代理の難問対策

宅建試験の民法解説:「代理」の難問解説を見ていきますが、代理は難問を作りやすいところなのでちょっと深めにいきます。難しいという方は「代理の基本」を先に読んでみてください。

代理の難問対策

代理とは

本人にその法律行為を遂行する能力・手腕などがない場合に、他人(=代理人)に代わってやってもらう制度が代理です。つまり、代理とは、「他人の行為」によって本人が効果を受ける制度をいいます。その最も大きな特徴は、普通は法律行為をする者とその効果を受ける者とが同一であるのに対し、これが分かれているという点です。

分かれていない場合は「代位」や「代表」となります(代位は少し触れますが、宅建試験で代表は勉強する必要ありません)。本人が決めた意思表示を伝達するだけの者は代理人ではありません。ただの使者です。お使いです。よって、代理には3名の人物が登場します。

他人(=代理人)の行為によって効果を受ける「本人」、
契約の「相手方」、
本人の代わりに意思表示をなす、または受ける「代理人」です。

代理の問題を解く際には、必ずこの3名を使った三角形の図を頭に描き慣れるまでは紙に書き)、どの部分の関係が問題となっているのかを把握するようにしてください。分かりやすいように、前もってご自分に合った位置関係を固定して練習するようにしておいたほうがいいでしょう。ちなみに私は、上に本人、左下に代理人、右下に相手方という三角形を作っています。

宅建合格!代理

では、代理の要件を見ていきましょう。代理人の行為の効果が本人に生じるためには、

代理人に代理権があり
顕名をして
意思表示(代理行為)をすること

が必要となります。一つずつ解説します。


任意代理・法定代理と復代理

代理には、任意代理と法定代理があります。

・任意代理:本人と代理人の約束により代理権が発生(委任状を交付するのが通例ですが、あくまでも通例で、法的に特定の方式は決まっていません
・法定代理:法律によって当然に代理権が発生(本人が未成年など)

・任意代理人の復任権:任意代理人とは本人の信頼に基づくものであり、いつでも辞任できるため、原則として復任権はありません(例外:本人の許諾あるとき止むを得ない事由あるとき)。任意代理人は復代理人の選任および監督について、本人に対して責任を負います(本人の指名により選任したときは責任なし)。←いかなる場合も、復代理人を選任した任意代理人は、債務不履行の原則に委ねて責任を負うことになりました。
・法定代理人の復任権:原則として復任権を有し、無過失責任を負います。ただし、やむを得ない事由により選任したときは選任および監督のみについて責任を負います。

・任意代理人の代理権消滅事由:本人の死亡破産、代理人の死亡破産後見開始の審判の他、解約告知や委任契約終了による相互解除
・法定代理人の代理権消滅事由:本人の死亡、代理人の死亡破産後見開始の審判の他、親権の喪失宣言や辞任など

本人死亡で代理権消滅の例外として、不動産登記申請の代理権は消滅しないということは覚えておいてください。
  死亡 破産 後見開始
本人 代理権消滅 任意代理:消滅
法定代理:継続
継続
代理人 代理権消滅 代理権消滅 代理権消滅

復代理人とは代理人の代理人ではなく、本人の代理人となります。代理人が復代理人を選任しても、代理人の代理権は失われませんスペアキーを作ってもマスターキーで扉は開く)。復代理人の代理権の範囲は、代理人の代理権の範囲となります(その扉のスペアキーで他の扉を開けることはできない)。代理人と復代理人の授権関係が消滅した場合には復代理人の代理権は消滅し、代理人の代理権が消滅した場合にも、原則として復代理人の代理権は消滅します(マスターキーで開けられなくなった扉はスペアキーでも開かない)。

復代理人が代理行為によって得た受領物は本人に引き渡す必要がありますが、代理人に引き渡した場合でも本人への引渡義務は消滅します。

代理の効果は本人に帰属し、代理人自身は(無権代理や復代理人の選任に過失ある場合などを除き)責任を負うことはありません。本人が、あえて未成年者に代理人になってもらった場合、その未成年者が下手な取引をして損害を被っても自業自得となります。代理人は、未成年者でも成年被後見人でも被保佐人でも被補助人でも構いません。つまり本人は、代理人が制限行為能力者であることを理由に、契約を取り消すことはできません。後で能力者が制限行為能力者となり後見開始の審判がなされた場合は代理権消滅事由となることと区別してください。

