の合意は、完成猶予の効力を生じない点と比較しておいてください。
尚、協議を行う旨の合意書面も、協議続行を拒絶する旨の書面も、電磁的記録で構いません。
■時効の放棄と時効の援用
時効を主張することは義務ではなく、本人の自由に任されます。時効を主張しないことを「時効の利益の放棄」といい、時効を主張することを「時効の援用」といいます。以下、出題ポイントです。
・時効の完成前に、時効の利益を放棄することはできない!これを認めると、悪徳金融業者の暴利行為が始まります。逆に、時効完成後は時効利益の放棄も認められるということです。
・時効の援用は本人だけでなく、保証人・連帯保証人、物上保証人、抵当不動産の第三取得者、詐害行為の受益者もすることができる!後順位の抵当権者は援用できないという点に注意です。また、少し深追いしますと、A所有の土地に建つ家屋をCが賃借し、その土地についてBの取得時効が完成した場合、Bが時効の援用をしてくれない限りCは不法占拠者となってしまいますが、この場合のCは時効を援用することができません。Cは土地そのものについて利益を有しているわけではありません。家屋賃借人は、土地についての時効の援用権者に該当しないということを頭の片隅に入れておいてください。
・裁判所は、当事者が援用しないのに時効を前提として裁判をしてはならない!
・時効が完成すると、時効の効果は、その起算日に遡って効力を発する!
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