弁済業務保証金分担金の完全解説

宅建業法の完全解説:宅建業者が保証協会の社員となるために納付する「弁済業務保証金分担金」について解説します。

弁済業務保証金分担金の完全解説

弁済業務保証金とは、営業保証金と同じく、一般消費者に損害を与えないように供託しておく保証金です。弁済業務保証金制度は「保証協会に加入している宅建業者」(=社員)にのみ適用される制度で、宅建業者が弁済業務保証金分担金を保証協会に納付し、保証協会が弁済業務保証金を供託するという二段階構成となります。

保証協会への加入は義務ではなく、宅建業者は宅建業を行うにあたり、営業保証金を供託するか保証協会へ加入するか選択することになります。前回お伝えした営業保証金との違いに注意しながら押さえていきましょう。ここも間違える要素はありません!


弁済業務保証金の供託

営業保証金は宅建業者が直接供託所へ供託するのに対し、弁済業務保証金は「保証協会の社員である宅建業者」が「保証協会へ弁済業務保証金分担金を納付」し、「保証協会」が「弁済業務保証金を供託所へ供託する」、という形式をとります。

1.弁済業務保証金分担金納付義務者

弁済業務保証金分担金を納付する者は保証協会の社員になろうとする宅建業者です。

2.弁済業務保証金供託義務者

納付された弁済業務保証金分担金を弁済業務保証金として供託する者は保証協会です。繰り返しになりますが、営業保証金は宅建業者が供託して免許権者に届け出ますが、弁済業務保証金は宅建業者より納付された弁済業務保証金分担金を保証協会が供託して免許権者に届け出ます。少し紛らわしいので注意。

3.弁済業務保証金分担金納付先

弁済業務保証金分担金の納付先は保証協会です。

4.弁済業務保証金供託場所

供託先は法務大臣および国土交通大臣の定める供託所です(社員になる宅建業者の主たる事務所の最寄りの供託所ではありません)。

5.納付額および供託金の額

弁済業務保証金分担金の額は「主たる事務所で60万円」「従たる事務所で30万円」です。営業保証金と比べてすごく安いですね。宅建業者が保証協会の社員となるメリットです。

6.弁済業務保証金分担金納付期限

弁済業務保証金分担金の納付期限は「保証協会に加入しようとする日まで」です。営業保証金は供託して届け出なければ宅建業を開始できないだけで、特に期限はなかった点と比較(免許から3ヵ月で催告されます)。

7.弁済業務保証金供託期限

供託期限は「社員から分担金の納付を受けた日から1週間以内」です。

8.事務所の新設

保証協会の社員である宅建業者が弁済業務保証金分担金納付後に新たに事務所を設置した場合、新設した事務所1つにつき30万円ずつ、設置した日から2週間以内に保証協会に弁済業務保証金分担金を納付ます。この期間内に弁済業務保証金分担金を納付しなかった宅建業者は業務停止処分を受け、保証協会の社員としての地位も失ってしまいます。そして保証協会は、弁済業務保証金分担金の納付があった日から1週間以内にその額を供託します。こちらも、営業保証金は供託して届けなければ宅建業を開始できないだけで、特に期限はありませんでしたね。

9.弁済業務保証金分担金納付方法

弁済業務保証金分担金は必ず金銭で納付しなければなりません。

10.弁済業務保証金供託方法

営業保証金と同じく、金銭や国債証券、地方債証券などで供託可能です。その評価額も同様です。「弁済業務保証金分担金」は必ず金銭で、「弁済業務保証金」は有価証券も可能です。必ず覚えておいてください。

  誰が誰に 金銭 有価証券
営業保証金 宅建業者が供託所に供託
弁済業務保証金分担金 宅建業者が保証協会に納付 ×
弁済業務保証金 保証協会が供託所に供託


弁済業務保証金の還付

還付請求権者は、保証協会の認証を受け、供託所に対して還付請求を行います。知事の認証、保証協会に対して還付請求を行うといったひっかけ問題がよく出題されますので注意。

