宅建業法の完全解説:最終回「住宅瑕疵担保履行法」について解説します。同じような問題ばかりが出題されている得点源です。
- 住宅瑕疵担保履行法の完全解説
■住宅瑕疵担保履行法とは
「新築住宅購入者」を保護するため、確実に瑕疵の担保を履行してもらうための法律で、正式名称を「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律」といい、次の二つを大きな柱としています。
1.新築住宅において、住宅事業者(=宅建業者、建設業者)が瑕疵担保責任を履行するために住宅事業者に対して資力の確保を義務付ける
2.保険契約を締結した新築住宅に係る紛争処理体制の整備
簡単に言うと、保証金を供託するか、保証契約(保険)を締結するかという話です。
10年ほど前、社会情勢の変化や構造計算書偽装問題等により瑕疵担保責任を負えない売主が激増し、その結果、賠償請求する相手がいなくなり、住宅取得者が自らの負担で修繕業者を探すという事態が激増しました。そこで、あらかじめ資金を確保しておく「住宅瑕疵担保履行法」が制定され、「瑕疵担保責任」の規定自体が根本から形骸化することを防ぐこととしました。平成22年度宅建試験から登場した比較的新しい法律です。
■住宅瑕疵担保責任の対象
対象者:住宅事業者(=宅建業者、建設業者、信託会社等で宅建業を営むもの)
不動産屋や施工会社ですね。以下、住宅事業者=宅建業者とさせていただきます。
対象物:新築住宅(=建設完了から1年を経過していない+居住者がいない← 両方必要)賃貸住宅もOK!
新築後1年以上売れ残った住宅、中古住宅、事務所は対象となりませんので注意。
対象部分:基本構造部分の瑕疵(構造耐力上主要な部分+雨水の侵入を防止する部分)
対象取引:宅建業者が自ら売主となり、非宅建業者(この宅建業者はまさに宅建業者で、建設業者を含みません)が買主となる取引。賃貸の媒介は対象となりませんので注意!
例題1:宅建業者Aが、宅建業者Bの新築住宅の販売の代理や媒介を行う場合、A及びB共に住宅瑕疵担保履行法に基づく資力確保措置を講ずる義務がある。→ 誤り:資力確保措置義務が必要なのは、売主である宅建業者Bのみです。
例題2:宅建業者は、自ら売主として建設業者である買主との間で新築住宅の売買契約を締結し、当該住宅を引き渡す場合、資力確保措置を講ずる必要はない。→ 誤り:買主も宅建業者である場合に資力確保措置を講ずる必要はありませんが、買主が建設業者である場合は、原則通り資力確保措置を講ずる義務を負います。1年以内で未使用 新築住宅 1年以内で使用済み 新築住宅ではない 1年超で未使用 新築住宅ではない
■住宅瑕疵担保責任の方法
宅建業者は、自ら売主となり新築住宅を引き渡したら、瑕疵等が見つからなくてもあらかじめ保証金を供託or保険契約という以下2種類の方法のどちらかを行わなければなりません。もしも住宅に瑕疵が見つかったにも関わらず宅建業者が倒産していた場合、買主は、宅建業者に対して瑕疵修補請求等を行う代わりに供託所に還付請求、保険法人に保険金請求を行うことができるという仕組みです。
供託:過去10年間の新築住宅の供給戸数に応じて算出した額(1戸目2,000万円。保険契約の対象となった戸数を除く)を、主たる事務所の最寄りの供託所に保証金として供託します(超過額が生じた場合は、免許権者の承認を得て取戻すこと可能)。供託をした場合はその旨の届出が必要であり、届出先は免許権者です。また供託および届出の時期は基準日(毎年3月31日と9月30日)から3週間以内であり、供託の届出がない場合は、基準日の翌日から起算して50日を経過した日以降、新たに新築住宅の売買契約をすることができなくなります。ここは全文章が出題ポイントです。供託方法(有価証券の評価額)、保管替え(金銭だけのときOK)、追加供託(2週間)などは営業保証金と同じですが、下記の「説明」は異なりますので注意しておいてください。供託額 基準日前10年間に引き渡した新築住宅の戸数に応じて計算した額
