不動産管理制度

宅建試験の民法解説:令和5年の宅建試験より出題範囲に加わった「不動産管理制度」を見ていきます。宅建試験で出題可能性が高そうな新設規定ですのでしっかりチェックしておきましょう。

不動産管理制度

旧法下での財産管理制度から、土地建物の管理にピンポイントで特化した「所有者不明土地(建物)管理制度」「管理不全土地(建物)管理制度」という2つの制度が新設されました。

宅建試験でビシバシ出題されそうな熱い新設規定です。


不在者とは

不在者=住所または居所を去った者。従来の住所または居所から何らかの原因で離脱し、容易に復帰できないことまで必要とされます。

不在者は財産の管理を十分に行えない場合が多く、また管理人に対する十分な監督行為が期待できない場合も多いため、民法において不在者財産管理制度が設けられました。利害関係人(不在者の親族など)または検察官の請求により、家庭裁判所の監督の下で不在者財産管理人による不在者の財産の保護が図られます。

不在者の生死が7年間明らかでない場合など一定の法律要件を満たす場合、利害関係人は失踪宣告制度を利用することにより、不在者が関係する法律関係を清算することができます。こちらの請求者には検察官が含まれていない点に注意しておきましょう。


所有者不明土地(建物)管理制度

土地や建物の所有者が不明で適正な管理がなされていない場合、所有者に代わる者による管理が求められます。

そこで、所有者不明土地および所有者不明建物に関する管理命令制度が新設されました。調査を尽くしても所有者やその所在を知ることができない土地・建物について、利害関係人が地方裁判所に申し立てることによって、その土地・建物の管理を行う管理人を選任してもらうことができるようになります。

所有者を知ることができず(所有者不明)、またはその所在を知ることができない(所有者の所在不明)土地や建物について、所有者不明土地管理人・所有者不明建物管理人(不在者財産管理人)による管理を命じるということです。

土地や建物を管理をする権限が管理人に与えられ、管理人は、危険や弊害を取り除く措置を講じることができるようになります。

1.管理対象
所有者不明土地(建物)当該土地(建物)にある所有者の動産管理人が得た金銭等の財産(売却代金等)、建物の場合はその敷地利用権(借地権等)

2.申立権者
所有者不明土地・建物の管理についての利害関係を有する者動産所在地の地方裁判所に申立てる(地方公共団体の長等に申立権を付与する特例あり)。ベタですが、宅建試験が好きなパターンとして「申立人の住所地を管轄する地方裁判所」などと出題されたら誤りです。

以下、出題ポイントです。

・利害関係人及び地方公共団体の長等が、当該不動産所在地を管轄する地方裁判所へ申立てることにより行われ、不動産登記簿に管理人が選任された旨の嘱託登記(※)がなされる

・管理処分権は管理人に専属し、所有者不明土地・建物等に関する訴訟において、管理人が原告または被告となる

・管理人は、保存・利用・改良行為を行うほか、裁判所の許可を得ることでこれを超える行為(売却や建物取壊しなど)をすることもできる(所有者の同意不要)!

・管理命令の効力は、土地(建物)にある所有者の動産、管理人が得た金銭等の財産(売却代金等)、建物の場合はその敷地利用権(借地権等)にも及ぶ!

(※)よく専門用語の意味が気になりご質問される方がいらっしゃいますが、そこが出題されるのであれば、または理解しておく必要があるのならば解説しています。「嘱託登記って何だろう?」と悩む必要はありませんので、「嘱託登記がなされる」「嘱託登記は不要」とだけ覚えておいてください。それが宅建合格への近道となります!ちなみに嘱託登記(しょくたくとうき)=官公署(官庁・公署)が申請することで行われる登記となります。


管理不全土地(建物)管理制度

所有者が不明ではないものの、土地や建物について適正な管理がなされず他人の権利・法律上の利益が侵害されている場合にも、第三者によって管理不全土地管理人管理不全建物管理人による管理を命ずることができます。

管理人が選任されると、管理人に土地や建物の管理をする権限が認められます。

1.管理対象
管理不全土地(建物)当該土地(建物)にある所有者の動産管理人が得た金銭等の財産(売却代金等)、建物の場合はその敷地利用権(借地権等)・・所有者不明不動産と同じですね。

2.申立権者
管理不全土地・建物の管理について利害関係を有する者が不動産所在地の地方裁判所に申立てます。

以下、出題ポイントです。

・利害関係人及び地方公共団体の長等が、当該不動産所在地を管轄する地方裁判所へ申立てることにより行われる(管理人が選任された旨の嘱託登記不要)!

管理人は訴訟の当事者とならない

・管理不全土地上に管理不全建物があり、土地と建物の両方を管理命令の対象とするためには、土地管理命令と建物管理命令の双方を申し立てる必要がある

・管理人は、保存・利用・改良行為を行うほか、裁判所の許可+所有者の同意を得ることでこれを超える行為をすることもできる(動産の処分に所有者の同意は不要)!

・管理命令の効力は、土地(建物)にある所有者の動産、管理人が得た金銭等の財産(売却代金等)、建物の場合はその敷地利用権(借地権等)にも及ぶ!


どちらの管理制度にも共通する義務として、管理人は所有者に対して善管注意義務を負い、
管理対象が共有持分だった場合には共有者全員に対して誠実公平義務を負い、
不動産を売却して金銭が生じたときはその金銭を供託し、その旨を公告する義務を負います。

またどちらも、区分所有建物(マンション)の専有部分や共用部分には適用されません
  所有者不明不動産 管理不全不動産
嘱託登記 ×
裁判の当事者 ×
裁判所の許可
所有者の同意 ×
区分所有建物 × ×

令和5年本試験では新設一発目ということで不在者の定義から出題されました(正解肢は管理内容)が、今後は管理制度の中身がメインとなるはずです。所有者不明不動産と管理不全不動産をしっかり比較して押さえておきましょう!


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共有 抵当権の基本
【宅建試験問題 令和5年ー問5】従来の住所又は居所を去った者(以下この問において「不在者」という。)の財産の管理に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。なお、この問において「管理人」とは、不在者の財産の管理人をいうものとする。

1.不在者が管理人を置かなかったときは、当該不在者の生死が7年間明らかでない場合に限り、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。
2.不在者が管理人を置いた場合において、その不在者の生死が明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官から請求があったとしても管理人を改任することはできない。
3.家庭裁判所により選任された管理人は、不在者を被告とする建物収去土地明渡請求を認容した第一審判決に対して控訴を提起するには、家庭裁判所の許可が必要である。
4.家庭裁判所により選任された管理人は、保存行為として不在者の自宅を修理することができるほか、家庭裁判所の許可を得てこれを売却することができる。
1 誤:不在者が管理人を置かなかった場合、家庭裁判所は、利害関係人または検察官の請求により財産の管理について必要な処分を命ずることができるが、当該不在者の生死が7年間明らかでない場合のみとは限らない。
2 誤:不在者が財産管理人を置かなかった場合、財産管理人の権限が消滅していた場合、不在者の生死が明らかでない場合、家庭裁判所は、利害関係人または検察官から請求により管理人を改任することができる。
3 誤:不在者財産管理人は、不在者財産について保存行為や利用改良行為(軽微変更含む)をすることができ、「建物収去土地明渡請求を認容した第一審判決に対して控訴を提起」=保存行為は裁判所の許可を得ることなく可能。
4 正:不在者財産管理人は、保存・利用・改良行為を行うほか、裁判所の許可を得ることでこれを超える行為(売却や建物取壊しなど)をすることもできる(所有者の同意不要)。