宅建業法違反の監督処分と罰則

宅建業法解説:宅建業法に違反した宅建業者や宅建士に対する「監督処分と罰則」についてお話します。過去にお伝えしたことの総まとめなので難しくはないと思いますが、覚えることは多めですね。大変ですが、なるべく分かりやすくまとめてみましたので頑張ってください。

宅建業法違反による監督処分と罰則

監督処分とは?

まず、監督処分と言っても「宅地建物取引業者に対する監督処分」と「宅地建物取引士に対する監督処分」は別物だということをしっかり区別しておいてください。

宅建業者に対する監督処分として、
1.指示処分 2.業務停止処分 3.免許取消処分 があります。

宅建士に対する監督処分として、
1.指示処分 2.事務禁止処分 3.登録消除処分 があります。

大前提としてこれらをしっかり頭に入れ、混同しないように覚えていってください。言葉のイメージ通り、1から3に行くに連れて処分の程度が重くなります。


宅建業者に対する指示処分

指示処分:宅建業者に対し、そのような事態を解消せよ、などと命ずること(任意)

処分権者:免許権者および違反を犯した業務地を管轄する知事

主な該当事由

・業務に関し取引関係者に損害を与え、または与えるおそれが大であるとき
・業務に関し取引の公正を害する行為をし、または害するおそれが大であるとき
・宅建業法に違反したとき
・宅建業務に関して他の法令に違反し、宅建業者として不適当と認められるとき
・宅建士が監督処分を受けた場合において、宅建業者の責めに帰すべき事由があるとき

指示処分に違反した場合は業務停止処分の対象となります。
罰則の対象にはなりません。


宅建業者に対する業務停止処分

業務停止処分:1年以内の期間を定めて業務の全部または一部の行為禁止を命ずること

処分権者:免許権者および違反を犯した業務地を管轄する知事

主な該当事由

指示処分に違反したとき
・宅建業に関し不正または著しく不当な行為をしたとき
営業保証金供託届出前の事業開始(不足額を2週間以内に供託しないとき含む)
新事務所設置に際し弁済業務保証金分担金を納付しないとき
・特別弁済業務保証金分担金を通知後1ヶ月以内に納付しないとき
保証協会社員が還付充当金を通知後2週間以内に納付しないとき
保証協会社員の地位を失った場合に1週間以内に営業保証金の供託をしないとき
専任の宅建士設置要件を欠いたとき(2週間以内に補充しないとき含む)
・従業者名簿を備え付けていないとき
・取引態様の明示義務違反
誇大広告等の禁止違反
重要事項の説明義務違反(書面を交付して説明しなかったとき含む)
37条書面の交付義務違反
媒介および代理契約書面の交付、価額の根拠の明示義務違反
・自ら売主の場合の手付金等保全措置義務違反
手付の信用供与による契約誘引
・限度額を超える報酬受領、不当に高額の報酬要求
・重要な事実の不告知
・不当な履行遅延
・守秘義務違反

これらに違反した場合、処分を受けるのは「宅建業者」です。重要事項の説明を行わなかった宅建士は処分を受ける、といったひっかけ問題に注意してください(説明時に宅建士証を提示しなかった場合は、宅建士が処分の対象です)。

業務停止処分に違反すると、免許取消処分の対象となります。
何らかの罰則の対象にもなります。


宅建業者に対する免許取消処分

免許取消処分:与えた免許を取り消すこと

処分権者:免許権者のみ(=免許をした国土交通大臣または知事のみ)