(床面積55㎡以下の新築住宅の合計戸数=2戸をもって1戸)供託方法 金銭または有価証券 どこへ? 主たる事務所の最寄りの供託所
保険契約:国土交通大臣が指定した保険法人と「有効期間を引渡しから10年以上」とする保険契約を締結します。保険契約は上記基準日までに行えばよいのですが、保険の申込みは工事開始時までに申し込んでおく必要があります。保険料(2,000万円以上)は宅建業者が支払う必要があり、住宅取得者が支払うというひっかけ問題がよく出題されるので注意してください。届出に関する問題は上記供託と同様です。保険の種類 宅建業者が保険料を支払い、瑕疵担保責任の履行で生じた損害等を填補する保険 保険金額 2,000万円以上 有効期間 新築住宅引渡時から10年以上 どこへ? 国土交通大臣の指定を受けた保険法人
住宅全てについて供託、全てについて保険契約はもちろん、一部を供託で残りを保険契約という併用も可能です。
取得する新築住宅が、供託と保険どちらの資力措置がとられるかを35条の重要事項の説明及び37条書面に基づく書面の交付により買主に知らせる必要があります。35条の説明ということは、つまり「契約成立前に書面(電子交付可能)で説明を要する」ということです。
これにプラスして、
⇒ 供託の場合、売買契約を締結までに供託所の名称、所在地等について書面を交付(買主や発注者の承諾を得て電子交付可能)して説明(宅建士である必要なし)することを要します。
⇒ 保険の場合、保険証券またはこれに代わる書面(電子交付可能※)を交付し、説明義務はありません(保険契約の締結が完了していない場合、当該保険契約を締結する予定及び見込みの内容の概要については説明必要)。
※供託書面と違い、保険証券またはこれに代わる書面を電子交付する場合の「承諾」に触れた規定がないのですが、令和5年宅建試験で承諾を得て電子交付可能という趣旨の問題が出題されました。承諾は必要と覚えておいてください。
宅建業者が倒産等により瑕疵担保責任を負うことができなくなった場合、
⇒ 供託の場合、住宅取得者は、供託所に還付請求をすることで必要金額を還付してもらう
⇒ 保険の場合、住宅取得者は、保険法人に直接保険金を請求することができる
■住宅瑕疵担保責任を負う期間
引渡しから10年(10年より短い期間を定めた特約は無効)
20年まで伸長可能ですが、供託や保険契約の適用はありません。
やらしいひっかけ問題となりますが、住宅の瑕疵が民法上の「種類・品質に関する契約不適合責任」に該当する場合は「買主は契約不適合を知ったときから1年以内に通知すれば売主に履行追完請求等の責任追及をすることができる」点と混同しないようご注意ください。
■住宅瑕疵担保責任の内容
無過失責任
宅建業者による売買契約においては隠れたる瑕疵のみ
買主が、住宅の構造耐力上主要な部分に隠れた瑕疵を見つけた場合、契約解除(契約をした目的を達成できない場合)、損害賠償請求、瑕疵修補請求をすることができます。もちろん、買主に不利な特約は無効となります。
■保険契約締結時の紛争処理体制の整備
宅建業者と住宅取得者との間で紛争が生じ、「保険契約」を選択していた場合、指定住宅紛争処理機関(弁護士会)による紛争処理手続きを利用することができ、また住宅紛争処理支援センターへ相談し、助言を受けることができます。供託により資力確保措置を行った場合は利用できませんので注意してください。
保険契約により資力確保措置を行った当事者のどちらか一方であれば、指定住宅紛争処理機関を利用することができます(=宅建業者、建築業者、住宅取得者、住宅取得者の相続人)。住宅取得者の相続人は利用できますが、転得者は利用できません。
■監督処分
宅建業者が住宅瑕疵担保履行法の規定に違反し資力確保措置を行わない場合、指示処分または業務停止処分の対象となります。指示処分に従わないときは業務停止処分、業務停止処分事由に該当し情状が特に重いとき及び業務停止処分に違反したときは免許取消処分となります。
