相殺(難問対策版) 重要度 ★★★☆☆


今回は『相殺(そうさい)』についてお話いたします。

相殺とは、債権者と債務者が相互に同種の債権・債務を有する場合に、その債権と債務とを対等額において消滅させる一方的意思表示をいいます。契約ではなく「権利」です。要は決済の簡略化です。

たとえば、AがBに対して100万円の金銭債権を有し、BがAに対して80万円の金銭債権を有するとします。AがBに対して相殺の意思表示を行うと、Bに対する80万円の債務を免れることができます。つまり、差引計算によりBのAに対する債権は帳消しになり、相殺後は、AのBに対する20万円の債権が残るというわけです。

そしてこの場合、相殺する方の債権(AのBに対する債権)を「自働債権」、相殺に供される方の債権(BのAに対する債権)を「受働債権」といいます。自働か受働かは相対的な概念ですので事例によりいつでも入れ代わります。

自働だの受働だの頭が混乱しそうになる箇所もありますが、頭を柔らかくして読んでみてください。よく分からないようでしたら、何も考えずに丸暗記してしまったほうが意外と楽かもしれません。難易度もそれほど低くはありませんので、ここで深入りするのは得策とは言えません。優先度低めで押さえておきましょう。

相殺の要件(相殺の要件が揃った状態を「相殺適状」という)

1.2つの債権が有効に成立し、かつ、対立していること

時効により消滅した債権であっても、それが消滅以前に相殺適状にあったときは、その債権を相殺に供することができます。逆に、既に消滅時効にかかった債権を譲り受けて、これを自働債権として相殺することは許されません。

2.対立する両債権が同種の目的を有すること

債務の履行地が同一である必要はありません。

3.両債権がともに弁済期にあること

受働債権については、期限の利益を放棄すれば弁済期に達している必要はありません。期限の定めのない債務は、自働債権としても受働債権としても相殺に供することができます。

4.相殺を許す債務であること

・不法行為によって生じた債権を受働債権として相殺することはできない
・支払いの差止めを受けた債権を受働債権として相殺することはできない
・支払いの差止め後に取得した債権を自働債権として相殺することはできない
・相手方の同時履行の抗弁権が付着している債権を自働債権として相殺することはできない

理屈で考えようとすると混乱するところですね。出題されるとしたら割とこのままかと思いますが、一応解説しておきます。

AがBに対してお金を貸していますが、Bはお金を返してくれません。不法行為で生じた債権を受働債権として相殺できるとすると、『お金を返してくれないことを理由にAがBを殴り、Bに損害賠償請求権を発生させ、Aの貸金債権とBの損害賠償請求権を相殺する』ということが可能となります。加害者Aにはしっかり賠償させ、暴力の被害者Bを保護するため、不法行為で生じた債権を受働債権とはできません。被害者Bからの申し出で「自分も悪いしこれでチャラにしましょう」というのはOKです(=不法行為によって生じた損害賠償請求権が自働債権)。

結論として、相殺しようと言い出したAの貸金債権が自働債権、Bの損害賠償請求権が受働債権です。かなりややこしいですが、「Aが暴力振るいBに債権を発生させ」、「それが不法行為によって生じた債権で」、「Aから相殺を申し出るとBのその損害賠償請求権は受働債権となり」、「不法行為によって生じた債権(損害賠償請求権)を受働債権として相殺できない」というわけです。

差止めとは、たとえばAのBに対する債権が、Aの債権者Cによって支払いを止められることです(差押え)。同時履行と同様、これを認めると、差押えという制度が無意味となってしまいます。差押えの実効性を確保するため、上記の相殺は認められません。差押えの前に第三債務者が反対債権を取得していた場合には、弁済期が差押えの前か後かを問わず相殺することができます。

同時履行の抗弁権が付着している債権を自働債権として相殺することを認めると、同時履行の原則が根底から覆されてしまいます。相手方に、強制的に履行させるのも同然です。相手方が催告の抗弁権や検索の抗弁権を持っている場合も同様です(催告の抗弁権や検索の抗弁権については保証債務を参照)。受働債権に抗弁権が付着している場合は、債務者は抗弁権を放棄することができるので、その場合には相殺することができますね。

本当にややこしいので、相殺はそのまま丸暗記が賢明かもしれません.。また、双方に過失がある損害賠償債権相互による相殺も認められません(自動車同士の事故など)。

相殺の方法

当事者の一方から相手方に対する意思表示によって行われます。相殺の意思表示に、条件または期限を付けることができないということを覚えておいてください。

また、当事者間の合意により相殺を禁ずる特約も有効です(=相殺禁止特約)。この特約は善意の第三者に対抗することはできず、特約を知らずに債権を譲り受けた者は相殺をすることができます。

相殺の効果

双方の債権が、その対等額において消滅します。その効力は、双方の債権が相殺適状になったときに遡及して生じるということを覚えておいてください。

1月1日に相殺適状となり、2月1日に相殺の意思表示が行われた場合、双方の債務は1月1日に遡って消滅しますので、この1ヶ月分の遅延損害金は発生しません。自働債権と受働債権の利率が異なる場合でも、利息は問題となりません。頻出ポイントです。

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