手付や買戻しによる解除と対抗要件

宅建試験の民法解説:解除とは、成立していた契約が遡及的に消滅し、契約当事者に原状回復義務を発生させる制度です。つまり、契約を解消して白紙の状態に戻すことです。法律により解除権が発生する「法定解除」と、契約により解除権が発生する「約定解除」があり、出題は多いとは言えませんが、様々な箇所で関連してきますので、民法を勉強する上での常識として頭に入れておきましょう。今まで様々な契約の成立をお伝えしてきましたが、それらがどのように解消されるのか。解消されたらどうなるのか。解除権から解約手付買戻しなどを見ていきます。

契約解除の難問対策

債務不履行を理由とする解除権発生要件

・履行遅滞

債務者が債務を履行しない場合、相当の期間を定めて履行を催告し、その催告期間内に履行されなかったときに解除ができる。期限の定めがない債務の場合、履行の催告=履行期となるため、改めての催告は不要となります。また、定期行為の遅滞も無催告解除が可能となります(解除の意思表示は必要)。催告と同時に解除の意思表示をしておいてもよく、催告を不要とする特約も有効です。同時履行の関係にある場合、履行の提供なしに、催告だけでは解除することはできません

・履行不能

債務者の責任で履行が不能となった場合、催告不要でただちに解除ができる。債務者が履行遅滞に陥っている間に履行不能となった場合、不可抗力によるものであっても債務者の責任となり、催告不要で解除することができます。履行期到来前に履行不能が確実となった場合、履行期を待たずに解除することができます。

・不完全履行

不完全履行とは文字通り不完全だった履行のことですが、履行された不完全な給付が追完を許す場合は履行遅滞に、追完を許さない場合は履行不能となります。追完とは追って補完する、後から要件を満たして(初めに遡り)有効となることです。


解除前の催告

もう一度債務者に履行の機会を与えて、債務者を保護するとともに契約関係の維持を図るもの。債権者は催告に当たり、「相当の期間」を定めなければなりません。

相当の期間とは、既に履行の準備をした者が履行をなすためのみに必要な期間をいい、履行の準備に着手して履行を完了するために必要な期間ではありません。つまり、不相当の期間を定めた催告であっても、客観的に相当だと認められる期間内に債務者が履行をしなければ、解除権が発生します。相当の期間に悩むことなく、催告がなされれば有効に解除権は発生すると覚えておいてください。

尚、その期間を経過したときにおける債務不履行が、契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは解除が認められません。また、催告による解除に債務者の帰責事由は不要となります(債権者に帰責事由がある場合は、債権者による解除不可)。

宅建合格!契約の解除
無催告解除ができるケースまとめ

債務の全部または一部の履行不能
債務者が債務の全部または一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき
債務の一部の履行不能または履行拒絶により残存部分では契約の目的を達することができないとき
特定の日時または期間内に履行をしなければ契約の目的を達することができず、その期間を経過したとき
催告をしても契約の目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかなとき


解除権の行使

解除権は、相手方に対する一方的意思表示によってなされます(相手方の承諾不要)。解除の意思表示をした場合、これを取り消す(撤回)することはできません。正確には相手方の承諾があれば撤回も許されますが、この撤回を第三者に対抗することはできません。

原則として解除の意思表示に条件または期限を付けることはできませんが、「相当期間内に履行しなければ解除する」という条件だけは、相当期間を定めた催告と同義として認められていますので難問対策として頭の片隅に入れておいてください。

当事者の一方(または双方)が数人ある場合、契約の解除はその全員より、または、その全員に対してのみ行うことができます(=解除権不可分の原則)。当事者全員の特約によりこの原則を排除することも可能です。解除権が複数当事者の1人について消滅した場合、他の者についても消滅します。解除権の消滅原因は問いません。


解除の効果

まだ履行されていない債務は、履行する必要がなくなります(債務の存在自体が初めからなくなる)。既に履行されているものがあるときは、お互い返還する義務を負います(原状回復義務)。原状回復によっても償われない損害のある方は損害賠償の請求ができ、両当事者の負担する原状回復義務と損害賠償義務は同時履行の関係に立ちます。原状回復の履行にあたり、金銭債務者は受領の時からの利息を付けて返還しなければなりません(賃料等の受領時以後に生じた果実も返還する)。


解除による遡及と第三者の関係

契約が解除されたことによって、第三者は不測の損害を受けるおそれがあります。売主Aと買主Bの建物売買契約において、買主Bから更にその建物を買ったCさんは、AとBの契約が解除されたらビックリです。この場合のCさんはどうなるか?(=対抗要件・対抗問題)

・AとBの契約解除前にすでに買っていたCさん…Cが登記をしていれば、所有権を主張できます。AはCから建物を取り戻すことはできません。またこの場合、Cの善意・悪意も問題になりません。