宅建業者が業務を行っている場所の知事も、指示処分と業務停止処分は行うことができるのが原則でしたが、住宅瑕疵担保履行法における処分権者は「監督権を有する者」(=免許権者である知事や国土交通大臣)となりますので、難問対策として少しだけ注意しておいてください。
・住宅販売瑕疵担保保証金の供託等の届出を怠った → 指示処分
・住宅販売瑕疵担保保証金について不適正または虚偽の届出をした → 指示処分
・契約締結までに住宅販売瑕疵担保保証金の供託説明を行わなかった → 指示処分
・契約締結制限があるのに新たに自ら売主となる売買契約を締結した → 業務停止処分
・平成21年10月1日以降、直近の基準日までの保証金を供託していない → 業務停止処分
・還付による不足額を供託していない → 業務停止処分対象住宅 新築住宅(建設工事完了日から1年以内で、かつ、人の居住の用に供したことのないもの) 対象範囲 構造耐力上主要な部分(壁や柱など)+雨水の侵入を防止する部分(屋根や開口部の戸など) 届出 年1回の基準日(3/31)ごとに、
当該基準日にかかる保証金の供託および保険契約の締結状況について、
基準日から3週間以内に免許権者に届け出る告知義務 買主に対して書面を交付して資力確保措置について告知する
瑕疵担保責任の履行に関する措置の概要は35条書面・37条書面の記載事項でもある違反行為 ・資力確保措置を講じていない場合や届出を怠った場合
→ 基準日の翌日から50日を経過した日以降、新たに売買・請負契約を締結できない
→ これに違反すると監督処分+1年以下の懲役または100万円以下の罰金(or 併科)
・供託や状況報告の届出を怠った場合や虚偽の届出をした場合
→ 50万円以下の罰金
■近年の宅建本試験問題(皆さん直近の過去問は解く機会が多いと思いますので、古すぎず新しすぎない練習問題を1つ。言い回しなど、雰囲気をチェックしておきましょう)
特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律に基づく住宅販売瑕疵担保保証金の供託又は住宅販売瑕疵担保責任保険契約の締結に関する次の記述のうち、正しいものはどれか(2018-45)
1.宅建業者は、自ら売主として新築住宅を販売する場合及び新築住宅の売買の媒介をする場合において、住宅販売瑕疵担保保証金の供託又は住宅販売瑕疵担保責任保険契約の締結を行う義務を負う。
2.自ら売主として新築住宅を宅建業者でない買主に引き渡した宅建業者は、その住宅を引き渡した日から3週間以内に、住宅販売瑕疵担保保証金の供託又は住宅販売瑕疵担保責任保険契約の締結の状況について、宅建業の免許を受けた国土交通大臣又は都道府県知事に届け出なければならない。
3.自ら売主として新築住宅を宅建業者でない買主に引き渡した宅建業者は、基準日に係る住宅販売瑕疵担保保証金の供託及び住宅販売瑕疵担保責任保険契約の締結の状況について届出をしなければ、当該基準日の翌日から起算して50日を経過した日以後においては、新たに自ら売主となる新築住宅の売買契約を締結することができない。
4.住宅販売瑕疵担保責任保険契約を締結している宅建業者は、当該住宅を引き渡した時から10年間、住宅の構造耐力上主要な部分の瑕疵によって生じた損害についてのみ保険金を請求することができる。
1:自ら売主として新築住宅を販売する場合は資力確保措置が必要ですが、新築住宅の売買の媒介をする場合に資力確保措置は不要です。
2:住宅の引渡しから3週間以内ではなく、基準日から3週間以内に届け出ます。
4:住宅の構造耐力上主要な部分+雨水の侵入を防止する部分の瑕疵によって生じた損害について保険金を請求することができます。
よって、条文通りの3番が正しく正解肢となります。「基準日翌日から起算して50日を経過した日以後」です。基準日から50日、基準日から1ヶ月、基準日から3週間、基準日以後は・・起算日と日数を少し変えるだけで、ほぼ毎年のように出題されています。
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