主な該当事由

・宅建業者が心身故障者・復権を得ない破産者であるとき
・宅建業者が禁錮以上の刑に処せられ、執行の終わり等から5年を経過しない者
・宅建業者が宅建業法違反や傷害罪等で罰金の刑に処せられ、執行の終わり等から5年を経過しない者
・「成年者と同一の能力を有しない未成年者である宅建業者の法定代理人」または「個人である宅建業者の政令で定める使用人」または「法人である宅建業者の役員と政令で定める使用人」が、上記3つのいずれかに該当するとき
・「成年者と同一の能力を有しない未成年者である宅建業者の法定代理人」または「個人である宅建業者の政令で定める使用人」または「法人である宅建業者の役員と政令で定める使用人」が、下記4つのいずれかの者に該当するとき
不正手段による免許取得、業務停止処分に違反するとして免許を取り消され、取消日から5年を経過しない者
・上記の者が法人の場合、免許取消処分の聴聞の期日、場所の公示日60日以内にその法人の役員であった者で、取消しの日から5年を経過しない者
・上記に該当するとして免許取消処分の聴聞の公示がなされ、公示の日から処分決定までの間に解散または廃業の届出をし、その届出から5年を経過しない者
・上記の期間内に合併により消滅した法人、または解散・廃業の届出をした法人の、聴聞の公示日前60日以内に役員であった者で、その消滅または届出から5年を経過しない者
免許換えの手続きを怠ったとき
不正手段により免許を取得したとき
業務停止処分対象行為で情状が特に重いとき
業務停止処分に違反したとき
免許を受けてから1年以内に宅建業務を開始しないとき
1年以上宅建業務を休止したとき

また、以下の3つは任意的取消事由となります。

営業保証金供託の届出の催告を受け1ヶ月以内に届出をしないとき
免許に付された条件に違反した場合
宅建業者の事務所所在地が確知できないとき宅建業者の所在(法人の場合は役員の所在)を確知できないときは、官報等でその事実を公告し、その公告の日から30日を経過しても、その宅建業者から申出がないとき


宅建士に対する指示処分

指示処分:必要な指示をすること(任意)

処分権者:登録を行った知事および処分該当事由が行われた業務地の知事

主な該当事由

・名義貸しを許し、他人がその名義を「使用」したとき
・宅建士の事務に関し、不正または著しく不当な行為をしたとき

指示処分に違反すると、事務禁止処分の対象となります。
罰則の対象にはなりません。


宅建士に対する事務禁止処分

事務禁止処分:1年以内の期間を定めて宅建士として行う事務の禁止を命ずること

事務禁止処分を受けた宅建士はすみやかに宅建士証を交付を受けた知事に提出し、知事は、事務禁止期間が満了し返還請求があったときは直ちに返還しなければなりません。

処分権者:登録を行った知事および処分該当事由が行われた業務地の知事

主な該当事由

指示処分に違反したとき
・名義貸しを許し、他人がその名義を「表示」したとき
・宅建士の事務に関し、不正または著しく不当な行為をしたとき
(指示処分と同じだが度合いによる)

事務禁止処分に違反した場合、その宅建士の登録を行った知事は、登録消除処分をしなければなりません。また、事務禁止処分による宅建士証提出義務に違反した場合は過料に処せられます。


宅建士に対する登録消除処分

登録消除処分:宅地建物取引士資格登録簿から登録を抹消すること

登録消除処分を受けた宅建士は、すみやかに宅建士証を交付を受けた知事に返納する。

処分権者:登録を行った知事のみ

主な該当事由

宅建士登録の欠格要件の1つに該当したとき(「宅地建物取引士」のページ参照)
不正手段により宅建士の登録を受けたとき
・不正手段により宅建士証の交付を受けたとき
事務禁止処分に該当する場合で情状が特に重いとき
・知事の行った事務禁止処分に違反したとき


監督処分の手続き

国土交通大臣または都道府県知事は監督処分を行う場合、あらかじめ処分を受ける者、またはそれらの代理人の出頭を求め、釈明および証拠提出の機会を与えるために公開による聴聞を行わなければなりません。そして業務停止処分または免許取消処分をしたときは、その旨を公告します(宅建業者への処分のみ)。指示処分や宅建士に対する処分に公告は必要ありませんので注意してください。