また、制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為は取り消すことができます

「代理権がある」の代理権の範囲ですが、たとえばBがAのためにCの土地を購入するとします。しかし、BはCからではなく、AのためにDの土地を購入しました。この場合でも代理権の範囲内の行為となります。代理権濫用として無効となるかもしれませんが、本人Aの真意よりも相手方Dを保護し、とりあえず有効に成立します。


代理の顕名

代理人が代理行為をする場合「本人のためにすることを示して行う」ことを要します。これを代理における顕名主義といいます。顕名は口頭でも書面でも構いません

「本人のためにする」とは、法律効果を本人に帰属させようとする意思を意味し、本人に経済的利益を与えるという趣旨ではありません。よって、代理人が本人の利益のためではなく、自分や第三者の利益のために代理行為をしても顕名が認められ、客観的に代理権の範囲内の行為であれば、その行為は代理行為として有効に成立し、当該行為の効果が本人に帰属してしまいます。しかし例外として、代理人のこのような背信的意図を相手方が知り、または注意すれば知ることができた場合には、本人に効果が帰属しません。

代理人が顕名をしなかった場合は、表意者(代理人)が、「自己のためになしたもの」とみなされます。たとえば、BがAのためにCの土地を購入するとします。自分がAの代理人であることを示さずに(CはBがAのためにすることを知らず、注意を払っても知りえなかった)Cと契約した場合、当該売買契約はBC間で成立し、Aはそれによって影響を受けません。では、その土地が欲しいAはどうすればいいのか?これは無権代理・表見代理で解説します。

顕名あり → 効果帰属先は本人
顕名なし → 効果帰属先は原則として代理人。相手方が本人のためにすることを知り、または知りえたときは本人


代理行為

代理権があり、顕名をすれば、その代理行為の効果は本人に帰属します。ここでの論点は、その代理行為が、きちんとした代理権を伴ってなされたかどうかです。大半は無権代理に譲りますが、ここで代理行為の瑕疵についてだけ触れておきます。

契約の際に意思の欠缺(心裡留保、虚偽表示、錯誤)または詐欺、強迫があったかどうかは、「代理人」を基準に決められます。そして、代理人が詐欺などにより契約した場合に取消権を有するのは「本人」です。代理の効果は本人に帰属しますから当たり前ですね。これは超重要なので覚えておいてください。

また、この例外も重要です。特定の法律行為をなすことを委託された代理人が、本人の指図に従いその行為をなした場合、本人が知っていたか、または過失により知らなかった事情については、たとえ代理人がそれを知らなくても、本人はその不知を主張できない。

たとえば、Aの代理人Bが、本人Aの指定したC所有の家屋を買い受けた場合、代理人Bが瑕疵の存在を知らなかったとしても、Aがその家屋に瑕疵があることを知っていたなら、AはCに対して契約不適合責任を問うことはできません。常識的に考えて当たり前の話ですね。何も知らない代理人を連れてきて悪いことができてしまいます。

婚姻や縁組などの身分行為も代理制度は適用されません。唯一の例外として代諾縁組(親が代わってする15歳未満の子の縁組=法定代理)を頭の片隅に入れておいてください。


自己契約・双方代理の禁止

1.趣旨

事実上1人で契約することになり、正常な法律行為を望めないため(利益相反)

2.具体例

自己契約:買主Aと売主Bの売買契約において、売主BがAの代理人になる
双方代理:買主Aの代理人がCで、売主Bの代理人もCで、CがAB間の売買契約を締結

自己契約のBは、二束三文の物をAに高額で買わせてしまう可能性があります。双方代理のCは、AまたはBのどちらかに肩入れしてしまう可能性があります。よって、利益保護のために、民法はこれらを原則として禁止しています。

3.例外

弁済期の到来した債務の弁済
売買に基づく登記申請行為
本人の承諾がある場合

これらは、本人または当事者に不利益を及ぼすおそれがありません。1つ目と3つ目は簡単ですね。そのままです。2つ目は、簡単に言うと、司法書士の仕事です。すでに決まっている契約を登記するだけなので、双方を代理することが可能です。この3つを覚えておきましょう。

4.効力

無権代理行為となるが、追認によって有効な代理となります(詳しくは無権代理で)。

親権者と子の利益が相反し、特別代理人の選任を要する行為について、
→ 親権者が子を代理して行った場合=無権代理
→ 親権者の同意を得て子が自ら行った場合=取り消し得る行為


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