・AとBが既に契約を解除していたのに買ってしまったCさん…AとCで先に登記をした者勝ちです。この場合もCの善意・悪意は問題になりません。

契約を解除したのに建物が返ってこないなんて、Aさんがかわいそうではないか、そう思われるでしょうか?Cさんも善意ならば、まだ納得できると思います。問題は、Cさんが悪意の場合ですね。悪意のCと早い者勝ちは納得できません。詐欺の場合は悪意の第三者は保護されず、詐欺にあったら契約を解除するのが普通です。しかし債務不履行の場合は、解除原因があっても実際に解除するかどうか分かりません。そういった不安定な状態であるため、悪意の第三者も保護されるのです。
登記をしないと物権変動を対抗できない者 登記をしなくても物権変動を対抗できる者
二重譲渡の譲受人(善意悪意問わない)
時効完成後の第三者
取消後・解除後の第三者
賃借人
無権利者・背信的悪意者
不法占拠者
詐欺・強迫により登記を妨げた者
相続人


解除権の消滅

・放棄による消滅…解除権は放棄することができます

・催告による消滅…相手方に対し相当の期間を定め解除するかどうか確答すべき旨の催告を行い、その期間内に解除の通知がないときは解除権が消滅します。

・行為による消滅…解除権を有する者による行為または過失により目的物が著しく損傷し、または返還できなくなった場合は解除権が消滅します。加工や改造により目的物を他の物に変えたときも解除権が消滅します。解除権を有する者の行為や過失によらず目的物が損傷した場合は解除権が消滅しないという点に注意です。

・時効による消滅…債権の原則通り、権利を行使することができることを知った日から5年間、権利を行使することができるときから10年間の時効期間で解除権も消滅します。起算点は解除権発生事由が生じたときとなります(債務不履行による解除権は不履行時が起算点)。また、かなり細かい知識ですが、時効を待たずとも解除権の行使はないものと相手方が信じるほどに長い間、解除権を行使せず放置していた場合は信義則により解除権が消滅するとした判例もあります。


手付による解除

手付にはいろいろな種類があるのですが、宅建試験で問題となるのは「解約手付」です。売買契約において手付が交付された場合には、それは解約手付と推定されます。

1.解約手付とは?
解約手付とは、契約に関連して買主が手付金を売主に支払い、買主は手付を放棄して売主は手付の倍額を返還して、自由に契約の解除ができるとする手付をいいます。手付契約は、売買契約と同時にする必要はありません(履行期前なら可)。

2.解除ができる時期
いくら手付契約を結んだといっても、いつでも勝手に契約を解除されては大変です。そこで、手付解除ができる時期が決められています。判例は、「手付による解除は、相手方が履行に着手するまですることができる」としています。つまり、売主が売買の目的物を提供したあとは、買主は契約を解除することはできず、買主が売買代金を提供したあとは、売主は契約を解除することはできないといことです。

注意点:解除ができるのは、相手方が履行に「着手」するまでです。実際に家が完成していなくても、売主が工事を開始すれば履行に着手したといえます。実際に代金を支払わなくても、買主が代金を支払う意思を示せば履行に着手したといえます。もちろん、代金の一部でも支払えば履行に着手したといえます。また、相手方が履行に着手するまでですから、自分が履行に着手していても、相手方が着手していなければ解除することは自由です。

3.損害賠償との関係
手付解除をした場合、損害賠償請求をすることはできません。債務不履行による解除と区別しておいてください。手付契約が結ばれている売買契約が債務不履行を理由に解除された場合、手付金は原状回復義務として買主に返還され、あとは損害賠償の問題となる点とゴチャゴチャにならないように!

宅建合格!解約手付

買戻し

買戻しとは、売主が不動産を売却する場合に、後日買主が支払った代金(別段の合意があれば、その額が優先)および契約費用を買主に返還して、売買契約を解除する特約をいいます。再売買の予約と異なり、一度行った売買を解除するという形をとるのが大きな特徴です。以下、出題ポイントをインプリ風に簡潔にまとめておきます。

・買戻し特約は、不動産に限る

・買戻し特約は、売買契約と同時にすることを要する!(手付と区別)

・買戻し特約は、登記をしておけば第三者に対抗できる!(売買契約と同時に登記

・買戻し期間は、10年を超えることはできない!(10年以上を定めたら10年に短縮

・買戻し期間を定めなかったときは、その期間は5年とみなされる!

・一度定めた買戻し期間を、後から伸長することはできない

・買戻しの際、別段の意思表示がない限り、利息を支払う必要はない

利息を支払う旨の特約は有効ですが、買戻しの際に提供する必要はありません。利息を支払うまで買戻しに応じないよ!ということは許されません。


分かりやすい民法解説一覧ページに戻る
<<< 前のページ <<< >>> 次のページ >>>
地役権の難問対策 保証債務の難問対策