不正行為 → 聴聞の通知・公示 → 聴聞 → 処分 → 公告

・指導:国土交通大臣は全ての宅建業者に対して、知事はその都道府県の区域内で宅建業を営む宅建業者に対して、必要な指導・助言・勧告を行うことができる(宅建士へは不可)。指導・助言・勧告に法的拘束力はありません。

・報告:国土交通大臣は全ての宅建業者に対して、知事はその都道府県の区域内で宅建業を営む宅建業者に対して、宅建業の適正な運営を確保するために必要と認める場合には、業務についての報告を求め、または事務所への立入検査をすることができる(報告は、宅建士に対しても求めることができる※)。

国土交通大臣は全ての宅建士に、知事はその都道府県で事務を行う宅建士および登録を受けている宅建士に対して報告を求めることができます。

聴聞制度の例外として、宅建業者の事務所所在地を確知できないことを理由に免許を取り消す場合(+宅建業者の所在を確知できないことを理由に免許を取り消す場合)には、聴聞を行う必要はありません。この場合は官報または公報等でその事実を公告し、30日を経過しても宅建業者から申出が無いときに免許を取り消すことになります。

都道府県知事の公告方法:公報またはウェブサイトへの掲載その他適切な方法
国土交通大臣の公告方法:官報のみ
宅建業者に対する監督処分
  免許権者 業務地の知事 聴聞 公告 名簿記載
指示処分 ×
業務停止処分
免許取消処分 × ×
宅建士に対する監督処分
  登録知事 業務地の知事 聴聞 公告
指示処分 ×
業務禁止処分 ×
登録消除処分 × ×


またここでは「報告」にもう一つの意味があり、指示処分または業務停止処分・事務禁止処分(=業務地の知事も可能)を行った都道府県知事は、遅滞なくその旨を免許権者に報告・通知しなければなりません。

甲県知事が甲県知事免許の宅建業者に指示処分または業務停止処分を行った場合  =(自分への)通知不要
甲県知事が乙県知事免許の宅建業者に指示処分または業務停止処分を行った場合  =乙県知事に通知
甲県知事が国土交通大臣免許の宅建業者に指示処分または業務停止処分を行った場合=国土交通大臣に報告
甲県知事が甲県知事登録の宅建士に指示処分または事務禁止処分を行った場合   =(自分への)通知不要
甲県知事が乙県知事登録の宅建士に指示処分または事務禁止処分を行った場合   =乙県知事に通知

最後に難問対策として、国土交通大臣が消費者保護のための規定違反(35条や37条関連など)を理由に処分を行う場合は、内閣総理大臣との協議が必要という点も頭の片隅に入れておいてください。


宅建業法に違反したときの罰則

宅建業法が規定する罰則には、懲役・罰金・過料の3つがあります。2つの異なる罰則をあわせて科すことを併科といいます。主な罰則をまとめておきます。

1.3年以下の懲役or300万円以下の罰金or両者の併科

不正手段による免許取得
名義貸しで他人に営業させた
業務停止処分に違反して営業
無免許営業(宅建業者以外の者)

2.2年以下の懲役or300万円以下の罰金or両者の併科

・重要な事実の不告知

3.1年以下の懲役or100万円以下の罰金or両者の併科

・不当に高額の報酬を要求(要求すること自体)

4.6月以下の懲役or100万円以下の罰金or両者の併科

営業保証金の供託届出前に営業開始
誇大広告
・不当な履行遅延
手付貸与等による契約締結の誘引

5.100万円以下の罰金

専任の宅建士の設置要件を欠く
・免許申請書の虚偽記載
・名義貸しで他人に営業表示や広告をさせた
・報酬基準額を超える報酬を受領した(実際に受領した)

6.50万円以下の罰金

帳簿の備付け義務違反、記載不備、虚偽記載
従業員名簿の備付け義務違反、記載不備、虚偽記載
変更の届出等義務違反、虚偽届出
標識の掲示をしなかった
報酬額の掲示をしなかった
37条書面の交付を怠った
守秘義務違反(従業者も対象)
・大臣や知事の検査拒否