1.還付を受けられる者

営業保証金の場合と同じく、宅建業者と取引をし、その宅建業に関する取引について生じた債権を有する者(宅建業者を除く)に限られます。しかし、弁済業務保証金特有の問題として次の2点を覚えておいてください。

・宅建業者が保証協会の社員となる前に取引をした者も、弁済業務保証金から還付を受けることができる!(弁済業務の円滑な運営に支障があると認めるときは、当該社員に対して担保の提供を求めることができる)

・弁済業務保証金の還付を受けるには、保証協会の認証(権利があることの証明)を受けなければならない

2.還付を受けられる額

還付額は「その社員が社員でないとした場合に供託すべき営業保証金に相当する額の範囲」、つまり、「営業保証金の範囲内」です。例えば、本店と2つの支店を有する宅建業者が保証協会に納付する分担金は60+30×2で120万円ですが、還付額は営業保証金に相当する1,000+500×2で2,000万円の範囲内で還付可能ということです。

3.弁済業務保証金の不足(還付後)

弁済業務保証金が還付され、供託すべき弁済業務保証金額に不足が生じた場合、保証協会は、国土交通大臣より還付があった旨の通知を受けた日から2週間以内に、還付された額に相当する弁済業務保証金を新たに供託しなければなりません。そして宅建業者(社員)は、保証協会より不足の通知を受けた日から2週間以内に、還付された額に相当する弁済業務保証金分担金を「還付充当金」として保証協会に納付する必要があります。

社員が還付充当金を供託所に供託するなどめちゃくちゃなひっかけ問題が出題されますので、「誰」が「いつまで」に「何」をするのか正確に覚えておいてください。

保証協会の通知より2週間以内に還付充当金を納付しない宅建業者は、保証協会の社員としての地位を失います。社員の地位を失っても宅建業を続けていくには、社員の地位を失った日から1週間以内に「営業保証金」を供託し、免許権者に届け出なければなりません。これを怠ると業務停止処分を受けます(情状が特に重ければ免許取消処分)。

以下、難問対策となりますが、保証協会は還付充当金が納付されない場合に備えて、社員に対し、特別弁済業務保証金分担金を納付するよう通知することができます。この通知を受けた社員は、通知から1ヶ月以内に納付する必要があり、期間内に納付しない場合は社員としての地位を失います。また保証協会は、弁済業務保証金から生ずる利息や配当金等を弁済業務保証金準備金に繰り入れなければなりません。

宅建合格!弁済業務保証金の還付

弁済業務保証金の取戻し

弁済業務保証金を供託しておく必要がなくなった場合、「保証協会」は、供託所から弁済業務保証金を取り戻すことができ、そして保証協会は、宅建業者に弁済業務保証金分担金に相当する取戻し額を返還します。以下、2つだけ弁済業務保証金を取り戻せるケースです。

・ 宅建業者が社員でなくなったとき
・ 事務所の一部を廃止し、分担金額が法定の額を超えたとき

宅建業者が社員でなくなった場合は、保証協会は債権者に対して6ヶ月を下らない一定期間内に、保証協会の認証を受けるための申出をするよう公告をしなければなりません。事務所の一部廃止は公告不要ですぐに取り戻せます。営業保証金が公告なしで取り戻せるケースが3つあったのに対して、弁済業務保証金を公告なしで取り戻せるのは「事務所の一部廃止」の1つだけを覚えておいてください。尚、複数の債権者から認証の申出があった場合は、証申出書の受理順に認証処理が行われますので頭の片隅に。

例題:一部の事務所を廃止した場合、宅建業者は公告をすることなく供託所から弁済業務保証金分担金を取戻すことができる。
→ 事務所の一部廃止は公告不要だったはず…正しい肢だ!とはなりません。弁済業務保証金は、保証協会が供託所から取戻し、保証協会から弁済業務保証金分担金が宅建業者へ返還されます。営業保証金と異なり、宅建業者が直接取り戻すことはできません。宅建業法の本試験問題はこのように裏をかいて出題されますので、正しい記述に飛びつかず、どこか誤っている箇所がないかを見つけられる判断力、応用力を身につけてください