7.10万円以下の過料

・登録消除等による宅建士証の返納義務に違反
・事務禁止処分による宅建士証の提出義務に違反
・重要事項の説明の際に宅建士証の提示義務に違反

科料=刑事罰、過料=行政罰となり、宅建業法違反で10万円以下の過料の対象となるのは宅建士のみです。


両罰規定

両罰規定とは、法令に違反した宅建士等の従業者だけでなく、その従業者を雇用している宅建業者に対しても罰則を課すというものです。

従業者が一定の宅建業法違反で罰金刑に処せられた場合、雇用主である宅建業者も同一の罰金刑に処せられ、従業者が「3年以下の懲役or300万円以下の罰金」「2年以下の懲役or300万円以下の罰金」に処せられた場合、宅建業者は1億円の罰金刑に処されます。

以下、本試験で狙われるポイントをまとめておきます。過料に両罰規定が適用されない点は納得かと思いますが、守秘義務違反が本人だけの罰則となる点には少し注意しておいてください(やや難問)。
違反行為 罰則 両罰規定
不正手段による免許取得 3年以下の懲役or300万円以下の罰金 あり
誇大広告 6月以下の懲役or100万円以下の罰金 あり
守秘義務違反 50万円以下の罰金 なし
37条書面交付義務違反 50万円以下の罰金 あり
重要事項説明時に宅建士証提示義務違反 10万円以下の過料 なし


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報酬計算の応用 住宅瑕疵担保履行法
【宅建試験問題 昭和62年ー問49】宅建士に対する監督処分に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。

1.宅建士が宅建業法に違反して罰金の刑に処せられたときは、1年以内の期間を定めて、宅建士としてすべき事務の禁止の処分を受ける。
2.宅建士としてすべき事務の禁止の処分を受けた宅建士が、その処分の期間中に、宅建業法第35条に定める重要事項の説明をした場合には、当該宅建士は、登録を消除される。
3.不正の手段により宅建士証の交付を受けた宅建士は、登録を消除される。
4.宅建士は、宅建士としてすべき事務の禁止処分を受けたときは、速やかに宅建士証をその交付を受けた都道府県知事に提出しなければならない。
1 誤:宅建業法違反で罰金刑に処せられたときは登録消除処分
2 正:事務禁止処分に違反したときは登録消除処分
3 正:不正手段によって宅建士証を受けることは、もちろん宅建業法に違反する
4 正:「提出」に注意
【宅建試験問題 平成7年ー問50】甲県に本店(従業者13人)、乙県に支店(従業者5人)を有する個人である宅建業者Aに対する監督処分に関する次の記述のうち、宅建業法の規定によれば、正しいものはどれか。

1.宅建業者Aは、本店の専任の宅建士が2人となったときは、直ちに宅建業法違反となり、甲県知事は、Aに対して業務停止処分をすることができる。
2.宅建業者Aが引き続いて1年以上宅建業に係る事業を休止したときは、甲県知事は、Aの免許を取り消さなければならない。
3.宅建業者Aが支店において宅地の売買契約を締結する際、宅建業法第35条の規定に基づく重要事項の説明をさせなかったときは、乙県知事は、A及び支店の専任の宅建士に対して、必要な指示をすることができる。
4.宅建業者Aが支店において宅地の売買契約を締結した場合で、宅建業法第37条の規定に基づく書面を交付しなかったときは、乙県知事は、1年以内の期間を定めて、支店だけでなく、本店における業務の停止を命ずることができる。
1 誤:2週間以内に補充すれば宅建業法違反とはならない
2 誤:取消処分は免許権者のみ(Aは複数の都道府県に事務所があるため国土交通大臣)
3 誤:重要事項の説明は宅建業者の義務であり、宅建士が処分を受けることはない
4 正:業務停止処分は免許権者だけでなく、現場の知事(乙県知事)も行うことができる