例題:宅建業者が保証協会の社員たる地位を失った場合、宅建業者は、還付請求権者に対して一定期間内に保証協会の認証を受けるため申し出るべき旨の公告をしなければならない。
→ 社員でなくなったときは公告が必要だったはず…正しい肢だ!とはなりません。公告を行うのは宅建業者ではなく保証協会です。細かいようですが、宅建業法はこのような出題ばかりです(法令制限や税その他のひっかけはシンプルですが)。重要事項を押さえた上で、どれだけひっかけに対応できるかが宅建合格へのポイントとなります。また、社員がその地位を失った場合、保証協会は、ただちに免許権者に報告しなければなりません。

なかなかの難問対策となりますが、保証協会が社員である宅建業者に対して債権を有し、当該宅建業者が社員の地位を失った場合、保証協会は取戻した弁済業務保証金分担金相当額から弁済を受け、その後で宅建業者に弁済業務保証金分担金を返還することができます(不足する場合、弁済が完了するまで弁済業務保証金分担金を返還する必要なし)。
  公告 注意点
社員でなくなった 必要 公告を行うのは保証協会
事務所の一部廃止 不要 営業保証金の事務所一部廃止は公告が必要な点と区別
前ページ営業保証金の取戻しも考え方は同じですが、社員でなくなった(=廃業や免許取消処分)場合は還付請求をする者が多いだろうから公告を行い、事務所を廃止(=宅建業は継続)するくらいならまだ余裕があり公告不要ということですね。納得して覚えましょう。


☆間違えやすい数字まとめ☆
営業保証金よりも多くの期間関連が出てきましたね。まとめておきましょう。

・宅建業者は「保証協会に加入しようとする日まで」に弁済業務保証金分担金を納付し、保証協会は納付から「1週間以内」に供託して免許権者に届け出る

・事務所を新設した場合、宅建業者は設置日から「2週間以内」に弁済業務保証金分担金を納付し、保証協会は納付から「1週間以内」に供託して免許権者に届け出る

・弁済業務保証金が還付により不足した場合、保証協会は国土交通大臣より還付があった旨の通知を受けた日から「2週間以内」に弁済業務保証金を供託する。→ 宅建業者は証協会により不足している旨の通知を受けた日から「2週間以内」に弁済業務保証金分担金(還付充当金)を納付する。→ 保証協会からの通知より「2週間以内」に還付充当金を納付しない宅建業者は社員の地位を失い、社員の地位を失った日から「1週間以内」に営業保証金を供託して免許権者に届け出なければ、宅建業を続けることができない。

・宅建業者が社員の地位を失った場合、保証協会は「ただちに」免許権者に報告する。


保証協会

保証協会とは、正式名称を宅地建物取引業保証協会といい、国土交通大臣が指定した一般社団法人で、宅建業者のみを社員とする団体となります。一つの保証協会の社員は、重ねて他の保証協会の社員となることはできません。一度社員の地位を失った宅建業者は、今後社員となることはできなくなります。

宅建業者が社員となった場合、保証協会は、直ちに、その旨を免許を受けた国土交通大臣または都道府県知事に報告しなければなりません(社員がその地位を失った場合も同様。宅建業者が報告するというひっかけに注意)

必要的業務弁済業務(宅建業者が社員となる前に宅建業に関して取引をした者も含む。対象が宅建業者の場合を除く)、苦情の解決研修
任意的業務:一般保証業務、宅建業の健全な発達に必要な業務、手付金等保管事業宅建士等に対する研修実施に要する費用の助成

研修費用の助成を除く任意的業務は、国土交通大臣の承認を受ける必要があります(※)

(※)平成29年の法改正により「宅地建物取引業者を直接または間接の社員とする一般社団法人は、宅地建物取引士等(=宅地建物取引士その他宅地建物取引業の業務に従事し又は従事しようとする者)がその職務に関し必要な知識及び能力を効果的かつ効率的に習得できるよう、法令、金融その他の多様な分野に係る体系的な研修を実施するよう努めなければならない」(努力義務)という規定が新設されました。

これに伴い、保証協会は「全国の宅建業者を直接または間接の社員とする一般社団法人による宅建士等に対する研修の実施に要する費用の助成」を行うことができることになり、従来からあった国土交通大臣の承認を必要とする他の任意的業務とは毛色が異なる扱いとして認識していましたが、深く考えず任意的業務ということで一緒くたに「研修費用の助成も承認が必要」としているテキストもあります。グレーな箇所として一切触れていないテキストも多々あります。条文を読む限り助成について承認が必要と言い切れないと思うのですが、もしも出題された場合は、念のため他の肢との兼ね合いで正解を導き出してください。
  業務内容 要件
必要的業務 ・弁済業務
・苦情の解決
・宅建士等の研修
必ず行う
任意的業務 ・一般保証業務
・宅建業の健全な発達に必要な業務
・手付金等保管事業
・宅建士等に対する研修実施に要する費用の助成
4つめの助成を除き、
あらかじめ国土交通大臣の承認が必要
(上記参照)

社員は、自らが取り扱った宅建業に係る取引の相手方から当該取引に関する苦情について、保証協会に対して解決の申出があり、保証協会から説明や資料の提出を求められたときは、正当な理由がある場合でなければこれを拒むことができません。保証協会は社員に対して文書または口頭による説明を求めることができ、その結果等を社員に周知させる必要があります。

また保証協会は、還付による不足額を補うため、社員から特別弁済業務保証金分担金を受けることもできます。難問レベルですが、普段から積み立てはできず、不足額を補うためだけに納付を受けるということは頭の片隅にいれておいて損はないかもしれません。

更に難問レベルですが、社員が社員となる前にした宅建業に関する取引で生じた債務について、「弁済業務の円滑な運営に支障を生ずるおそれがあるとき」は、当該社員に対して担保の提供を求めることもできます。
試験には出ないと思いますが・・保証協会は2種類しか存在しません。「公益社団法人不動産保証協会」と「公益社団法人全国宅地建物取引業保証協会」の2団体です。一つの保証協会の社員は、重ねて他の保証協会の社員となることはできませんが、この「他の」とはもう片方のみを指します。


近年の宅建本試験問題(皆さん直近の過去問は解く機会が多いと思いますので、古すぎず新しすぎない練習問題を1つ。言い回しなど、雰囲気をチェックしておきましょう)

宅地建物取引業保証協会(以下この問において「保証協会」という。)の社員である宅建業者Aに関する次の記述のうち、宅建業法の規定によれば、正しいものはどれか(2018-44)

1.宅建業者Aは、保証協会の社員の地位を失った場合、Aとの宅地建物取引業に関する取引により生じた債権に関し権利を有する者に対し、6月以内に申し出るべき旨の公告をしなければならない。
2.保証協会は、宅建業者Aの取引の相手方から宅地建物取引業に係る取引に関する苦情を受けた場合は、Aに対し、文書又は口頭による説明を求めることができる。
3.宅建業者Aは、保証協会の社員の地位を失った場合において、保証協会に弁済業務保証金分担金として150万円の納付をしていたときは、全ての事務所で営業を継続するためには、1週間以内に主たる事務所の最寄りの供託所に営業保証金として1,500万円を供託しなければならない。
4.宅建業者Aは、その一部の事務所を廃止したときは、保証協会が弁済業務保証金の還付請求権者に対し、一定期間内に申し出るべき旨の公告をした後でなければ、弁済業務保証金分担金の返還を受けることができない。

1番は上の例題と同じで、公告を行うのは保証協会です。3番は弁済業務保証金分担金が150万円ということは本店+支店3なので、1,000万円+500万×3で2,500万円の営業保証金を供託する必要があります。事務所の一部廃止は公告不要という4番は4秒で解けますね。正解はちょっとマイナー問題の2番となります。常識的にも、消去法でも、どちらでも簡単ですね!


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